手のひらに乗る想い



3.


ベルトの調整も全て終わり、身支度は済んだ。
いつものように胸ポケットから取り出したボタンを手に乗せて窓の外に視線をやれば、兵達が隊列を組む様子が見て取れる。
誰もが希望と絶望と、そしてある種の決意を宿した眼で前を見据え、日頃の成果を、経験を、仲間を、そして自分の選択を信じようとしているように見えた。
そろそろ階下へ降りる時間か。
リヴァイは無意識に掌で遊ばせていたその小さなボタンに視線を戻した。
兵団支給のありふれたシャツについているありふれたボタンは、けれどもリヴァイの持つどのボタンよりも、掌にしっくりと馴染んでいる。
感情の読めない表情のまま、リヴァイは瞑目するように瞼を下ろす。それからゆっくりと掌に――その上に乗ったボタンへと唇を落とした。
「……行くぞ」
囁きをボタンごとひっそりと包むように指を折る。

一人の部屋で、明確な誰かに語り掛けるような口調へ応える声はない。
だがリヴァイは、まるでその答えが聞こえているかのように、ボタンを持つ右手を額に当てた。
そうしてほんの数瞬、誓いを捧げる騎士のように頭を垂れて、また閉じた時と同じようにゆっくりと瞼を開ける。
何事もなかったかのように胸ポケットへと滑らせて、踵を返す。
それと同時に、部屋のドアが叩かれた。

「リヴァイ、準備出来てる? エルヴィンがそろそろ出るって」
返事も待たずにドアを開けながらで言ったハンジに、リヴァイは軽く一睨みで不満を表しながら「ああ」と頷く。
ノックをするだけマシになった。奇行種が人間の言葉を解したのだ。これは大いなる前進だ。
自分に言い聞かせながら部屋を出て、調査兵団本部前に広がる舎前へと足を向ける。

『そういうものは、遺す方より遺される方の支えになるんじゃないの?』

あの日、呆れたように言われた言葉を思い出して、リヴァイは心中で本当だなと一人ごちた。

――笑うか、ペトラよ。
ハンジが、あの奇行種が正しかった。
まじないを信じているわけではないと言い切ったお前の遺したものが、俺に形ある唯一の安らぎの場所になっている。
形に縋るつもりはないが、縋れるものがあることは、後悔と贖罪と、そして確かに救いにもなるのだと初めて知った。
お前もそういう時があったか。俺はお前を救えていたか。

目を瞑ればいつでも浮かぶペトラの笑顔に会う為に、掌に乗る小さな想い出に会うために。
リヴァイは最後の瞬間まで諦めないと誓う足を前へ踏み出した。


【END】

互いの持ち物を交換することで無事を祈願する、というおまじないをするリヴァイ→←ペトラのお話。
軽めですがそんなに甘くはないかもしれません。
リヴァペトにはまって、一番最初に思い浮かんだのがこんな感じの二人だったので、それからずっと書きたいと思っていたんですが、如何せん結局ペトラは女型にああなってこうなってああああああ。゚( ゚?ω?゚)゚。という思いで鬱々としてしまって、なかなか悶々としていたのでした……。だって!なんか!何を書いても!何を読んでも!幸せ!かーらーのー……!!MEGATA!!みたいな!orz!
アニメのリヴァイ班放送前に書き始めていたものなので、遺体回収関係がアニメと違いますが、そういう事情です。
鬱々期間長すぎか……。
ひとまず個人的にこれでリヴァペトで息をつける思い、で…………うぐぐぐ、ペトラァァアアア!!!!!(無理でした)


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