Please let me protect XXX.――4





初めて彼女を抱いた時のことを幾度思い出しても、愛しいとか思いやるとかの感情は見当たらない。
ただ、抱かなければどうにかなってしまいそうだった。その感情だけに支配されていたのだと思う。
イシュバール戦で、気が違えるほどの殺戮を繰り返して、それでも自分たちは血の通う人間なのだと、
どんな理由でもいいから実感するには、その方法しか思い当たらなかった。
部下で女で、それだけが理由ではないかもしれないが、それでもあの時一番近くにリザがいた。
そしてその始まりは彼女もロイと同じだったのかもしれない。
戦場で喘いで体温のない死体の側で体温を求めて、感じて、涙を流して、それで互いを保つ関係なんて、
どこか狂っていなければ成り立たないのだから。

なまじ国家錬金術師である若い仕官の相手と噂があれば、おいそれと口には出さずとも好奇の目は避けられない。
ただし、仕官が焔の錬金術師であるという事実からか、リザに直接手を出そうとする莫伽者は、生憎長いこと現れなかった。
少なくとも戦場ではあり得なかったし、そうして終焉後も、二人の関係は続いていた。
ただ貪り合うような性の交換に終始していた関係が、ロイの中で独占欲を擡げるように変化していただけの話だ。




傍に――――


それだけを強く望んでいた。
盲信的にロイに忠誠を立てるリザの心がロイから離れることはないことくらい、疑問の余地もなかったが、
それと同じように他の男の下で喘ぐリザを、ロイは都合よく想像したことすらなかった。

本当はリザがロイとの関係をどう思っていたかなんて知らない。
好きだとか愛してるだなんて、結論を出す言葉も怖くて言ったことがないような気がする。
リザからもそんな感情めいたことは聞いたこともなかったし、もしかするとリザには本当は誰でも良かったのかもしれない。
だがロイは違う。
誰でもいいなんて、考えたことはなかったのに。

こうしてロイと離れた間に、無断で他の男と――しかもハボックとだなんて。
裏切者と糾弾できる立場でも、浮気と罵れる関係を築いていたと言い切れる関係でもない。
強い絆で結ばれすぎて、非常に危うい関係だったことを思い出した時には何もなす術がないのか。
この感情をどう表現すればいい。


「君は……」
「――確かに妊娠は予想外でした。そんなつもり、なかったんです」
「だったら何故」


産んだんだ。好きでもないなら何故。――何故、アイツなんだ。
セントラルでも有名なフェミニストが情けない言葉を口走りそうで、口を噤む。
縋ってしまえれば楽かもしれない。
しかし、それで中尉としての彼女まで失うのかと思ったら、体が震えた。


「彼にもそんな気は毛頭なかったことも知っています」
「――リ」
「でも」


名前を呼ばれるのを拒むようにリザは続けた。


「産みたかったんです。馬鹿みたいですけど」
「……後悔はないんだな?」


だったらそれは奴を想っているってことなんじゃないのか。
真っ直ぐ痛いほどにロイを見据えて告げられた覚悟に、机の上で組んだ両手で額を覆い、促した。
冷静沈着で恐ろしいほど現実主義なリザが、後先考えずにそうと願ったのなら、
ロイが口を挟む余地はもうどこにもないではないか。
ハボックの前では悠然と保てていたポーカーフェイスがくず折れそうになる。
愛していると、抱き締めたこともないくせに身勝手な男だ。
目頭が熱い。


「分かりません。でも、今はしていません」


そうか、とだけ呟いてロイは書類にサインを入れた。
下手な笑顔だろうな、と自嘲しながらリザに手渡し扉へ誘導すると重い扉を押して、優しく退出を促す。
本来ならまだ休暇を取って然るべきの部下を気遣う、優しい上官の顔をして。


「――大佐、」


出て行きかけたリザが、一瞬縋るような表情でロイを振り返った。
息が詰まりそうになる。
そんな顔を安易にするものじゃない。まだ君の全てが傍に在るのだと、錯覚しそうになるじゃないか。
しかし次に小さく告げられた台詞に、ロイは今度こそきれいな笑顔をリザに向けた。



「少尉は、何も悪くありません」
「分かっている。何も変わらんよ。安心したまえ……中尉」






雑記

増田さん、押しちゃえよー、と言いたい(笑)。


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