After Party

恒温動物とはいえ、一定温度に達するまでは、外気はあきらかに体温を奪っていく。
寒い。 はっきりいってかなり寒い。
いくら熱吸収率の高い黒で全身を包み込んでいようとも、既に太陽が西の彼方に沈んでいては意味をなさない。頭皮を実用性の全く感じられないふざけた形状の帽子に保護されていようとも、どれだけ顎に添えられた手がむやみに熱を発していようとも、その手でマントや髪が揉みくちゃにされていようとも。気温は容赦なく夜の帳を引き連れて下降の一途をたどる。
風が侵入するのを歓迎するかのようにヒラヒラ不必要に揺れ動くスカートなんて着ていれば、それは余計に強く感じられて仕方がない――――はずなのに。


「――…っん…はッ」


たった一つ熱を発し続けるロイの吐息が触れるだけで、シャンパンをボトルで一気に流し込んだくらいに眩暈がする。
顎から上って頬を幾度もなぞる男性特有の骨張った大きな手で、時折乱暴に上向かされて嘔吐きそうになるのすら、寒さから身を守る自衛手段なのだと受け入れてしまう自分が怖い。

外で、闇で、上官と。

今の自分の思考回路じゃ背徳心すら快感という刺激に繋がってしまうのだろうか。
と、考えた矢先に舌先にチリとした痛み。


「い……っ、た、いさ――」
「――――ッは……スマン……」


半開きの口で苦言を呈せば、柄にもなく肩で息をするロイと目が合った。
バツが悪そうに細められる。


「……取るの忘れてた」


たった今までリザの口腔を弄っていたそれで、犬歯につけられた鋭い牙を確かめるようになぞっていく。どういった仕組みで装着したのかリザには全く理解できなかったが、おいそれと取れるものではないらしい。見た目に継ぎ目が分からない。
変なところで凝り性のロイだから、もしかすると錬金術でも使ったのかもしれない。

僅か眉を寄せ、どうしたものかと邪魔者になり下がった犬歯に触れるため動かされたロイの手が、リザの頬を離れた。
途端、忘れかけていた冷気が体に発生した僅かな隙間に一斉になだれ込んでくる気がして、リザはロイの手を掴む。


「中尉?ちょっと、ま」
「血」


少し無理矢理ロイの口に指を突っ込んで、先程リザから熱を奪った原因に触れた。
瞠目しているロイを見上げて指を抜く。


「吸わないで下さいね」


外は寒いからもう少しだけ。
冷めることのない熱をもとめて、リザは尖る先端に舌を這わせた。

こんな格好で外に出させた貴方の責任を取って下さい。
夜風に体温が奪われないように。
大きな貴方の外套なら、せめて肌にあたる冷気だけは防げるのだから。


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