たぶん触れた秘密の感情(02)




 ワルキューレのメンバーと、そんな話題で盛り上がった数時間後。
 ケイオス・ラグナ支部マクロスエリシオン内の廊下を、カナメは難しい顔をして歩いていた。手にしたファイルには、特典候補用として撮影されたブロマイドを封筒に入れて挟んでいる。各自好きな一枚を選んでいいと言われたそれを、あの場で決定したのは美雲にマキナ、そしてレイナの三人だった。フレイアは悩みに悩んだ末、もう一晩考えたいと言い、カナメ自身も決まっていない状況で、まさか文句のありようもない。予約販売へのプレスリリースの関係上、明日までに決定しようという話でとりあえずは終了した。
 そうして解散しての別れ際、ハヤテに聞いてみたらどうだとからかわれ、ルンを光らせたフレイアの背中を見送りながら、カナメも誰かに聞いてみたいと思ったものだった。

「う〜ん……」

 胸に抱えたファイルの中に挟んだ封筒を持つ手に、無意識に力が入る。
 ミーティングルームを後にする段階で、二枚までに最終候補は絞っているが、決定打が見つからない。

 衣装は二種類。
 ひとつは新曲に合わせたコスチュームで、カナメのイメージカラーである黄色に黒のストライプがきいたセパレートのドレス姿。もうひとつは普段着をイメージしたということで落ち着いたベージュのタイトスカートに、二の腕部分が大きくデザインカットされた白いシャツというラフなもの。
 衣装から受ける印象はまるで違う。が、表情はどちらも大人の女をイメージして撮影に望んだ。
 前者はソファの上に片膝を立てて座りながら、指先に遊ばせたジークフリードの小型模型を見つめているカナメだ。撮影チームから『恋人への熱い視線』をオファーされたので、いつも最高のパフォーマンスで空を飛び護ってくれるデルタ2に敬意と親愛をこめつつ、前日に読んだ恋愛小説を思い浮かべて出来たものだ。
 後者は『休日の特別なワルキューレリーダー』だそうで、少し乱れた衣装のカナメがベッドに寝転がったままこちらを見つめているといったポージングになっている。一見何の変哲もなさそうに見えて、撮影中何かのスイッチが入ったらしいカメラマンのノリでスチームが使われ、上半身の白いシャツはほんの少し湿っている。ダウンロード画像をアップにすれば透け感もある仕様だ。
 今までのラインナップから見ると少しカナメの方向性が違うような気もするが、年齢的には問題ないし、マキナと美雲は基本的にもっと露出もポージングも大胆なものが多い。

(でもジークフリードのも格好良いのよね……)

 模型はマキナお手製で、今もカナメの部屋のベッドサイドに飾ってある。
 どちらにしようとぶつぶつと考えながら歩いていたカナメは、廊下の角から現れた人物に思い切りぶつかってしまった。

「きゃっ」
「――っと。すみません、大丈夫ですか?」
「メッサー君!」

 受け止めてくれた馴染みの顔に、カナメの声はつい跳ねた。
 謝罪と礼を口早に告げて周囲をさっと窺うが、近くには誰の姿もないようだ。ラフな格好にいつものジャケットを羽織り、あまり物の詰まっていなさそうなナップザックを肩掛けにしているメッサーは、仕事終わりだろうと予測はついた。

「……アラド隊長なら、今日はもう上がられましたよ」
「メッサー君は? まだある?」
「いいえ。俺ももう上がりで」
「よかった!」
「――はい?」

 予想通りだ。
 嬉しそうに顔を上げたカナメに、メッサーが訝しげな顔になる。それに構わず、カナメは手近な部屋にメッサーを引っ張り込んだ。突然の出来事に珍しくされるがままだったメッサーは、後ろでドアの閉まる音を聞いて、初めて我に返ったらしい。掴まれていた手をさり気無く引き抜き、カナメを見た。

