やきもち



荒々しい息を吐いている時でさえ、艶っぽいのは正直口惜しい
そんなことを考えていたからだろう
「――ぐっ」
肩で息を整えながら、首筋に労わるようなキスをされて、しかしハンガリーはその場の雰囲気にそぐわない低い呻きで応えてしまった。
しっとりと汗ばんだ互いの肌をいまだ密着させてはいるものの、今の呻きのせいで隙間風のような沈黙が落ちる。
「……今のは」
唇をつけたままのオーストリアもさすがに怪訝に満ちた声音で訊ねた。
「新境地の喘ぎ声ですか」
「どんな声ですかそれっ」
抱きしめる腕の意外な逞しさを思わず叩いて抗議を示す。
と、オーストリアは喉の奥で笑いを噛み締めるようにくつくつと肩を揺らした。
「もうっ。笑い事じゃないんです」
「ではどんな事だと?」
「それは――」
どの口で、喘ぐ貴方が色っぽくて悔しいなどと言えるだろう。
言葉を探して眉を顰めると、その気配を感じたのか、オーストリアが体を浮かせて、ハンガリーの前髪を掬った。
額を合わせて覗き込まれる。鼻先が触れた。
「――だから――」
ハンガリーを見つめるその深い紫の瞳が。
輪郭をなぞる長い指が。
触れ合うぎりぎりで、掠める様に吐息を吐く呼吸が。
「……ずっっっるいです!」
「――ぐっ」
叫んだ勢いに任せ押し返した掌につられて、ハンガリーの右膝がオーストリアの下腹部で跳ねた。
膝になにか身に覚えのありすぎる感触がして、思わず固まる。
「……え、ええと」
煩悶するオーストリアのその姿は、覗き込むのさえ憚られた。
「……ッ……」
ハンガリーの顔の横に両肘をつき、肩を戦慄かせるオーストリアを見れば、更にかける言葉が見当たらない。ごめんなさいと素直に謝れば、妙なラインでオーストリアの矜持を刺激してしまう予感がして、ハンガリーは別の言葉を探して声を上擦らせた。
「――し、新境地の喘ぎ声ですか?」
「……そ、んなわけないでしょう、このお馬鹿さんがっ」
眉間に滅多にないほどの皺を寄せ、涙を溜めた紫の瞳すら艶っぽい。
口惜しさに滲む微小な征服感が去来して、ハンガリーはぶるぶると首を振ると、心中で盛大にオーストリアへ謝罪した。




END




全年齢向けだと言い張ります。

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