ソファの上




オーストリアさんの横顔を見ていると、不意に不安に駆られることがある。
「……どうかしましたか?」
「え」
思わずじっと見ていたら、オーストリアさんに不審がられてしまった。
慌てて顔の前でぶんぶんと手を振る。
「いいいいえいえ!すいません!格好良いなあと思って!」
「……ずいぶん豪快な告白をありがとうございます」
私の挙動をしばらく感情の篭らない目で見つめていた彼が、やはり淡々とそう言って、眼鏡の縁を右手の中指でくっと持ち上げた。その仕草はやっぱりどこか決まっているのに、表情が隠れたせいで、私の胸がきゅっと詰まった。呆れられたのかもしれない。というより、毎回毎回バカみたいな私の態度に、オーストリアさんはいつも本当は呆れているのかもしれない。
好きだとか格好良いとか、思うのはいつも私の方で。側にいられるだけでいいと思ったのはそんなに昔のことじゃないはずなのに、いつの間にか貪欲になっている自分が恥ずかしい。
オーストリアさんの物静かな横顔は格好良くて、だけど、だから、私が隣にいてもいいのか不安になるのだ。

「……どうかしましたか」
自分の思考に没頭して俯いていた私に、オーストリアさんからまた同じ質問をされた。
「い、いいえ!」
今度は何て答えたら。
慌てて顔を上げたのはいいが、次の言葉が出てこない。
「……っ、」
どうしよう。これ以上は絶対変に思われる。
喉の奥が張り付いたようになって、笑顔で誤魔化すことも忘れてしまう。
焦りだけが募って、何だか目元が熱くなってきた。
「――まったく」
オーストリアさんの呆れたような呟きで、余計心に焦りが生まれる。
「ふえっ!?」
と、いきなりオーストリアさんの吐息を目尻に感じて、私は素っ頓狂な声をあげてしまった。
今……今、私にキスをしました?

「……貴方が何を考えているのかわかりませんが」
唇を離すと、オーストリアさんは心底溜息を吐いて、私に額を当てた。
「そんな、泣きそうな顔になるほど私は貴方を困らせましたか」
「え、――えっ」
「言ってください、ハンガリー」
それはまるで強請るような響きさえ含んで、間近にあるオーストリアさんの眉間の皺さえ艶っぽい。
「不安で仕方がありません」
眼鏡の奥から、少し上目遣いで私を見る視線に強請られて、私の心臓が忙しない音を立て始めた。
「だ」
「……だ?」
貴方が私に不安だなんて、まさかそんな。
薄く震える口を開けると、追従するようにオーストリアさんが聞き返す。
「大好きです……」
「――」
それ以外に言葉が出ない。
やっぱりバカの一つ覚えのような私の告白にオーストリアさんは目を丸くして、それから私を掬い上げるように抱きしめた。
「私もですよ、ハンガリー」
今度は耳元に囁くような吐息と声が。
不安が愛しさと切なさに変わる瞬間なんて、言葉では到底表しきれない。



END



お互い好きで好きでたまらない夫婦熱望。
1 1