「あ、急にごめんね! もしかして急ぎの用事があったりする?」
「それは大丈夫ですが……どうかしましたか」
「実は、メッサー君に折り入ってお願いがあって」

 入り口付近ですぐにでも退出できるように立っていたメッサーの背中を押して、カナメは部屋の真ん中に誂えられた小さなテーブル席へと座らせた。自分もすぐ隣に腰を下ろし、持っていたファイルをテーブルに置く。それから拝むように、両手を顔の前で合わせたのだった。

***

「つまり、特典用のブロマイドを選ぶ手伝いを探していた、と?」
 
 カナメの説明を黙って聞いていたメッサーが、簡潔にまとめる。
 隣でファイルから写真の入った紙袋を取り出し机の上に並べて行きながら、カナメはこくりと頷いた。

「残り二枚でどっちがいいか迷ってて……メッサー君の意見を聞かせてくれるだけでいいの。ね、おねが」
「そういうことでしたら、お断りします」
「えっ、ひどい! ――あっ!」

 言葉すら途中で遮り立ち上がってしまったメッサーに慌てて、後を追ったカナメの手から、ブロマイドがこぼれ落ちた。バラバラと床に広がってしまったそれをしゃがんで拾いながら、カナメは何だかとても情けなくなってきた。
 食事を断られるのはいつものことだ。メッサーがワルキューレに、というよりカナメ自身の芸能活動に興味がない事もわかっている。個人の意見はそれぞれで、尊重されるべきだし、無理強いをするべきじゃない。わかっている。わかっている――けれど、こうまで頑なな拒絶の態度を見せられると、やはり落ち込むなという方が無理かもしれない。

(……わかってたのにな)

 メッサーがカナメのこういう頼みを断ることくらい。
 普段ならこうまで強引な頼み方はしなかったはずだ。それを今日に限って声を掛けてしまったのは、おそらく昼間の会話にある。マキナの口車に乗せられて、ついつい想像してしまったせいだ。メッサーが「どちらかといえば」と前置きをしつつ、答えてくれる姿を。

「……ごめんね。変なことお願いし」
「どれですか」
「え?」

 ふと上から影が降ってきた。と同時に、メッサーの大きな手が床に散らばった写真をあっという間に拾い集めて、テーブルの上に戻してくれる。一枚一枚を丁寧に並べて広げ直し、メッサーは椅子に座り直した。
 自分の写真を真剣な表情で見つめるメッサーを信じられない気持ちで、カナメも恐る恐る隣の椅子に腰を下ろす。

「……いいの?」
「本当に気の利いたことは言えませんし、俺では何の参考にもならないと思いますが、カナメさんがそれでもいいのなら」
「参考になるもの!」

 むしろ嬉しい。参考にする。
 喜びも露わに満面の笑みを浮かべたカナメに、メッサーは少しだけ瞠目したようだった。それでもすぐに机の上の写真に視線を戻す。

「メッサー君はどれがいいと思う?」
「どれって、二枚まで絞ったんじゃないんですか」
「参考参考」

 こんな機会はもうないかもしれない。そう思えば自然とテンションの上がってしまう自分は少しおかしい。メッサーも訝しげな顔でカナメを見て、それから観念したようにテーブルの写真へと視線を戻した。適当な数枚を拾っては眺め、眺めては戻す。

「……正直、本当にどれもいいと思いますが、差分にしか見えないものもありますね。これとか」

 そう言って目を顰めたメッサーが手に持っている写真を見て、カナメは納得した。ほとんど同じポーズと表情で、目線が上下している姿の自分が写っているものだった。

「ちょっとした変化で大分イメージが違うこともあるから、連写で撮ったりしたものもあるの」
「なるほど――で、カナメさんの選んだ最終候補の二枚はどれですか?」
「ええとね、まずはこれと――」

 あまりしつこく聞いて、また帰られてしまっては元も子もない。
 さっさと切り上げようとするメッサーに微苦笑して、カナメは下の方に入ってしまった一枚を探し当てた。タイトスカートに濡れたシャツでこちらを見ているバージョンだ。 
 受け取ったメッサーは、しかしそれを見るなり無言になってしまった。

