G線上の攻防


「何で……そんな顔するんですか」
「……君が睨むからだ」
「睨んでませんっ。貴方の方こそ――」
不毛だと分かっていながら交わす台詞は、そこでお互い止まってしまった。
触れ合うはずの最後の距離を踏み止まった状態で見つめ合う。
近すぎる二人の吐息は熱が篭もり、いやがおうにも興奮の度合いを高めていた。
だというのに絡む視線は、それぞれの出方を探るように、窺うように、挑むように逸らされることはない。
いっそどちらかが耐え切れず視線を外して俯くくらいの可愛げがあれば、ことはスムーズに進むのだろうが。

視線を合わせたままで、私は半歩リザに詰めた。
いまさら後ろに逃がすようなスペースはなかったが、壁についた自分の腕に近づくだけで、リザの体の熱が軍服越しに伝わってしまう距離になる。
この近さで、おそらく私の熱も彼女にはっきり伝わっていることだろう。
それでも視線が彷徨うことはない。
「――っ……」
頬に触れると張り詰めた空気のリザが息を飲む音が聞こえる。
僅かに引いた体と、それでも私をじっと見つめる透き通るようなライトブラウンの瞳が、私を酔わせた。
(――だめだ……)
軽く挨拶を交わすように口づける。
「……っ…」
薄く閉じられた彼女の睫毛が震えて、詰めた息が振動で伝わる。
私の理性の箍が外れた。
「――ぁ、ん……っ!」
抵抗する素振りのない彼女を、抑えられない衝動で縛る。
突然潜り込ませた舌に、驚きの鼻を鳴らされた。
壁と私の間に挟まれて、しかし彼女の指先が私の胸元を引き寄せたのに、高まりは鎮まる時機を逃してしまった。
頤にかけた指で、もっと奥へと唇をこじ開ける。
ぬめる舌が、私の指を誘うように追い出すように、執拗に這いまわって、合間に互いの舌を絡めた。
どちらのものか判別のつかない唾液を絡めた指で、唇をなぞり舌を弄る。
(――だめだ……)
頭の芯がグラグラする。
呼吸の出口を塞ぎながら、隙間に酸素を求める唇の奪い合いは、圧縮された熱をこれでもかというほど練り上げて、もう息も頭も何もかもが麻薬のような昂揚に溶かされてしまう。
吐息に混じって抜けた声を出すリザにゾクリとした。
ぬち、という粘着質な音が耳につくたび、背筋を這い回る快感が主張する。
もみあげから耳朶にかかるリザの髪をかきあげてやって、そのまま頭を抑えてまた髪を乱した。
ぴくりと私の胸で不規則にはねるリザの指が、例えそれが抗議の意味でも可愛くてたまらない。
ぐらりと甘い匂いに酔ったついでに、絡めた舌を奥まで押し込み吸い上げてやる。
「――んぅ!……ふ……ッ」
一瞬逃げた彼女を手と体で押し込めて、熱い息ごと飲み込ませるように唇で覆う。
行き場のない呼吸はどちらも忙しなく鼻腔から出して、余計に息が上がった。
それを落ち着かせるために、と、舌をようやく緩慢に絡ませながら、名残を惜しむように肩で息を整えていく。
「……」
「……」
どちらからともなく離れて、また沈黙が落ちた。
が、視線の先にはキスの前よりずっと激しい熱が溢れて、これ以上はと本能が交わることを避けていた。
微妙に合わない視線がもどかしいが、本当に今更の理性が煩い証拠だ。
それでもいつでも触れ合う距離で止まった私たちの唇に、繋がる銀糸は生々しく、
「……な、んだか……」
リザが掠れた声で言いかけた振動に揺れて切れた。
「……やらしいな」
それに繋げて出した私も、負けず掠れて上擦っている。
二人の似たような声に笑って、私は彼女の顎に落ちた唾液を拭った。
こんなキスもこんな会話も、ただ抱きしめるだけでゾクリと背筋がうねるような感情の蠢きも、
彼女なしでは考えられない。





たまにはちょっと荒れた気分で奪っちゃえばいいYO。


 
1 1