問われるは誰か行為





「やめませんか。こういうこと」
息の継間に性懲りもなく可愛いことを言う。
「こういう?」
言わんとしていることを知りながら敢えて問えば、ふいと僅かばかりに逸らされた顎を掴んで、無理に上向かせた。そのまま返事を待たずに、口ごと塞いだ。
苦しさに酸素を求めて開かれた口中へ、ほんの少しの空気と、一緒に舌を滑り込ませる。
びくついた彼女の肩を抑えて、更に顔を押しつけるようにして呼吸を貪った。
何度同じ手順でもって絡ませても、まるで初めてのように戸惑う反応には、優越感と――
それに、僅かばかりの焦燥を覚える。
慣れないのか、慣れたくないのか。

「――たいっ、さ……」
「何だ」
上擦った声音に苦しげな呼吸を感じて、少しだけ唇を離してやった。その代わり、肩に乗せた左手で、私を呼ぶ彼女の耳朶を焦らすように撫でる。それに反応してしまう自身を厭うように捩る身体を押さえつけて、今度は下から掬い上げるように唇を合わせた。
「ん、ぁ」
そうすれば、強引にするよりも抵抗が弱まるというのは、最近気づいたことだった。
これも一種の「押しに弱い」と見るべきか。
下からの請うような口づけが、彼女の可愛がってやまない愛犬の甘え方でも彷彿とさせているのだろうか。
それはそれで良いような悪いような。複雑な心境になる。
だからというわけではないが、また次第に呼吸を奪うような深さで歯列をなぞり、絡め、吸い上げれば、こちらもまた抵抗の度合いが強まった。

「……っ、ゃ――待っ、」
噛みつくでも殴るでもない抵抗は指先だけで、執拗に迫る私の唇の間に滑り込ませるというものだった。
ほんの僅かにできた隙間で、乱れた息を整えようと、触れた指先が震えている。伏せた睫が小さく瞬きをする度に、誘われているのかと錯覚さえしてしまう色香を匂わせていることに、おそらく彼女は気づいていない。
「足りないか?」
「ちが――んっ」
思わずといった風に上げられた視線を捉えたまま、私はその指先に舌を這わせた。
息を詰めて咄嗟に引き抜こうとする手首を掴む。
「ふ……、ぅ」
音を立てて唇をつけ、啄ばんだ先に舌を沿わせる。
ピクリと反応して逃げるように跳ねた間接を丁寧に嬲って絡め、もう一度、指の腹にしっかりと唇を押しつける。
一度も逸らすことのない私の視線の先で、惑う表情がとてもいい。彼女の視線の高さに持ち上げて、ゆっくりと指の先だけを唇に含み、見せつけてやる。
その様子にはさすがに眉を寄せて、顔を逸らして、それでもはっきりと拒まない君がいけない。

「――……大佐、本当にもう」
「無性にしたくなる」
何を、と聞かれる前に唇を奪った。
今度はやや強引な自覚のある追い立て方で、けれども本気で嫌がる素振りの見えないのをいいことに、後退る分だけ追い詰める。
「んぅ、ふ……ぁ……んっ」
息継ぎの合間に、そんな声を出すからいけない。
どん、と備え付けの書棚に今更の退路を阻まれた背中を労わりもせず、足の間に膝を立てて更に迫る。
乱暴に乱したせいで、バレッタからこぼれた髪ごと頬を掬い、何度も呼吸ごと奪うように唇を合わせた。
必死に押し返そうと私の腕を強く掴みながら、それでも口中では無意識にか応えようと動く舌を絡めてぐっと吸い上げる。
「――んん……っ」
鼻に抜けた声に一瞬だけ隙間をあけて、角度を変える寸でで絡んだ視線が、濡れていたのがやはりいけない。
互いに合った視線以上のことは語らず、気持ちすら締め出すように境界を奪った。
「……ザ」
拘束と呼べない拘束に、抵抗とは呼べないような抵抗で繰り返される、深夜の甘く狂おしい攻防。
いっそ夜陰に飲み込まれても境界の融けた夜になれと願いながら、祈りすら奪って夜は過ぎてしまうのだ。




END


たまにはちょっと黒マスタングぽく。
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