「…………」
「メッサー君?」

 カナメの呼び掛けに意識を取り戻したかのように一瞬びくりと肩を震わせ、それから机に肘をついて、メッサーは右手の拳を眉間にやった。どうかしたのだろうか。不安に思い始めたカナメが声を掛けるより先に、メッサーが重い口を開いた。

「これは……今までと方向性が違いすぎませんか」

 どうやら真剣に考えてくれていたらしい。おそらく無意識だろうが「今までの」とも言った。それはつまり、「今までの」方向性がわかるくらいの活動は知っていてくれているということだ。思いもしなかったどころか、絶対見てくれていないと信じていただけに嬉しい誤算だ。
 苦々しい口調のメッサーとは打って変わって、カナメはにこにこと彼の手の中の写真を覗き込んだ。

「あ、わかる? ちょっとした日常の特別みたいなものにしようってカメラマンが言ってね、それで――」
「日常も特別もいいですが、購買層が違うと思います」
「ふんふん」

 今度は購買層ときたか。
 思いの外メッサーは真面目な意見を出してくれるつもりらしい。
 アラドにしろチャックにしろ、それこそミラージュですら、こういう場面では基本的に自分の主観でおススメを選ぶはずだ。こっちの衣装が好きだとか、この表情が好みだとか。けれど堅物な彼らしい意見に、カナメは頷きながら続きを待つ。

「日常と言う割にカナメさんの普段の格好ともだいぶ系統が離れていると思いますし。それも顧客マーケティングの結果だと言うのなら構いませんが、そもそもワルキューレの特典でシャツを濡らす必要性を感じません――……個人的に、ですが」

 真面目な顔でひとしきり見解を語ったメッサーは、最後に妙に言いにくそうに付け足した。前々回に発行されたグラビアでは、確かマキナがもっとはっきり濡れていた写真を載せていた気がするが、ということはメッサーはあれもあまり好ましく思っていなかったのかもしれない。

(露出控えめがメッサー君の好みなのかな)

 他の男性陣からは比較的好感触だった写真をうっすら思い出して、カナメは内心で納得した。メッサーの手から濡れシャツ写真を引き抜いて、もう一枚を手渡す。

「なるほど。じゃあこっちは?」
「ジークフリード……?」

 さすがパイロット。真っ先にそこに気づいたメッサーの呟きに、カナメはくすりと微笑んだ。女神のグラビア写真を前にして、先に戦闘機に目が行くのは、きっとマキナとパイロットくらいだ。
 まじまじと見つめるメッサーの視線を追うようにして、カナメは指先で写真を示して見せた。

「そう、デルタ2なの。マキナが全員にそれぞれミニチュア模型を作ってくれてね。あ、ここ、ちゃんと死神のノーズアートも入ってるのよ。せっかくだから一緒に撮ってもらっちゃった」
「……」
「メッサー君?」

 死神の描かれた背面をなぞっていたカナメは、反応の見えないメッサーを見上げて、静かに目を見張った。ここまでずっと眉間を寄せるくらいしか表情の変わらなかったメッサーが、瞳を柔らかく下げてほんの僅かに微笑を浮かべているではないか。
 思わず指先を引いてしまったカナメの後を引き継ぐように、メッサーの指先が写真を撫でる。写真の中のカナメの腕から指先へ、そうしてVF-31Fへ。

「いいですね。女神の指先で踊る死神は幸せそうだ」
「あ、りがとう……」

 これは――これは、写真を褒められているんだろうか。それともジークフリードの出来映えを? ただ言えるのは、今までになくメッサーが気に入っているということだ。
 それにしても、そんなに優しい視線で見つめ続けられると、なんだか妙な気持ちになってくる。カナメはむずむずとしたくすぐったさを感じ始めた。嬉しいよりも、恥ずかしい気がする。いいですね、と言ってくれたメッサーの言葉がジークフリードを指しているのだと思っても、自分に言われたかのようで、頬が少し赤くなりそうだ。
 と思っていたら、おもむろにメッサーが写真から顔を上げた。急に視線を向けられて、無意識にずっとメッサーの横顔を見つめていたカナメは慌てて写真の山に顔を向け直した。

