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<白い巨塔パロ1>

「私が、大総統になれなかったらどうする?」
「つまりませんね」

寝物語に腕の中で大人しく収まっているリザにそう問えば、つれない返事。

「ふん。私への興味が失せる、か」
「まさか」

あまりにも薄情な彼女に自嘲気味に呟けば、語尾に「バカじゃないですか」と付け足す気満々の溜息とともに返された。

「何?」

意味が分からずに問い返す。

「私が興味のあるのは、貴方が大総統になろうともがく姿です。
ですから『なれなかったら』ではなく『あきらめる』ならつまらない、とそう申し上げただけです」

意味分かりました?と胸板に口付けて笑う。
とりあえずなることを目標にして突っ走ってる間は、例え見当違いの方向へ猛ダッシュしていても
彼女は楽しんでくれるらしい。

「道は深いぞ」
「そうですね」

リザを楽しませる為だけに大総統になろうと思ったわけでは無論無いが、
彼女との会話はシニカルで楽しめる。

「途中で私が溺れることもあるかも知れんな」

抱き寄せて、金糸が乱れる額に恋人のような甘やかさでキスをひとつ。
くすぐったいです、と身を捩ればカワイイ女。ベッドを抜ける。
ヒゲ痛いです、といいつつも擦り寄ってくれば面白い部下。会話を続ける。

「私が溺れたら、君は私を助けるか?」
「いいえ」
「何故」
「どういう風に溺れるのか、興味がありますから」

この口がどういう風に空気を求めるのか、私は見ていたいんです。
そういって少し首を伸ばして唇に触れた。

「なるほど」

気泡を求めて無様に喘ぐ私も、君を楽しませるというわけか。

「では精々君を楽しませるとしよう」

どこまでもひた走り続けてみせようじゃないか。
だから君は傍でいつまでも楽しみたまえ。


<白い巨塔パロ2>



「――東方に飛ばされるかもしれん」
「はい?」

上と少しでも遣り合えば、今の立場上それは必至だった。
軍議の最中、権力の上に胡坐をかいて船を漕いでるような連中だが、それも今はまだ仕方が無い。

「どうも趣が芳しくないよ……今は」
「お供致します」

距離的にではなく、精神的に。
迷いのない声で即断されて、自然と口元に笑みがのる。
書類を受け取ろうと手を伸ばした彼女の手を取って、そのほっそりとした指をひと撫でした。

「……苦労をかけるな、君に」
「苦労だと思ったことは一度もありませんが」
「そうか。君は苦労性だな……いや。私が軍人でなければ良かった話か」
「バカなことを」

するりと指を抜けさせて、目当ての書類を受け取ると、不備が無いかと目を落とす。
黙ってその仕草を見ていれば、不意に彼女の口が言葉を紡いだ。

「貴方が軍人でなければ出会えてません」
「……そうか」
「そうです」

茨の路も泥の川も、出会ったからこそ通らなければならないというのに。
その擦り傷も、腰まで埋もれて体の自由を奪うその泥炭も、
出会えたからこその経験だというのか、君は。

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