09.大佐宅 時間を掛けて煮込むのがポイントだ、と昔レベッカに教わったビーフシチューは、もう随分前から食べ頃だ。さすがにこれ以上は逆効果になりそうな鍋から火を落として、リザは腕時計に視線をやった。終業からは大分時間が過ぎている。 そろそろ出るかといった帰り際、駆け込みのようにやってきた下士官から検印の必要な書類を受け取ったロイが、げんなりとしていた姿が思い出されて、リザはふっと息を吐いた。指示を仰ごうと立ち上がりかけたリザを制したロイから先に帰るよう促されて、暗号でのお誘いは無効かとも思ったものだが、敢えてそこに触れてこなかったロイの真意を、リザにしては珍しく都合良く解釈することにして、ここに至る。 ――が、意外と処理にかかる案件が含まれていたらしい。 こんなことなら、いくらロイの指示とはいえ、期日の整理や延長の可否くらいは選別してくるべきだったかもしれない。自分よりよほど疲労のたまっているはずの上官に、負担を強いる結果になっては元も子もない。 だからといって、さすがに今から司令部に戻るのも憚られる。一度自宅に戻ってしまっていた手前、言い訳のきかない私服の変化に、目敏く言われることがないとも言えない。 「……」 思っていたほどではなかった書斎の整理も終わってしまえば、単純に手持ち無沙汰になってしまった。 ソファの前のローテーブルの上へ乱暴に広げられていた新聞を片付けついでに、ざっと目を通してみる。 だが自宅でも職場でも読んだ別版の記事と、そう変わったことがあるわけでもない。 違いといえば紙面の端々に殴り書きの数式が散見されることくらいだ。 大方、科学者らしく脈絡のない――少なくともリザにはよくわからない閃きで思いついた構築式の一端だろう。 何とはなしに数式を指でなぞって、たたんだ新聞をラックに仕舞う。 そういえば昔から手当たり次第にメモ帳代わりに書き付けていた姿も思い出した。 さすがに重要書類に数式が記されていたのを見つけた時には、困った勢いでトリガーを引きかけたこともあった。今でもベッドサイドのメモ帳は必須だ。 終わった後、いくら重い暑いとはねつけても、もう少しと無理やり抱き寄せておきながら、急に思いつくらしい構築式は、顔を見ればすぐにわかる。 『――あ』 『どうかしました?』 『いや。……何でもない』 時にはうっかり声まで出した後で、ばつの悪そうに否定されても隠せているわけはないのに。 『……いいですよ?』 『あー……すまない』 見上げた先で悪戯がバレた子供のような顔で、それでもごそごそとメモ帳を手繰り寄せる項垂れた後ろ姿が、実は少し気に入っている――とは、これから先も教えないと決めている。 他のどんなデート相手も、おそらくロイの洗練されたフェミニストな部分でエスコートされているだろうから、だからこそ、女性に対して錬金術師としての欲求を先立たせる図々しさに、たまに擡げてくる独占欲が擽られるのだなどと、ロイに言えるわけがない。 そんなことをとりとめもなく考えてしまった自分に苦笑して、リザはソファの背凭れに深く首を沈めた。 掃除もした。食事の用意も出来ている。 部屋に来るようにと言われてはいたが、何を示されたわけでもない。 まだ戻ってこないのだから、もしかしたらロイの方も、まさかリザがまだいるとは思わずに、そのまま外で済ませてくるつもりになっているのかもしれない。 「……あと10分」 顔の近くで預かったままの銀時計を見下ろすように開きながら、リザは小さく呟いた。 それでダメなら今日は帰ろう。その方が、ロイもゆっくり出来るはずだ。 パチンと閉じたそれを一度額につけてからテーブルに置く。 それからまた深くソファに身を沈めかけ――ふと、その背凭れに、ジャケットが無造作に掛けられていることに気がついた。