IIt's a foul!

静かな寝息を感じて、夜中にふと目が冷めた。隣で眠る彼女を起こさないようにゆっくりと体を起こす。壁の時計はまだ朝には早いことを示していた。
のどが渇いた。
なるべく音の出ないようにベッドの端へ移動して抜け出したが、途中彼女が小さく声を漏らしたので少しドキリとした。
……まだ寝ている。
抜き足差し足で部屋を出て、コップに一杯の水をのどに流し込むと、再び彼女の横に滑り込んだ。小さくベッドのスプリングが軋む音がして、彼女が身を捩った。

「……ん……」

先程より明確な発音に、彼女の意識が戻りかけていることを知る。
後ろから掻き抱くと今し方水を飲んだばかりの冷えた口唇を彼女の首筋にあてがった。

「つめた…っ」

反応はあったが、その声音はまだ少し夢現を彷徨っているかのように抜けている。構わず位置をずらして痕をつけると、首だけ廻らせて漸く彼女がこちらを向いた。

「いま…何時です?」
「まだ早い」
「…ん…そう、ですか…」

首筋に口付けたままで答えると、ピクリと肩を竦めたが、その反応が乏しい。
昨夜の疲れがまだ残っているのかもしれない。
これ以上悪戯するのもかわいそうなので、おやすみと剥き出しの肩に唇を落とし、自分の胸に抱えなおした。

「…昨夜、は…で…し、た」
「…リザ?何?」

再び眠りに落ちる間際、彼女の口がもそもそと動く。
胸板に唇が当たる所為か、聞き取り難い。
覗き込むように視線を動かすと、彼女はしっかりと目を瞑ったまま、再びむにゃむにゃと口だけ動かす。

――『昨夜はお疲れ様でした』。

今度はどうにか聞き取れた。

「よる……たくさん……」
「……リザ?」

仕事のことを言っているのか?
確かに昨夜はしゃかりき頑張った自覚がある。ただそうせざるをえなかったのは、単に自分のサボリ癖の所為だったことも自覚しているのだが。

「きもち、よかった…です」




――――っ!!!
――――絶対絶対寝ぼけてる!




分かっているが、そう言って再び安眠についてしまった彼女を胸に抱えて寝息にまで感じてしまう男の純情はどうしてくれる。
天使の寝顔が悪魔の誘惑に見えて仕方ない午前四時。
二度寝は絶対出来そうにない。




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