ずれて重なるティータイム



連日猛暑の中の、休閑のような新緑の夏。
向かい合わせで、本来の組合せで座ったオーストリアとイギリスは、 互いに自分の隣の席を諦めに似た視線を投げると、本日何度目かわからないため息をそっと吐き出した。
「私、夏の新刊はこの方向で出したいと思うのですが」
「いいと思います。特にこの攻キャラの鬼畜っぷりがいいですよね。この……ここの台詞とかぐっときます」
「ありがとうございます。そこは、如何に萌える鬼畜ぶりを魅せるかで数日プロットにかかりきりだったところです」
「流石です、日本さん!それでこの受けの表情だなんて、反則萌えですよー!」
「いえいえ。ハンガリーさんの的確なダメだしがあってこそです」
「そんな、私なんてゲストでショートを書かせてもらえるだけで嬉しいです。もう毎日ネタ妄想で頬緩みっ放しというか」
「ああ、わかります!脳内補完、脳内妄想は侵しがたい至福の時なんですよねえ」
「そーなんですよ!日本さんならわかってくれると信じてました」
テーブルを挟んで向かい合う日本とハンガリーは、先ほどから感覚の及ばない話で盛り上がっている。
それはもう、彼らの目から見ると異常なほどに。
昼下がりのオープンカフェで偶然に出くわした時には、それがまさか数時間を超える熱い談義にまで発展しようとは、オーストリアもイギリスも思いも寄らなかったのだ。


「おいオーストリア」
「なんです」
何杯目かの紅茶に口をつけながら、イギリスが視線も合わせず名前を呼んだ。
それに答えるオーストリアも、ザッハトルテを刺すフォークから目を逸らさない。
「何とかしろよ」
「貴方がしてくださいよ」
「……ぐっ」
さらりと返されて、イギリスが言葉に詰まった。
音を鳴らして置かれたティーカップの中でこぼれそうなほど紅茶が揺れる。
「俺に出来るわけねえだろ!」
思わず声を荒げたイギリスは、我に返るとちらりと隣を見やったが、 まるで聞こえていないのだろう日本の珍しいほど嬉々とした様子に、明らかな落胆の色を浮かべて肩を落とす。
それからぼそぼそと小さな声で、オーストリアに話しかけた。
「お前は――なんだ、その、結婚してたじゃねえか、ハンガリーと。だからお前が何とかしろよ」
「何ですかその理由」
無理やりすぎる理屈だろう。
言われたオーストリアもさすがに眉を顰めてイギリスを見る。
渋面でそっぽを向いて腕を組むイギリスを前に、オーストリアは眉間の皺に手をあてて嘆息した。
「貴方が何とかすればいいでしょう。休日にこうして二人で出掛けるほどの仲なんですから」
「おおお俺達のことはいいんだよ!」
矛先を向けると、イギリスは真っ赤になりながら、テーブルに拳を叩きつける。
誤魔化すように紅茶をあおると、乱暴にソーサーに戻し、オーストリアにふんと鼻を鳴らした。
「ハンガリーはお前の言うことなら聞くんだろうがっ」
「そんなことありませんよ」
即座にオーストリアが否定する。
「もしそうなら、どうして3時間以上も貴方とこうしていなければならないんですか、この御馬鹿さんが」
淡々と、しかし親の敵でもとるかのように垂直に突き立てたフォークで、ザッハトルテを口に運ぶ。
「イギリス、貴方こそ日本にそろそろ切り上げるよう話してみたらどうです?」
「だから、俺に出来るわけあるか」
「何でそんなに自信満々なんですか……」
即答で否定したイギリスに、オーストリアが呆れた声を出した。が、それには答えず、イギリスはオーストリアの方へ身を乗り出すと、目だけで日本を示しながら、小声で怒鳴った。
「見てみろ。普段めったな事じゃ表情崩さない日本が、あんなにキラキラ輝いた笑顔になって……。アレをお前、そろそろやめろとか俺に言えっつーのか!?」
「貴方、私にはそれを言えとおっしゃってたんですが」
「そんなことして、俺が日本に嫌われたらどうしてくれる!責任取れるのかオーストリア!ああ?」
「…………」
無造作に胸倉を引き寄せられた嫌悪より、彼の理不尽な言い草に半眼で見つめる。
オーストリアの態度に対抗するように、イギリスも視線を窄めてさらに彼に詰め寄った。
「その点ハンガリーならお前を嫌うなんてことないだろうが」
これは肯定するところだろうか。少しの間逡巡して、しかしオーストリアは質問で返した。
「日本は貴方を嫌うんですか」
「――――」
言った瞬間、イギリスがぐっと言葉に詰まった。
と、同時に外された視線に光るものを見つけて、オーストリアが慌てて声をあげる。
「な、ちょっ、この御馬鹿!何でそこで泣くんですっ」
「な――泣いてねえっ!!」
オーストリアから手を離すと、そっぽを向いてぐいっと両目をこすり上げて怒鳴ったイギリスは、 ピクシーが目にぶつかったんだと言いながら、オーストリアの手を跳ね除けたのだった。


そんな二人のやりとりを新刊の話題で盛り上がりつつも、つい視界の隅で追っていたハンガリーは、緩みそうになる頬を抑えながら思わず呟いた。
「別れ話のもつれフラグ……」
「墺英ですね。しかしいまひとつ物足りない気が」
突然の呟きにもさらりと返されて、ハンガリーは遠慮なく頬を緩めた。
レモネードにさしたストローの先を弄りながら、思案顔の日本に首を傾げる。
「うーん、日本さんは英墺の方がいいですか?」
「いえ、そのCPならばやはり墺英でいいかと。……しかし私としては、米英や仏英の方がフラグを立てやすい気が」
「あら、ちょっと意外でした。日本さんはイギリス受けなんですね」
「ええ。――二次元でくらいは」
間を置いてそう言った日本は、意味ありげな視線をちらりとイギリスに送り、それからハンガリーに微笑を戻した。つられてハンガリーも同じように隣を見やり、にこりと笑顔を日本に返す。
「……ふふ。わかります」
結局は溜息を付き合うオーストリアとイギリスの隣で、二人はなごやかに微笑を交わし合ったのだった。


END




英日+墺洪でオタク談議です。
相互リンク記念に勝手にまこ様へ……!す、すいません、よろしければ……!

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