だって一緒にいたかった。(01)




「ま、待ってメッサーく、……っ」

 軽くはないキスをしたままそっと体重を掛ければ、カナメが小さく慌てた声を上げた。自分にしがみついてくる指先を無視して背中をベッドに押しつける。仮眠室に置かれたベッドはそう良い物ではもちろんないが、大柄なパイロットでも体の疲れが取れるくらいの広さとマットの優しさはある。
 衣擦れの音と口唇を重ね合わせた合間にこぼれる水音を響かせて、メッサーは胸に当てられたカナメの手を取り、シーツの上に縫い止めた。

「……ほ、本当にするの?」

 何を、とは言わないカナメの顔が、薄暗い室内灯の中でも羞恥に染まっているのがわかる。ぞくりと背筋を這いかけた感情を飲み込んで、メッサーは内心で息を吐いた。
 本当にするかしないか――さすがにこんなところで最後までするつもりはない。
 ここはまだマクロス・エリシオンの中で、ましてやただの仮眠室だ。それほどの防音は見込めない。たとえばここでしたとして、カナメの声が漏れ聞こえてしまうかもしれないことが正直嫌だと思う。自分しか知らないカナメの声も反応も、メッサーは到底誰かに明け渡してやるつもりはなかった。

「……どうしますか」

 だから、ただもう少しだけ。
 カナメの肌の匂いを胸一杯に吸い込んで、メッサーはその耳元に囁いた。触れ合うだけの体温の甘さに酔いしれたら解放してやるつもりがある。
 左手の手首を縫い止めたまま、首筋に鼻を埋めて息を吸い込む。ついでに唇の当たった皮膚をぺろりと舐めると、カナメが息を詰めた声を上げた。

「ど、どうって――あっ」

 これしきのことで、そういう声を出さないでほしい。
 まるでもっとすごいことを期待されている気になるではないか。

「……カナメさん。煽るのやめてもらっていいですか」
「な、なんで!?」

 煽ってないと目を白黒させて叫ぶカナメに、メッサーは大きく息を吐いた。これだから困る。その唇にお仕置きのようなキスを一つだけ落として、メッサーは眉を潜めた。

「二人きりになるのをわかってここに来ましたよね」
「それは――……だから、メッサー君にお疲れ様って言おう思って」
「キスしてくれたのは?」
「だから、お、おやすみなさいっていう挨拶のつもりで」
「一回じゃなかった」
「それは――んっ」

 言い訳ばかりを言おうとする口に蓋をする。

 今夜が夜勤当直のメッサーがつい身を入れてしまったフライトログの入力を終えたのは、男子寮に帰って一眠りするには微妙な時間だった。こういうことはラグナに着任してから初めてということでもない。けれど夜勤交代の時間までは短くもなかったから、きちんと身体を休める必要があることもわかっていた。
 そうとなれば導きだされる答えは一つ。エリシオン内でさっさと仮眠を取るに限る。
 所定の申請を済ませ、いつものように部屋を取ったメッサーがここに入る姿を見つけ、追いかけてきたのはカナメだった。
 何か急ぎの案件でもあっただろうかと招き入れたメッサーに「お疲れさま」と微笑んでキスを仕掛けてきたのもカナメで、積極的に甘えてくる彼女に少しばかり驚いて、勢い余ってベッドに尻餅をついてしまったメッサーの上に乗り上げてきたのもカナメだった。
 舌こそ入れられないものの、適度な疲労と睡眠欲をそんなキスで刺激されれば、いやがおうにも気持ちは昴ぶるというものだ。そのくせその気はまったくありませんんでしたが許される関係でもないというのに。

「……んっ、ふぁ、……っさーく、」

 今だって決して本気で嫌がっているわけでないことは、絡み返してくる舌の動きでわかるから困る。彼女の方こそ、いったいどこまで本気なんだか。
 眉間に皺を刻みながら、メッサーはひとまず甘い口腔を堪能することにした。

 カナメと肌を合わせるようになって、そろそろ両手では足りない時を過ごしてきた。
 最初こそ、本当に何も知らなかったカナメの反応を窺い拓いていく作業に根気と悦びと興奮と――それに少なくない罪悪感を併せ持っていたメッサーだったが、最近ではそれも下火になっている。といえば語弊があるが、つまりはそこまで優しいだけの男でいられなかったというだけの話だ。
アルブヘイムでの自身に起こった詳細について、自身がヴァール発症経験者だということも、カナメの歌がメッサーの中で増殖するフォールド細菌を抑制するのにひどく適しているらしいということも、まだ何も伝えられてはいない。
 感謝と尊敬と敬愛と、それら全てを抜きにしては語れないカナメへの感情の中に不穏な下心を見つけたとき、メッサーは自分をバルキリーで撃ち落としてしまいたくなった。
 どうかしている。こんな下世話な気持ちは勘違いだ。彼女の外見に惹かれているだけで、こんなものは男としての至極真っ当で単純な一過性の欲だと割り切ろうとした。
 そもそもカナメを性の対象にしてはならないという、自分の中に不文律のようなものを確立させていたこともある。
 それを崩してしまった原因も、元はといえばカナメのアプローチがあったからだ。