「このどちらかで決定なんですよね」
「そ、そのつもりだったんだけど、他のがいいかな?」
「……いえ」

 写真を適当に手でひっかき回していたカナメは、歯切れの悪いメッサーに違和感を覚えた。見れば、また見慣れた無表情に近い顔をして、メッサーは何事かを考えているように見える。

「何? 何かあるなら教えて?」
「……またすごく個人的な疑問で、気を悪くされたら申し訳ないのですが」
「うん」

 促すカナメに、しかしメッサーはしばらく言いにくそうに逡巡し、女神と死神の写真を指先で何度か撫でては離すを繰り返した。それからようやく口を開く。

「カナメさんは今回、ワルキューレの中でイロモノ担当なんですか?」
「イロモノ――……ああ、色気ってこと? ううん。そういう割り振りは元々特にないんだけど、ほら、私は一番年上だしそういうのもたまにはいいかな……って、い、色気なさすぎて変、とか……?」

 そういうことか。メッサーの言わんとしていることを察して、イヤな予感にカナメの心臓がきゅっと縮んだ。どちらにしようかと迷っていた二枚は、確かに色気を重視して選んでいた。スチームで濡れたものは即物的に、もう一枚は恋焦がれる艶めいた視線で。
 前者はメッサーがあまり良い反応をくれなかったことで、彼の中ではないのだろうと既に察しはついている。けれど二枚目もやはりダメだったのだろうか。悪くない表情が出来たと自分では思っていたし、メッサー自身もそう悪くない反応を返してくれたと思っていたのは、気のせいだったのか。
 否が応にも落ち込んでしまいそうになるカナメに、けれどメッサーはあっさりと首を横に振った。

「いえ。とても色っぽくてそそられました。なので、むしろこれだと別のファンが沸きそうだなと」

 ああ、そうか。別のファンが――……ではなくて。

(そそられ――……え? メッサー君が? そそられる? ……って、え? わ、私に!?)

 聞き間違えたのか、それともメッサーが言い間違えたのか。
 あまりに飄々としているメッサーの態度は、からかわれているのとも違うようで、何となく聞き返すことも出来ない。一瞬さっきまでとは別の意味で跳ねた心臓を押さえるカナメに、メッサーは静かな視線を向けて更に続けた。

「個人的に、カナメさんは愛らしい枠だと思っていたもので、少し驚いたということもあるのかもしれません」
「あい……、え? 愛らしいって、わ、私が?」

 今度は聞き間違いじゃない。メッサーは今、カナメのことを愛らしいと言った。
 そういうことを冗談で言う人ではないはずだから、ならこれは聞いたことのない彼の本心か。
 愛らしくて、そそられる――……突然の評価にカナメの頭がぐるりぐるりと回り始めた。けれどメッサーは、そんなカナメの態度を別の意味で受け取ったらしい。少し考えるようにカナメを見つめ、それからおもむろに机上から写真を数枚取り出して見せ始めた。

「可愛いじゃないですか。これとか」
「こ――これはっ、違うの! ちょうどフレイアの曲が掛かって、それでみんなで振付けを真似てたやつでね!?」

 アイドル路線を前面に押し出した愛らしいフレイアのソロ中心の楽曲は、やはり愛らしい振り付けで巷でも人気沸騰中だ。現場のノリでメンバー全員がフレイアになりきって1フレーズ分踊りきろうと遊んでいた時のスナップショットを、メッサーはどうだと言わんばかりに持っている。

「こっちも」

 そのすぐ隣の置かれた写真にメッサーの視線が移る。マキナとレイナのデュエット曲を、やはりフレイアに誘われてポージングしたときのものだった。フレイアがレイナの立ち位置に納まったので、自然とマキナの表情を真似することになったカナメは、目をぱっちりと見開いて、唇を少し尖らせるようにして写っている。
 待って。待って待って。それはダメ。

