Please let me protect XXX.――3





「大佐?何か不備でも?」
「不備…だろうな」


ロイの変化を目聡く見つけ問うリザに苦笑して、ロイは書類を向けた。
形だけの休暇返上届には、リザの署名以外不備になる箇所も見出せなくて、
リザの視線が疑問を問うている。


「『リザ・ホークアイ』になっている」
「はい――それが何か?」
「…………」


まるで分からないといった風のリザに間の抜けた返事を返されて、
ロイの方が口篭もってしまった。
この訂正を最後まで言わせる気かと思うと、苛立ちすら覚える。
それとも本当に気づいていないのだろうか。


「――『ハボック』だろう」
「少尉?彼がどうかしましたか」
「あいつじゃない!だから君が――――!」


リザの態度に思わず声を荒げそうになり、ロイは大きく息を吐いた。
ともすればあがりそうになる息を整え、リザを真正面から睨み付ける。
忌々しい。
もしこれがわざとなら、本気で。


「『リザ・ハボック』、だろう。君は」


妊娠して。子供を産んで。相手が奴だというのならそれは。
しかしリザは一瞬本気で呆けたような顔をして、それから思いついたように「ああ」と小さく呟いた。
噛みあわない言動に、ロイは毒気を抜かれた気分だ。


「間違いではありません。籍は入れてませんから」
「……何?」


さらりと吐かれた発言に、今度はロイの方が呆けた顔をしてしまった。


「入籍をしていませんので、ホークアイでいいんです」


意味が掴めなかった。
何だ?子供を産んで籍を入れずにいる利点――――?
税対策でも補助体制でも、ましてや今後の彼女の体面を考えたとしても、
私生児を抱えた女でいるよりはるかに優遇されるはずだ。
何より、相手がこうも実しやかに知れ渡っているのだから、どちらにしてもいい噂の種だろうに。
それでもハボックはまだ男だ。
バカな男と好奇の目を向けられるだけで、そのうち笑いの種になる。
だが常に傍にいることで上官であるロイの夜伽の女というレッテルを貼られていたリザにしてこの状況――
――相手が上官でないという事実が、余計にリザを嘲笑の対象とする者達の口を軽くするだけだ。


「何故」
「少尉にそこまで迷惑はかけられませんし」
「迷惑?」


まるきり予期しなかったリザの言葉に、ロイは眉根を寄せた。
迷惑と言ったのか、この口は。
リザとハボックのことを、自分が口にするのはおかしいと理性で判断しつつも、止められない。


「何の迷惑だ。馬鹿も休み休み言いたまえ。まさかあいつがそう言ったのではあるまい。そんな――」
「少尉には恋人がいるんですよ、ちゃんと」


次第にヒートアップしてきそうな予感を捉え、リザから少し早口で伝えられた鎮静剤は、
しかし起爆剤へと点火した。


「ふ――――ざけているのか、君は!!恋人がいる?君以外の?それで何故君にアイツの子供ができる!?君は――」


そんなにやすい女だったのか。
叫びそうになって、ロイはマガホニーの机を一度大きく叩きつけた。
どういうことだ。分からない。


「――そういうことだって、あるんです」


やるせない怒りで震える拳を見つめていたロイを、リザが静かに遮った。
いっそ底冷えのしそうなリザの冷静な声音が、熱くなっていたロイの体温を静める。
貴方には関係のないことでしょう?と暗に責められているような気がして、続ける言葉も見当たらない。
事実、確かにその通りなのだ。







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