今時期には向かない少し厚手のそれには見覚えがある。 あれは――そう、マダムの店での事だった。 ***** 心地良い気だるさが、ゆったりとこの店を取り巻く空気に馴染んでいる。 酒の盛りはとうに過ぎて、表には既にクローズの札が掛けられていた。 「店の方は忙しかった?」 「お蔭様で。ロイさんの方こそ、お仕事大変だったんでしょう?」 大きく砕かれた氷に注がれたウィスキーが、返事の代わりにからんと鳴る。「まあね」と笑いながら受け取ったグラスに口をつけたロイの横から、ヴァネッサが覗き込むようにして言った。 「今日もこわーい副官さんに叱られちゃった?」 「彼女は休暇中でね。お陰でさっさと仕事を終えて、店に直行出来たんだよ」 どこか得意気にグラスを掲げたロイを、ヴァネッサが「えらいえらい」と調子を合わせて褒めてやる。 褒めて煽てて持ち上げる、を地で行く彼女の慣れた手管に無駄はない。それを横目に、表面上は微笑で倣いながら、仕事はきちんとこなしてから来たらしいロイに、内心で安堵の息を溢していると、くん、と軽く髪を引かれた。 「君は褒めてくれないのかな? エリザベス」 揶揄というより、何かを期待する色を湛えた瞳で見つめられる。当然です、と出かけた副官の台詞を飲み込んで、リザは髪に絡むロイの指先を優しく流した。それから彼の肩に、悪戯めかして手を添える。 「あら。ロイさんは彼女がいない方がお仕事捗るのね」 「……意地悪だね、エリザベス」 見つめる先でくすくすと笑うリザに、ロイが拗ねたように口を尖らす。 潜入捜査に演技は必要だからと強く勧められての現状だが、確かに言うだけのことはあるなとリザはやはり内心で舌を巻いた。この姿で国軍大佐だと誰が思う。 分の悪い会話でふてたようにグラスを空けたロイを宥めるように、ヴァネッサが反対隣からひょいと顔を覗き込んだ。 「ロイさんはそれだけエリザベスちゃんに会いたかったのよねえ」 「はっはっは。ヴァネッサ、ボトルを一本入れてくれ」 「キャー! ロイさんありがとー!」 調子付いてしまったロイへお礼とばかりに腕を絡めたヴァネッサは、そう言うと、ボーイも呼ばずに自らカウンターへと行ってしまった。大して飲むわけでもないロイのボトルは、店の女の子達へのプレゼントと同義だということは暗黙の了解だ。彼女の嬉々とした様子から、これはおそらく店で一番高い一本をつけるつもりだとわかる。 軽やかに駆けていく後ろ姿に、思わず微笑がもれてしまった。 離れたカウンターでヴァネッサの踊るような注文と、マダムのグラスを磨く音がする。 静かにアレンジされたジャズが、絞られた音量で流れていいたことを知らされる沈黙に気づいて、リザはハッとしてロイから僅かに身体を離した。 「――ところで。相変わらず綺麗だね、エリザベス」 しかしその隙間を埋めるかのように、またロイがリザの髪に触れた。 小首を傾げることで上手く逃れたつもりが、今度は膝に置いていた手の上からそっと触れられる。 「ありがとう。ロイさんも素敵よ」 それをやんわりと制して、リザはテーブルの上のウィスキーを寄せた。 空いたグラスに注ぐついでに、す、と酔客との適切な距離を取る。 大人しくリザの作業を見つめるロイは、それ以上無理に触れようとはしてこない。 「本当にそう思う?」 「――ええ」 だが楽しそうなロイの瞳が、一瞬悪戯に煌いて見えた。 嫌な予感を、ここで培った完璧な笑顔の裏に誤魔化して頷きながら、グラスを渡そうと手を伸ばす。 「飲ませて」 「え?」 その手ごとグラスを包んだロイが、甘えるように顔を下げた。 突然の行動にされるままのリザから、請うようにして傾けさせ、喉を鳴らす。 「ロイさん――、っ」 やっとで抗議の声を上げたリザの指に、酒で濡れたロイの唇がスライドした。 絶対にわざとだ。 