恋するCatnap 「あ」 縁側に座るイギリスに声をかけようとして、日本は思わず立ち止まった。 この眺めが結構気に入っている、と言った彼に促されて他愛のない話に興じてしばらく。時折当然のように日本には見えない何かと言葉を交わしては同意を求めてくる彼に、曖昧に濁して席を辞してからまだ5分と経っていなかったのだが、開け放したままの障子に凭れて、イギリスは静かな寝息を立てていた。 「……おやおや」 彼を起こさないようにと足音を忍ばせながら、手にした盆をそっと置いて微笑する。 陽気を含む風がイギリスの髪を揺らした。 「綺麗ですね――」 さらさらと零れる金髪に、日本は吸い込まれるように身を寄せる。 閉じた睫毛の同色の柔らかさに感嘆の声をあげた。 (むむ……イギリスさん、意外に睫毛が長い。これ、マッチ何本乗るんでしょうか) 普段あまり凝視することのない場所の意外な発見に感動して、無意識に出しかけた手を慌てて引っ込める。 そんな興味で起こすのはさすがにしのびない。 その代わり、すやすやと寝息を立てるイギリスの髪をそっと取った。 癖のない金髪が、日本の手の中で風に吹かれてさらりとこぼれる。 覗うような姿勢から腰を上げると、イギリスのつむじが見える。普段の二人の身長差ならあり得ない視界の優越に思わず頬が緩んで、日本はまた身を屈めた。 唇にイギリスの柔らかい髪の感触。 起こさないようにと優しく触れるだけのキスをして離れると、日本はまたイギリスの寝顔を覗き込んだ。 「おやすみのキス、って確かこんな感じでしたよね……」 欧米風の過剰なスキンシップに慣れたとは言い難いが、挨拶や親愛をこめたキスというのは随分慣れた。初めて歓待の意でのハグを受けた時にはあれだけ驚いていた自分が、寝ているとはいえ、イギリスにこんなことをするようになるとはまさか思ってもみなかったものだ。 「……ふふ、可愛い」 まだまだ起きそうにないイギリスの寝顔に微笑んで、日本も静かに隣に座った。 障子伝いに仄かな体温を感じる距離で、不用意に触れて彼の眠りを妨げないよう注意を払う。 昼の陽気と木々のざわめきを運ぶ風が二人の間を通り過ぎる。瞼を閉じてそれを感じると、日本にも心地よい睡魔が感じられた。 (なるほど、これは眠くなる) 暑さを補って余りある心地よさに、日本はいつの間にか寝入っていたのだった。 りん、と鳴る風鈴の音をいくつまで数えていただろう。 (――……参った) イギリスはいつの間にか障子伝いに頭を滑らせた日本を肩に感じながら、内心で盛大に呻いていた。 仮にも人の家を訪ねておいて転寝をしたのがまずかったのか。いや、足音に気づいたのに、からかうつもりで狸寝入りに興じたのがまずかったのか。 (これは――前に日本が描いてたサソイウケとかいうやつか……!?いや、違うよな!?クソッ!生殺しだろこれ!) 思わずぷるぷると体を震わす。 「ん……」 「――っと」 それに反応をした日本にイギリスは咄嗟に視線を転じたが、日本は目を閉じたままもぞもぞと頭の位置をずらして、またことんと寝息を立てただけだった。 (なんだその動きは……っ) 力の抜けた日本の重さがたまらない。 閉じた漆黒の睫毛が自分の吐息で揺れそうなこの距離は、幸せなのか拷問なのか。 (あーくっそ、日本睫毛長いな……。何が可愛いだ、可愛いのはお前だバカー!!) ともあれこのまま気持ちよさ気に寝息を立てる日本を肩に乗せたまま、イギリスはこの試練をどう乗り切るべきか、夕焼けに染まる空の下、まんじりとも出来ない激しい動悸に耐えながら、支離滅裂な思考回路で考えるより他にはないのだった。 日本の目覚めはきっとこうww 「あれ、イギリスさん……」 ねぼけー 「お、おう」 ギクシャク 「……おはようございます」 ねぼけー 「お、おはよう」 起きたしいけるか?いけるか? ちゅ (ほっぺに)←意気地なし 「……」 「……」 「え――」 ちょっと覚醒 「あ、挨拶だ!」 すかさず言い訳 「ああ、そうでしたね」 あっさり納得 「…………うん」 泣きそうアーサー これ墺洪でやったら絶対墺が洪にキスし返して終わると思います。 |