「う……ぅあッン――」
「口、閉じないで」
「ふぁ、っ」

 指の先で下唇を割り裂いてやれば簡単に指ごとぬるりと口腔に入れてしまうカナメの卑猥な無垢さが、メッサーの頑なな態度を簡単に突き崩してくれたのだ。
 大事に大事に守ろうとしてきた張本人から、メッサー君が好きだなんだと迫られて、拒絶すれば顔を明らかに曇らせるくせに、それでも気丈に振る舞おうとするいじらしい姿を見せつけられて、誰が延々と拒んでなどいられるものか。
 初めて気持ちを伝えざるを得なかったとき、頭の中が大後悔の大嵐になっているとも知らないカナメが、それはもう嬉しそうに、つぼみが咲きこぼれんばかりの笑顔をくれて、メッサーは観念するしかなかった。
 大切にしよう。せめて。この笑顔を守りたい。無理だけはさせてなるものか、と。

「だ、だめ――っ」

 カナメが少しだけ強い口調でメッサーの肩を押した。潤んだ瞳がメッサーを弱く睨んでいる。その表情にまた一瞬ぞくりと背筋を良くない感情が走った気がして、メッサーはそのままカナメの肩口に顔を埋めた。

「――……」

 今あまりその表情を見てはいけないと本能が告げている。
 メッサー同様、おそらくカナメにもこんな場所で最後までするつもりはない。わかっている。だがその気があろうがなかろうが、彼女のそんな表情を見ているとどうにも邪な気持ちを抑えられなくなりそうだ。だから見てはいけない。
 メッサーはカナメの匂いで鼻腔を満たしながら自制の為に目を閉じた。
 カナメはとても魅力的だ。可愛い。そんなことワルキューレファンなら誰もが知っている。タレ目がちな大きな瞳も、吸い込まれそうな海のように綺麗な青も、薄いくせに肉感のある唇も、情熱的な赤い髪も。その何もかもでカナメ・バッカニアの虜にさせる。
 だがそれだけではない。

「……ね、メッサーくん」

 無意識だとはわかっているが、とことん甘い声で呼びかけてきた腕の中の女神に、メッサーは溜息を吐きたくなった。画面や舞台の上では年上のしっかりもの然としているくせに、気を許した相手にはこれだ。
 マットに拘束していなかったカナメの右手が、鼻先を肩に埋めたままのメッサーの頬をぺしぺしと叩く。おそらく不満を表したつもりだろうその行為も「しっかり者のカナメリーダー」とは似ても似つかず、ひたすら可愛いらしいものでしかない。
 こういう彼女の姿をケイオスの職員は――更にデルタ小隊に属する者ともなれば、何度もお目にかかっているのだ。それが特別感と優越感とを伴ってしまう同僚の心情を量ったことが、果たして彼女にあるのだろうか。

(ないだろうな)

 カナメの注意に従って仕方なしに肩から顔を上げ見下ろす先で、戸惑いながらもメッサーの頬を撫でてくるような人なのだから。
 そんな動き、いったいどこで覚えたんだか。
 少なくとも、顔を寄せるだけで固まっていた最初の頃のカナメでは、こんな行動は思いつきもしなかったに違いない。慣れたのはカナメの資質か、それとも自分の努力の賜物か。
 それにしたってそんな行動――

「メッサー君? どうかし」

 誘われているとしか思えませんよ、と喉まで出掛かった言葉を止めて、メッサーはカナメの唇にキスを落とした。再度の接触に驚きはしたようだが、軽く触れるだけの唇には全く逃げない。少し甘く食でんみてもまだ大丈夫。少しだけ唇を割って舌を入れて、ようやく「ん」と詰めた息が返された。
 カナメは何もわかっていない。
 自分に圧し掛かる男を本気で退けたいのなら、生易しい抵抗は逆効果だと。

 だがまだ大丈夫だ。止められる。
 もう少しだけ、あまりに不用意なカナメに触れられる権利を確かめさせてもらうだけだ。

「ねえメッサー君、や、やめよう? だってここ仮眠し――ッ、まっ」

 口から顎を伝って喉へ、それから制服の袷をほんの少し下げて胸元の上部へ唇を這わせていけば、カナメが慌てたようにメッサーの頭に触れた。大きく腕を伸ばしてまだ左手首を押さえ込んだままだったカナメの手を離してやれば、それもメッサーの頭へと伸ばしてくる。
 くしゃりと頭頂部の髪を乱す指先は確かにメッサーを押し返そうとしているようだが、やはり拒絶と呼ぶには甘すぎだ。
 メッサーは肌に唇を落としたままで、僅かに視線だけをカナメに向けた。