思わず息を詰めてしまったリザから、ようやくグラスを抜き取ったロイに「……もうっ」と怒ってみせると、ロイも軽い調子で小気味よく笑う。それから覗き込むような姿勢で、今しがた唇をつけられた小指を庇うように胸の前に持ってきてしまったリザに問いかけた。 「君も飲むか?」 「――……そうね、いただくわ」 ロイの漆黒の瞳が、落とされたオレンジの照明の下で、楽しそうに揺れている。 リザは半眼になりそうになるのを意志の力でどうにか堪えると、にこりと口の端を上げて見せた。 これを断れば、後でからかわれるのは目に見えている。客の酒は飲んでおきたまえ、とでもしたり顔で言いそうなロイが浮かぶ。それに、カウンターに引いてはいるが、見ているようで見ていないマダムからも、その点の指摘はされそうだから受けるしかない。 自分のグラスに氷を取ろうと掴んだトングの上から、しかしロイが手首を掴んで止めさせた。 「ロイさん?」 「飲ませてあげようか」 「え? ――ちょ、ん……っ」 言葉の意味を解すより早く、顎を取られて、ロイのグラスからぐいとアルコールが注がれる。 反らされたせいで、ソファの背に後頭部が当たった。 程好い固さに誂えられた店のソファが、ぎしりと軋んだ音を上げる。 片手で器用にグラスを傾けながら、指先で下唇を下げられては飲み下すので精一杯だ。飲みきれなかったものが唇の端から零れていくのに、気を取られている暇はない。 「……ッ、ロイさん!」 何度か喉を鳴らした後でようやくグラスを離されて、リザはさすがにロイを睨んだ。 しかし抗議の視線も意に介さず、ロイは薄く笑いながら、リザの顎に伝った液体を指で掬う。 「美味かったか?」 「ちょ――」 そのまま流れたアルコールの軌跡をたどった指が鎖骨に触れて、リザの身体がびくりと揺れた。 慌てて押し止めようと伸ばしたリザの手を掴んだロイが、極近い距離のまま、リザの瞳に合わせてじっと見つめる。 悪戯よりも熱っぽい視線の中に映されて、言葉に詰まる。 「……やりすぎよ。ロイさん、そろそろ」 「うん」 「――っ」 何が、うん、だ。 言葉と同時に唇がリザの顎先に触れた。先程の指と同じ順序で下りて、鎖骨をちゅっと軽く吸われる。 「や、も――」 いつの間にか手首はしっかり固定されて、ロイの動きに翻弄される。ともすれば溢れそうな声を、唇を噛んでやり過ごし―― ――ゴンッ! 「つっ!」 重たい音と呻きがすぐ傍から聞こえてきた。 「ほら。ボトル一本ありがとよ」 「……マダム」 ごとりとやや乱暴に置かれた深い緑のガラス瓶の中で液体が揺れている。 殴られたらしいロイが、若干涙の滲んだ目で、頭を押さえ込んでいた。 救世主の登場に胸を撫で下ろしていると、マダムはやれやれと溜息を吐いて、呆れたような目で二人を交互に見遣った。 「まだ店内だって事を忘れる程飲んだのかい、ロイ坊。アンタも。客のあしらいは上々になってきたってのに、この男だけ中途半端に甘やかすんじゃないよ、エリザベス」 「マダム――」 隙をつかれたのは認めるが、甘やかしたつもりなどさらさらない。 思わず反論しかけたリザの横で、それより早くロイが口を挟んだ。 「客のあしらい?」 まだ殴られた箇所を擦ってる。 マダムはそんなロイを見下ろしながら、「当然だろう」と鼻を鳴らした。 「お上品な客ばかり保障されてる店とは違うんだよ。酔客のあしらいだって仕事だ。仕込んで悪いこたないだろう?」 さもありなんな回答には「勿論」と返したロイに、だが言葉とは裏腹に険のある目で見つめられて、リザは困惑気味な視線をマダムに向けた。酔いに任せてスキンシップ過多になった手癖の悪い客の方がよほど楽かしれない。 そもそもこうしているのは誰の指示だと言いたいのはリザの方だ。 穴が開くかと思うほど見つめていたロイが、残りのウィスキーを一気に流し込んだ。 