I want you.
「ホークアイ中尉、この後の予定は?」
「このペースで上げていただければ、定時で帰れます」 ――今日はどなたとサカられるので? 喉まででかかった台詞はどうにかそのまま飲み込んだ。 飽きもせず女性に対するフェミニストを貫く彼は、いっそ尊敬に値する。 「そうか」 ロイは頷いて、少しだけ思案顔をした。 珍しい。 こういうときの彼は、大抵嬉々としてその事実を吹聴するきらいがあるというのに。 ここに至って漸く女の自分に女性とのデートを羨ましがらせようとしても無駄だと悟ってくれたのかしら。それとも乗り気ではない女性との約束が? それならば仕事に託けて行かなければいいだけの話なのに。 「で?」 「は?」 突然何の脈絡もない接続に、思わず間の抜けた声が出てしまった。 ついでにマヌケな顔をしているに違いない。 「だから君の予定は?」 「――…定時で帰らせて頂くつもりでしたが」 「そうか」 リザの返答に何かを言いかけて、ロイは無理矢理咳払いに置き換えた。 「大佐?」 「……久し振りに食事でもどうだ?」 ちゃんと定時で上げるから。 そういってリザに向けた目は、何故か拗ねたような色を帯びている。 おそらく即答で断られるのを見越してだろう。 内心で苦笑を禁じえない。 そもそも定時上がりは基本です。Becauseの使い方には意義ありです。 そう言ってやりたい気持ちを抑え込むだけの威力を求めての表情だったのなら成功だ。 何故か可愛い。それはおかしい。お子様な男はキライなのに。 「……何故ですか?」 「私が君と食事をしたい。他に理由が?」 「お食事だけでよろしいですか?」 「まさか」 「…………」 前言撤回。可愛くない。 どうせなら最後まで可愛らしくしてくれればいいものを。 あまりに素直な返答にリザが眉を顰めると、ロイは一転ふんぞり返ってふふんと笑った。 「当然その後も付き合ったもらいたい。予定がないんだろう?いいじゃないか。付き合いたまえ。予定があるのならそれは反故だ」 「勝手ですね」 「何とでも言え。私も伊達に溜まってない。今日は強気で押すことに決めたんだ」 いつも押すしか知らないくせに。 ……ああもしかして。拗ねた顔は最上級の引いたシーンですか。 「そういうことなら他の方でどうぞ。性欲処理はゴメンです」 「君の処理は私が受け持つ。フェアだろう?」 「アンフェアです。私は溜まっていませんので」 バカバカしい。 どういう理屈だ。 「ですから他の方を」 「断る」 「何故」 「随分君としてないから」 「………」 ええまあたしかに。 最近随分忙しかったのだから、仕方がないと思うのですが。 大体私としてないから、だなんて理由になりますか大佐。 「誰としようが同じでしょう?」 貴方にとって同じでしょう? やることはひとつ。 入れて動かして出す。それでフィニッシュ。 しかしその言葉に、ロイはにやりと口角を上げた。 まるで待ってましたといわんばかりに。 「違うな」 その瞳に焔が宿る。 こういう時のロイがまともなことを言うはずがないことを、リザは嫌というほど知っていた。 ああまた骨がドロドロに溶けて爛れ落ちそうな心底虫唾の走る台詞を吐くに違いない。 「全然違う。声がイイ。顔がイイ。態度がイイ。君がイイ」 ――ほらやっぱり。 予想通りのロイの台詞に、腰の愛銃にかけそうになる手をどうにか抑えるのが一苦労だ。 「溜まりすぎて仕事も手につかん」 「いつものことでしょう」 「そう。いつものことだ」 分かるかね? 今度は眉間に皺を寄せる。 おそらくリザのそこに刻まれた皺の深さとタイを張るほどに寄せられた眉。 こういうときのロイは見ていて飽きない。 馬鹿みたいにコロコロコロコロコロコロコロコロ表情を変える。 ……馬鹿かもしれない。 「いつも君に欲情している」 「それは大変ですね」 まるで私が悪いみたいに言わないで下さい。 取り合わないに限る、でなければ彼の迷宮ロジックに入り込んでしまったら最後だ。 「仕事に障るほど大変なんだ」 どうすべきかね、だなんて私に言いますか! 常に欲求不満な男の相手をできるほど私は若くないんです(大佐より若いけど)。 |