Please let me protect XXX.





「大佐には言わないで」
「言わないわけにはいかんでしょ。どうすんですか」

リザの懇願を素気無く否定して隣に座る彼女を見れば、珍しくおろされた金髪が揺れた。
病院の待合室で煙は御法度。
本来なら絶対好きこのんでいたくもないし、実際あまり縁深い場所ではないのに。
そこに本来ならあり得ない女とあり得ない理由でいるなんて――――
後ろに並んだ長椅子に座る母親の腕に抱かれた子供のむずがる声がして、一瞬彼女がそちらに気をとられたのが分かった。

「……仕方がないから仕事は休むわ。でもなるべく早く戻るから、それまでよろしく」
「それは全然構わないんスけどね?だいたい早くっつっても限度あるでしょうよ」
「…………」
「バレますよ。絶対」

当たり前だ。
これがバレないなんてあり得ない。
もしも一生気付かなかったら、あの男は相当馬鹿で阿呆でどうしようもないことになってしまう。
仮にもついていくと決めた上司がそんな無能では、本当にやってられないのだ。
だのに黙っていようだなんて、いつもクールにシビアな判断をくだしてきた我らが上官殿の台詞とは到底思えない。
女性ホルモンのバランスっていうやつはやっぱり影響あるんだなあ、とか考えてしまった。
隣で一瞬ふくれっつらをして見せたリザを、可愛いと思ったことが知れたら自分は消し炭にされると確信する。
それ以前に彼女とここにいることが知れたらと思うとゾッとする。

「そのうち――」
「――っていつっスか」
「…………今日はやけに冷たいんじゃない?」

同じ、というよりは彼女の方が少し線の細さを感じさせるブロンドに、鳶色の視線が拗ねたような色を湛えられている。
このシーンだけでも自分は極刑ものなんだろうなと思うと、目の前の女の可愛らしさが空恐ろしく思えてきた。

「オレの命がかかってますからね」
「命?」
「オレの子だなんて言ったら、絶対殺されますって」

先程リザが医師に父親の名前を告げたとき、それが自分のことだと自覚するまで目の前で鳩が飛び交っていた気がする。
殺す気ですか、と叫ばなかった自分を褒めてやりたいところだが、事の重大さにそれから少し本気で青褪めてしまった。
自分から血の気の引く音が聞こえる。
こういう表現は決して安易な比喩なんかではなかったのだと思い知った。

「大丈夫よ。あの人、貴方のことかってるから。こんなくだらない事で殺したりなんかしない。
 ――殺されるとしたら彼の信頼を裏切った私と」

ふ、と空虚な微笑を浮かべ、視線を落とした。

「その証拠」

そう言って、いとおしそうに細く華奢な指先で腹部を撫でる。
物騒な台詞と対峙する奇妙な美しさがそこには感じられた。

「……ホルモン狂いすぎですよ。ていうかマジでオレ、五体満足でいられる自信ねぇ」

大袈裟ね、と俯いてしまった頭をまるで子供をあやすみたいに撫でさしてくるのが怖い。
余計な恐怖を与えているとは露にも思わないらしい。
思えば彼女はこういう女なのだ。
そういう危険な女だと知っていたはずなのに、誘われて頼まれて、こんな状況に陥ってしまった自分が情けない。

「何言ってるの。頼りにしてるわよ、お父さん?」
「………………それ、あの人の前でだけは絶対に言わんで下さい。頼んます。マジで」

洒落にならない台詞を茶目っ気たっぷりに言われて、長椅子の下に思わず土下座しそうになった。
リザは事の重大さを分かっていないんじゃないだろうか。
彼女の口からこのことがどう告げられるのか想像し難い現実ではあったが、
それでも騙し通すことは無理だと、今はリザより随分と冷静な判断を下す脳味噌が告げている。
しかしおそらくは、自分や彼女が真実を伝えるより早く、彼の耳には届くのだろう。
噂は千里を駆け巡る。
しかもそれは醜いほどに肥大して。



上官の不在中に、彼の女を孕ませた男として。








雑記

こんな感じでダークロイアイ。
でもロイアイ。決してロイアイハボではなくロイアイ(笑)。
続きます。たぶん。


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