それからやや強引にリザの手を取ると、その指先へ慇懃に唇をつけて言った。 「マダム」 「な――」 慌てて引き抜こうとしたリザを許さず、視線はリザへ向けたままでロイはもう一度マダムを呼ぶ。 「店の子に手を出した場合のペナルティは?」 「八つ裂きにして出禁。弄んだ場合は七分裂きで岩塩を塗りこんだ後、ウォッカ樽に詰めて焼却」 「……具体的だな」 冗談の欠片もない口調で言い切った彼女の指先には、いつの間にかアイスピックが握られている。 本気で穴くらいは開けそうな女主人の様子に、それでも握ったリザの手は離さないロイへ、マダムはアイスピックを突きつけた。 「ロイ坊」 「近い近い近い」 思わず仰け反ったロイにつられて、リザの身体も横に引かれる。と、同時にロイの眼前でマダムが尖る切っ先を軽く振った。 「その子は預かりだからね。飼い主相手なら、アタシの管轄じゃないよ」 「――なるほど」 「マダム――!?」 ロイの手が解かれたと思った瞬間、素早い動作で腰に腕を回される。 ぐいと抱き寄せられて、抗議の間もなくロイの指がリザの言葉を塞いだ。 「ということだ、エリザベス」 「……っ」 「私が飼い主の元に送ってあげよう」 客も飼い主も同じくせに、いけしゃあしゃあと言ってくれる。 にやりという表現がピタリと嵌る表情で、そう嘯くロイに引かれて立ち上がると、長く開いたスリットが横に滑った。 咄嗟に身を屈めて裾を直すと、袖の切込みから白い肩がはっきりと照明に照らし出される。 ショールがないと、さらされた肌が意外と空気を感じるものだ。 客の途絶えた店内で、カウンターの周りに集まりながら、仕事を離れ屈託のない笑顔で談笑しているらしい本職の彼女達に比べれば、リザのドレスで見せる肌の露出など、子供のようなものだろう。 その分生地とデザインでそそらせるんだよ、とはマダムの言だ。 ほとんどノースリーブの薄いワンピースドレスや、背面をくっきり見せる形のそれとは違い、露出も少なく色味の抑えられたリザのドレスでは、こういう店で本来見せられるべき部分が限られてしまう。それでもロイの指示とリザの要望を可能な限り考慮して、マダムと店の彼女達の審美眼で選び抜かれたドレスは、充分に夜の女を演出していた。 マダムの言葉になるほどと納得し、滑る肌触りの良さはしっとりと柔らかく、そして薄手に出来ている。 照明の加減によって、楽しめる効果もあると気づいた時には、思わず感心させられてしまったくらいだ。 これから夏本番を迎えるとはいえ、夜ともなればまだ冷たい春の空気が混じった季節で、このまま外へ出るのは心許ない。ストールでも借りようかと顔を上げた先で、何故だが先程の得意気な顔とは打って変わって、微妙に目を眇めたロイに見つめられていることに気がついた。 何だろう。リザと合った視線が、この短時間で何が起こったのか不思議なほどに不機嫌だ。 「あの……?」 「……外はまだ冷えるからな」 何とはなしに上目遣いで見上げると、ロイは自分のジャケットを脱いで素早くリザの肩に羽織らせた。 体温の残る温かさとロイの匂いで、包まれたような気持ちになる。 内側から前をあわせると、大きく開いた胸元も人心地ついたようだ。 直接肌に触れる厚過ぎない生地の重みにも安心する。 「それじゃあ、マダム」 バーの入り口まで無言で二人と見送ったマダムは、リザの腰に当然のように回されたロイの腕をちらりと見た。 「何格好つけてるんだい」 「え?」 それから溜息と共に言われた言葉でリザが聞き返すとほぼ同時に、ロイの腕がぴくりと動いた。 「いくら他の男に見せたくないからって、上着でマーキングたあ小さいんじゃないのかい?」 「マダム――」 「イイ女は見せびらかして鼻で笑うくらいの男を見せな。