あなただけのせい




軋むスプリングと熱の篭った息遣いが、互いに限界が近いことを教える。
「……っく」
内壁の搾り出すかのような収縮と、不規則にきゅきゅっとしまる入り口の快感に堪えきれず、オーストリアからも艶めいた呻き声が漏れた。背中に回されたハンガリーの腕に震えながら力が篭り、指先が食い込むのを感じる。ちり、とした痛みにすら愛しさが溢れ、張り詰めた自身が叫んでいた。
「ハンガリー」
「あ、は、オ……オースト、リアさっ」
自分の胸板でハンガリーのたわわな胸を押し付けてこすり上げると、いやいやをするように頭が振られた。
突き上がる快感の行き先が分からず、ハンガリーがあえぎの合間に、ただオーストリアの名前を呼んだ。
そんな彼女の額にかかる乱れた髪を乱暴に梳かして、オーストリアは捉えた頬に唇を充てた。
上気した頬に汗ばんだ肌。
間近でより情欲をそそられるハンガリーの唇を求める。
苦しげに乱れる互いの息を、貪るように奪い合い、絡んだ舌から隙間を奪った。
そのまま舌で顎を辿り、反らす彼女の首筋を食む。
「ハンガリー……ッ」
「ひぁぁっ!」
ぐっと深く腰を進めると、ハンガリーの体がびくりと大きく跳ねた。
腕にも足にも力が入り、オーストリアを締め上げる。
「くっ……、は……っ」
オーストリアもハンガリーをきつく折れそうなほど抱きしめながら、誘うように蠢く彼女の奥へ、想いのたけを叩きつけるように吐き出した。高い嬌声とともに、大きく背中を反らせたハンガリーの体から力が抜ける。
その背と頭を抱えるようにして支えながら、オーストリアも荒い息を彼女の肩口に鼻を埋めながら震えるように整えた。


しばらくそうしてハンガリーを抱いていたオーストリアだったが、やおら肩口に彼女の手を受けて我に返った。
さすがに重かったかと体を起こしかけて、しかしハンガリーから制止の声がかかった。
「あっ、ま、待ってください」
「……ハンガリー?」
肘で体を支えて、少しだけ体を浮かせる。
「もう少しだけこのままで……ダメですか?」
「……このまま、ですか?」
濡れて繋がった部分を軽く動かせば、ハンガリーの腕が、またオーストリアの首にするりとかかった。
ぴくりと体を揺らしたハンガリーが唇を小さく尖らせる。
拗ねたように見上げてくる瞳が可愛くて、オーストリアは微笑すると瞼にキスを落とす。
それから両耳へ汗ばんだ髪を優しく梳いた。
「……私、オーストリアさんが好きです」
気持ち良さそうに摺り寄るハンガリーの告白に瞬き、彼女の耳元へゆっくりと唇を寄せると、「私もです」と囁く。するとハンガリーはくすぐったそうに肩を竦めてくすくすと笑った。
「なんです?」
「いえ。なんだか、こんなに乱れて色っぽいオーストリアさんの声にクラクラしました」
「……馬鹿をおっしゃい」
からかい交じりの彼女に軽く眉根を寄せてたしなめる。
だが懲りた様子のないハンガリーは、オーストリアに回した腕をするりと解くと、自分を見下ろすオーストリアの頬に伸ばした。
ほどよく冷えた指先がオーストリアのおりて汗を湛える前髪を梳き、横に流し、くしゃりと撫でる。
「ホントですよ?」
「……」
見つめるハンガリーは微笑だが、その視線は真剣で、彼女の顔が何かを求めるように少し近づく。
ハンガリーの手が、オーストリアの後頭部を優しく押した。
請われるままにキスを送る。
何度目かの啄ばむようなキスのあと、角度を変えて薄く開いていたハンガリーの唇へ、吐息とともに舌を差し込む。ハンガリーは、ん、と喉を鳴らしたが抵抗はなかった。
髪を掻き分けるハンガリーの指を感じながら、オーストリアも彼女の長い金糸を乱す。
長いキスの後で、一瞬の隙をついたオーストリアは、一気にハンガリーの腰に腕を回すと、ベッドの上を転がった。
「――きゃっ」
急な転換に驚いたハンガリーが悲鳴を上げる。繋がった部分がきゅっと締った。
「貴女も随分乱れていますよ、ハンガリー」
「そっ、それは――」
くすりと笑みを溢して言えば、ハンガリーが慌ててオーストリアの胸板を押した。
その手を掴み指先を舐める。
「――ぁ」
オーストリアの上で、ぴくりと震えた体と、漏らされた声に目を細める。
「……貴女のその声も、表情も」
逃げようとする手首を少し強引に引いて、オーストリアは上半身だけ起こすと、ハンガリーに見せつけるようにゆっくりと丹念に指を舐めてやった。
何かに耐えるように目を伏せるハンガリーの頭を開いた手で優しく撫でながら、その様子を見つめる。
「クラクラしますね」
「オーストリアさ、ん」
至近距離でハンガリーの濡れた指だけを挟んで見つめ合う。
上気した頬でハンガリーの潤んだ瞳が、オーストリアを求め始めていた。
「あ、あの……」
「動いていいですよ、ハンガリー。わかるでしょう?」
「ん……」
ほら、と軽く腰を揺すれば、既に中で起立を取り戻した自身をくわえ込んだままのハンガリーが、もどかしげに息を漏らした。
「私を乱すのはいつも貴女ですよ、ハンガリー。いけない人ですね、貴女は」
「わ……私、が乱れるの、だって……」
見つめ合って、下から軽く突き上げるオーストリアに合わせて、ハンガリーも腰を揺らし始める。
「オ、オーストリアさん、のせ――」
途切れ途切れに快感を追って、舐められている指を引き抜こうとしたハンガリーを、オーストリアは手首を引いて抱き締めた。
「――私のせいでしょう?」
「ひぁ!」
突然の引力に凭れるハンガリーの腰を掴んで下におろす。同時に自分の腰を突き上げると、ハンガリーがオーストリアにしがみつくようにして嬌声を上げた。
「それ以外は許しませんよ」
「や、あ……っ、いきなり……ッ」
「……失礼。あまりに可愛かったもので」
ハンガリーの胸がオーストリアにしがみつきながら、どくんどくんと高鳴っている。


許しを請うようにひっそりとそう言って、また腰の動きを緩慢にする。
と、ハンガリーが上目遣いでオーストリアを睨んだ。
「い、いじわるですっ」
「それはすみません。優しくします。どこがいいですか?」
慇懃な口調で言って、また一度、激しく突く。
「オ、オーストリアさ……っ。あ、あ……!い、いじわる……!」
涙声と嬌声の混じった声音で、ハンガリーがきつくオーストリアにしがみついてくる。
これ以上は可愛すぎるしかわいそうだ。
汗のにおいを鼻腔に感じながら、オーストリアはハンガリーの首筋に痕をつけた。
唇を離し、舐めて、また吸う。
「……ハンガリー、どうぞ……?」
「ん……あ」
優しく囁き、今度は太腿を撫でるようにして触れながら、ハンガリーから動きやすいように、ゆっくりと腰を揺らしてやった。
それから深くキスをする。
互いに抱き合う格好で、次第にハンガリーの腰がリズムを取り始めた。
甘さを増したハンガリーの息が、唇から漏れる。
それに合わせて、時にわざと拍をずらしながらの突き上げを送れば、ハンガリーの抱き締める腕が強くなった。張り詰めて駆け上り始めた甘い情動を感じながら、オーストリアはハンガリーを抱く腕に負けじと力を篭めたのだった。



END


たまには攻貴族。
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