「ちょっと照れているところがとても可愛」
「もうっ、もういいから! メッサー君、はい、終わりー!」

 放っておいたら、真顔で何を言われるのかわからない。メッサーの手から無理矢理奪った写真は封筒にすかさず片づけて、カナメは頬を膨らませた。カナメ・バッカニアファンが可愛いと思う表情のものなら、他にもたくさんあるというのに、この中からそれを選ぶなんて、メッサーは少し意地が悪い。

「だいたいね? ワルキューレの可愛い枠なんて、それこそフレイアとかマキナとか」
「そこは成長枠と王道枠でしょう?」
「………………」

 カナメの文句に被せ気味で言ったメッサーは、さも当然とばかりにまた別の写真を手にしている。選ぶのを手伝ってほしいとお願いしたのは自分なのに、何となくそうして自分の作ったポーズをまじまじと見られているのがいたたまれないような気になってきて、カナメはメッサーの顔を覗き込んだ。気づいたメッサーが、「どうしました」と言わんばかりに小首を傾げる。
 その顔はいつものメッサーで、ふざけているわけでも、意地悪で言っているわけでもないとわかった。
 メッサーにとって、フレイアとマキナが可愛いという基準ではないのなら、いったい他のメンバーはどういう振り分けになっているんだろう。不意に気になって、カナメはメッサーを見つめたままぽつりと聞いた。

「……レイナと美雲は?」
「マニア枠とミステリアス幼女――この辺りはアラド隊長の受け売りですが」

 やはりすかさず返すメッサーに迷いはない。しかも今までのワルキューレの販促物について、アラドともある程度話題にしてくれているらしい。

「ふ――……ふふっ、確かに! アラド隊長、毎回言ってるものね」
「はい」

 思わず笑ってしまったカナメをしばらく何ともいえない表情で見つめていたメッサーが、ややもして、また別の写真を手に取った。それは何の変哲もない、撮影の幕間のようなスナップショットで、指で銃を象ったカナメがカメラに向かって撃つ仕草をしているものだった。

「この表情も、楽しそうで可愛いです」
「え?……あ、でも、これはよくあるポーズじゃない?」
「そういうことはよくわかりませんが、単純に可愛いなと」
「あっ、あ、ありがとう!」

 しまった。気を抜いた瞬間を狙いすましたようにまたメッサーにロックオンされてしまった。真面目な顔で瞳だけ和らげてそんな言葉をくれるのはずるい。
 ここにあるのは、どれもカナメがワルキューレのカナメ・バッカニアとして撮影したもので、素のままのものなどないというのに、メッサーにそう言われると、心臓がうるさくなって顔が熱くなってくる。
 フレイアがハヤテに言われた何のこともないような言葉で照れてしまった気持ちが、今なら少しわかる気がした。
 いつも言わなさそうな人が、いつもと違う自分を手放しで褒めたら、もちろん嬉しい。嬉しいのは本当なのに――こんなにも恥ずかしくなってしまうものなのかもしれない。

「……っ、ええと、じゃ、じゃあ、私の特典は結局どれにしようかなっ。メッサー君ならどれがいい? この銃の?」
「そうですね。それもいいですが、カナメさんの可愛らしさが一番出ているものでしたら――」

 まだ言うか。もういいから、メッサー君。
 嬉しいと恥ずかしいが同時多発的に襲ってきて、カナメの退路を断とうとする。沸騰しそうな頬を両手で押さえるカナメを無視したメッサーは、真剣な表情で写真の選別をし始めた。一枚、また一枚と吟味される度に、自分自身を真摯に見つめられているような錯覚に陥って、居心地が悪い。ムズ痒い。心臓がうるさい。ドキドキする。
 ちらちらと横目で様子を窺っていると、しばらく真剣な表情で写真をためつすがめつしていたメッサーが「あ」と声を上げた。

「これはどうですか?」
「……………………それ?」

 思いも寄らない一枚を渡されて、カナメはぱちくりと目を瞬いたのだった。

******






                                    【 ⇒ 】

カナメさんが販促用に選ぶ自分のブロマイドについてどれにしようか悩んだ結果、メッサー君に意見を聞くお話。
ワルキューレのメンバー全員で、天然リーダーがどうしたら恥ずかしがるのか考えたりしています。