そんなさもしい独占欲丸出しだと、その内愛想尽かされ――」 「マダム!」 耳元で怒鳴るロイに思わず肩を竦めたリザが覗き見上げると、柔らかいオレンジの明かりの下で、何故かロイの頬が少しだけ上気して見えた。 「大――ロイさん?」 うっかり呼び掛けた名前を訂正する。 店を出るまで、がマダムに課されたルールなのだ。 二人の会話は良くわからないが、自分が上着を借りたままだと何かロイがマズイのだろうか。そう推測して、リザは「あの」と彼のシャツを小さく引いた。 「ジャケット、脱ぎましょうか」 だがうっかりいつもの口調で離し掛けてしまったリザに、ロイがじとりと視線を向ける。 その横でマダムが盛大に吹き出している。 見つめる先で、ロイが何かに耐えるように顔を歪めて、それからぐしゃりと前髪を乱暴にかき回した。 「あの……?」 「――いいから、着ていろ」 「ロイ坊――」 「袖も通して、前も!」 「は、はいっ……?」 肩を震わし涙を拭いながらで呼ぶマダムを無視したロイに、ボタンを留められて、ますます意味がわからない。 肩幅や身頃が一回り以上大きなジャケットに着られた感が否めない格好から覗く足元だけが、一歩進めばスリットあ開いて、妙に浮いているような気がする。 「いっそ潔いね!」 「……それはどうも」 くつくつと肩を揺らすマダムの方をもう見ずに、ロイはジャケットの上からリザの肩を抱き寄せた。 「行くぞ、エリザベス」 「え、――ええ」 「エリザベス、飼い主に送り狼退治してもらいな」 「はい――……って、え?」 「エリザベス!」 「はいっ」 一体全体何なんだ。 両隣から息継ぐ間もなく急かされて、頭の働きを止められる。 背中を押すように店を出されてから、そのままロイの滞在するホテルの部屋に戻ってからも、その日、『紳士的なロイさん』は一度も戻ってこなかった。 室内でジャケットを脱ごうとしたリザの手を止めたロイは、口を尖らせていた気さえする。 憮然としたまま結局ボタンを外したのはロイで、脱がすと同時に何かから隠すように抱き締められて、ジャケットは床に落ちてしまった。 二人の間に蟠ってしまったそれを踏まないようにと踏鞴を踏んで、壁に押しつけられる頃にも、ロイは一向に口を開いてはくれず――。 飼い主のご機嫌を図りかねた飼い犬のように、リザは首に回した腕をそっと外すと、肩に沈められたままの黒髪にすり寄るしか出来なかった。 ***** 「……やっぱり大きいのよね」 あの時よりも生地の厚い普段着の上から袖を通して、リザはポツリと呟いた。 肌寒くもない室内では、特に羽織っている理由はない。脱いだジャケットを軽くたたんで戻そうとして――、不意にあの日の温もりが懐かしくなった。 今時期こんなところに出していたのは、クリーニングにでも出すつもりだったに違いない。なら、少しくらい皺になっても問題はない。どうせ後10分だけだ。 誰にともなくそう言い訳て、リザはジャケットを抱え直した。 腰掛けたソファの上で、こてんと上半身を横たえてみる。 自然と抱き寄せる形になったジャケットから、あの日と同じ慣れたロイの匂いがする。 この部屋も同じ持ち主であるはずなのに、より近くに感じられるのが何だかおかしい。 こみ上げてきた笑いにふと頬を緩ませて、誤魔化すように顔を埋める。長い息を吐いた。 (あと1分) そうしたら今日はもう帰ろう。 再びそう決意して、それまでだから、とリザはロイのジャケットを抱きながら、ゆっくりと瞼を下ろしたのだった。 中尉一人で大佐の自宅で待つことって、実はあんまりなさそうだなと(中尉が固辞しそうw)思った結果、 意外に長い時間待つことになってどうしようかなと考えている中尉@過去ロイアイ(エリ)になりました。 大佐の持ち物をギュッとするリザってなさそうでありそうww |