その気じゃなくても




任務の報告書を出し終えて、帰途をのんびりイチャパラ片手に歩いていたときのこと。
「せーんせ」
「…なに」
後ろからひょっこりと現れたピンクの頭に、オレはちらりと視線だけやって、すぐに愛読書へと戻した。
「あー、テンション低い!」
オレの前に回り込んで、腰に手を当てたサクラは、わざと怒って見せている。
それは非常に愛らしいけど、オレは眉毛をあげて息を吐いた。
「だってどうせまたおねだりデショ」
「またって。私そんなにねだったりしてないし!」
「はいはい。どうせオレが勝手にあげてるだけだよーね」

――というか。

「断ったら10日とか平気でさせてくれないくせに…」
「ね、あのね?」
顔を覆って嘆くオレのことは完全に無視して、サクラは絡ませた腕に体をぎゅ、と押しつけてきた。
「――…」
こういうことを全く気にせずやってくれちゃうところが、またなんというか。
付き合って何度同じ朝を迎えても、この変わらないあけすけさには本気で参る。
他の誰にでもやっちゃダメよ、と何度念を押したことか。
オレは後頭部に手をやって、腕に当たる感触を知らないふりで返事をした。
「…はいはい」
「もー!先生やる気なさすぎ!」
「そんなことないーよ」
無邪気すぎるぬくもりに、涙を堪えて、薄桃色に頭に手をおいた。
微笑むと、ちょっと驚いたように目を丸くして、それから花がほころぶように笑ったサクラを、その場でどうにかしたくなったが我慢する。毎度これは何の苦行だ。

「カカシ先生、明日任務ないって言ってたでしょ?」
「うん」
くるくるとよく動快活な表情で見上げられる。
「だからね」
ふふ、と笑ったサクラは、絡めたオレの腕をそのまま軽く引っ張った。
頭を傾げたオレの耳に、サクラが少し背伸びをする。
内緒話をするように、片手を口元へ持ち上げた。
「ご飯作りに行ってもいい?」
「………………」
なにこのかわいいイキモノ。
くらりとピンク色に視界が揺れる。
「――あっ、ごめんなさい。先生、何か用事があったんなら私……」
「サクラ」
気まずそうにオレから離れかけたサクラの言葉を、両肩を掴んで遮る。
不安げにオレを見上げるサクラに、真剣な目を向けた。
「な、なに?」
腰を屈めて、今度はオレが内緒話をするように、サクラの耳元に口を寄せた。

「泊まってく?」
「…なんか…先生、下心が見えてるし…」
唇を尖らせるサクラの耳が、紅く染まって、そっぽを向く。
その手をとって指を絡める。
「ダメ?」
「…………」
答えないサクラの指が、かわりにオレの指をきゅっと握った。




やっぱりカカサク。
カカシ先生は翻弄されてればいいと思う。

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