常々女の涙は面倒臭いと思っていたし、特に忍の涙なんて、どこから術かわからないと思っていた。
それはオレの性格故もあるけども、忍の性でもあるはずなのに。




それはナシでしょ。




夕暮れ時。
ベンチに二人腰掛けて、秋虫の音に包まれながら、サクラがぽつぽつと話しかけてくる。
今日の五代目のところでの成果から始まって、ナルトと自来也様たちの旅の行方、それから、はっきりと言葉に出せずにたっぷりと取られた間で、次にサクラが誰のことを想っているのか容易に想像のついてしまったサスケの話。
概ねその辺りを話題に、静かに俯くサクラの話を聞くのは嫌いではないが、次第に尻すぼみになっていったその仕草には、少し戸惑いを感じた。
(…泣いてる?)
不意に押し黙ってしまったサクラをどうにかしてやりたいと思うのは、彼女の師という立場からくるものだと、内心で言い分けることに苦笑を感じながらも、そっと様子を伺うが、その表情はつかめなかった。
薄桃色の髪が頬に落ちて、表情を翳らせている以外、オレからは見えない。
膝を折り、目線を合わせて話し掛けていたのは、つい最近のような気がしていたのに、ずいぶん背の伸びたサクラに、今では少し屈めば視線が合ってしまう。それがこうして並んで座っているなら尚更だった。
その雰囲気に流されたことにして、オレはサクラの頭に手を置いた。

「大じょーぶ」
オレがいるよ、と無意識に出掛けた自分の口を咄嗟に押さえた。
「いやいやいや」
何考えてんのオレ。
「…?カカシ先生?」
思わず邪念を振り払うように頭を振ると、サクラはようやく頭を上げた。
どこかぼんやりとした視線で、オレを見つめる。
……これは結構ヤバい。と思う。
他の男を想って潤んだ目すら可愛いだなんて思うのは重傷通り越して重態じゃないのか。
もう一度ぶるぶると大きく首を振ったオレに、サクラははっと目を大きく見開いた。
がしっとオレの襟元に掴み掛かる。
「カカシ先生、もしかして――!」
サクラの必死の形相に、一瞬、オレは言葉に出していたのかと身構えて――。

「私いま……寝てた!?」
…………………マジですか。
ほろりと泣きたくなるようなサクラの台詞に、思わず顔を凝視してしまう。
「…ちょ…サクラ、今ナルトたちの話してなかった?」
「うわ、ごめんなさい。今頃ナルトたちどこにいるのかなってとこまでは覚えてたんだけど…」
「…」
あっそ。その潤んだ瞳は、あくびの証だったのね。
勝手に想像していた自分が今更滑稽に思えてならない。
「さっきまで綱手様の特訓だったから、うっかり…。
 ごめんなさい、カカシ先生が側にいるとなんだか安心しちゃって」
襟から離した指を、今度は裾に移動させて小さく掴んだまま、すまなそうに上目遣いで見てくる姿に、オレはため息をこぼした。
「――ま、お疲れ様。もう少し寝てく?」
呆れ顔を装って、サクラの頭を自分の胸に引き寄せる。
その途端だけ、少し身構えたサクラの体が、こくりと頷くと同時に弛緩していく。
ずり落ちないよう支えるために、肩に回した腕でサクラを抱いて、すぐに規則正しく聞こえ始めた寝息に、ガンバレと自分にエールを送った。




ずっと傍にいる分生殺し万歳。

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