ハーバルエッセンス

ソファーに横になったまま、滅多に見ないTVをつけていたロイが、
前に座るリザの髪を撫でさする。
視線はぼおっと無味乾燥に流れるコマーシャルへ。
こうされているのは嫌いではない、とリザは思う。

何もない時間に何もなくただ黙って触れ合う時間。
軍部内ではありえない空間にリザはうっとりと瞼を閉じる。
ロイの手が気持ちいい。
しかし。

『――Ah−! Yes!Yes! Oh!』

「…………」

何だこの喘ぎ声は。
突然夢見心地から引き戻されて、リザの眉間に皺がよる。
人がせっかく和んでいたらこの男、そっち系の番組を?
瞼を上げると視界に映るのは単なるシャンプーのコマーシャル。

「反応したね」

してません、と即答したのがいい証拠とばかりに、ロイがクスクスと笑う。
それに少しの気恥ずかしさとムカツキを覚え、ふいっとそっぽを向くと再びリザは瞳を閉じた。喘ぎ声はこの際無視する。
よしよしと頭を撫でる手の動きが少しだけ乱暴になったかと思うと、テレビのチャンネルがかえられた音。いつも撫でると嬉しそうに目を閉じるブラックハヤテ号の気持ちが分かった気がする。気持ちいい。

しかしまた。

『――今夜すっごく気持ちのいいコトがしたいなら……』


今度はなんだ!
さっきから、どうしてこんな台詞ばかり聞こえてくるのか。
選局の悪さにロイを睨む。

「何その目は」

なんでもありません。
言えばロイは体を起こして、ソファの上からリザに抱きつく。

「最近のコマーシャルにご不満がおありかな?」
「…………」

座り込んでいるリザの腰辺りに手を回すのは、つらい体勢じゃないのかと思うのだが
ロイはそんな事をまったく気にする素振りもなく、リザの首もとに顔を埋めた。
リザの身体がピクリと揺れる。
髪を洗ってみませんか、と続くコマーシャルに大きな溜息が零れた。

「そんなことよりもっと気持ちよくなれるよな?」
「髪の毛洗うと気持ちいいですよね」

宣伝の主旨は洗髪なんです、とロイの腕を剥がす努力をするが徒労に終わった。
回す腕に力がこもる。
もうすっかり彼は臨戦モードに突入らしい。
触れているだけだった首筋に、吸い付く感触。

「終わったあとに洗えば?どうせ汗かくでしょ」
「……仕事を終えたあとに疲れを洗い流す感じで、気持ちいいですよね」

何が終わったあとなんだ、とばかりに強調すれば、唇は項を伝って徐々に上昇。
くすぐったさに身を捩るリザの耳元で動きが止まる。

「君にとっては仕事なのか?」
「…………………」
「リザ、仕事?」

答えないリザの耳たぶを甘噛みして、熱っぽい吐息で震わせる。

「…………そうだと言ったら?」

流されるだけなんてゴメンです。
上目遣いで挑発気味にロイの方へと視線を投げた。
視界の端に捉えたのは、満足げに弧を描くロイの口元。
次にくる台詞に耳を塞ぐより先に、視界を覆う魅惑的な男の視線に射抜かれて、リザの瞼が下降する。

「じゃあきちんと励んでもらおうかな」

そのまま触れ合った唇の上で囁かれる熱い吐息に身体が震える。
気持ちイイ。

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