「やめますか?」
「ん――……ん、だって、だ、誰か来たら」
「鍵は掛けました」
「そ――れは、そうだけど」

 仮眠室で休む時は別に掛けないことも多かったが、誰かがいるときは機密の話をする可能性を考慮して掛ける癖がついていた。だから今日もそうしている。別に下心があっての施錠ではなかったが、今にして思えば褒めてやりたい。
 本当に嫌なら今が何度目かのチャンスだったのに、言い訳を封じられてしまったカナメが恨めしそうな顔でメッサーをじとりと見つめてきた。それに内心でほくそ笑んで、メッサーは肌への愛撫を再開した。

「ンッ!」
「声は抑えて」
「ぅ……ん、ぁ……ッ……」

 それでもまだ大丈夫。
 こんなところで全部を脱がすつもりもないし、服の上からなぞるだけだ。思った以上にカナメが反応を返してくれるから、つい良いところを探したくなってしまうくらいは仕方ないだろうと、メッサーは自分に言い訳をする。可愛い年下の悪戯だとでも思ってほしい。
 ちゅ、ちゅ、と音を立てて跡がつかない程度に吸い上げるを繰り返し、メッサーはいつも露わな臍の窪みに舌を沿わせた。と、さすがにカナメの身体がびくりと跳ねた。肘をついて半身を上げ、腰を抱くように下っていたメッサーの額を、先程よりは強い力で押し返そうとする。

「ねえメッサー君、本当に、も、ダメって……ひゃんっ――」
「……カナメさん」
「い、今のナシ! メッサー君、今の忘れて!」
「無理ですよ」
「ひ、ひど――や、あんっ!」

 額を押さえられたまま、見せつけるように舌先を尖らせて再び窪みをべろりと舐めれば、カナメが猫のような声を上げた。本当に嫌ならその声も是非とも飲み込んでほしかった。
 自分で出した声に慌てて口元を押さえたカナメの目尻が、羞恥で見る間に潤んでいく。ぞくりとメッサーの背筋が震えた。

 大丈夫。まだ、大丈夫――――、のはずだ。

 自分に言い聞かせるようにメッサーは静かに息を吐いた。
 それからゆっくりと頭を上げて、カナメを見つめる。まだ口を押さえているカナメが、羞恥で困惑した瞳にメッサーを映していた。その表情にも、ぞくりぞくりと背筋が危ない音を立て始めるのをはっきりと自覚して、メッサーは膝を立てたカナメの太腿をすっと撫でた。
 身体を起こすと、それに合わせてベッドのスプリングが、ギ、と鈍い音を立てる。
 頭の中に、この音が断続的に響く音が聞こえてくるようだ。
 折り曲げた足を抱え、その膝頭にちゅっと唇を落とせば、カナメがメッサーの手から逃れようと身体を捩った。

「やめ」
「俺はこの後当直ですし明日は休みですが、カナメさんは撮影と雑誌インタビューでしたっけ。次の休みまでなかなか俺たち時間取れませんよね」
「それはそう――ッ、なん、だけど……っ」
「もう少しだけ」

 言いながら、ちゅっちゅっ、と音を立てて肌に口づけながら頭を足の間に落としていく。カナメはといえば、指先でモヒカンの先を絡めて弱々しく頭を振るだけだ。震える足が僅かばかりの抵抗を示してメッサーの頭を挟み込む。固定結構。この感触を他の誰も味わったことはないのだと思えば、知らず口の端に笑みが浮かんだ。

「――メッ、サ、く……っ、ンンッ!」

 はっきり湿っているとわかるショーツを確認して、メッサーはその上部に唇を寄せた。ずらしはしないまま、熱く熟れているだろう花芯のあるべき場所を柔く食む。カナメがびくんっと背筋を丸めてメッサーの頭をぐしゃりと掴んだ。

「ひゃっ! メ、メッサー君、それ……っ」
「……本当に嫌ならやめます。教えてください。拒絶して、カナメさん」
「ん――ッ!」
「蹴り落としていいですから」
「ふ……っ、んなこ、と……ッ」

 まだ、大丈夫。
 カナメが望まないというのなら止められる――はずだ。たぶん。
 
「ここ、すごい立ってますね」

 けれど明確な拒絶の言葉が降ってこないのをいいことに、メッサーはショーツの上からぷくりと立ったそこを舌先でつついた。唾液のせいかカナメの濡らした愛液のせいかわからない糸が、舌とショーツをぬるりと繋ぐ。

「ふ、......んっ」

 ちらりと上目で様子を窺う。けれども泣きそうな顔のまま決定的な一言を発しないカナメのショーツを横にゆっくりと引いてやる。と、にちゃりと音を立てるほどに溢れたそこから女の匂いが立ちこめて、メッサーはごくりと喉を鳴らした。
 熟れたそこは、もうメッサーを知っているのだ。教えたのは誰あろう自分で、その全てでメッサーの嗜虐心を掻き立てる。

「カナメさん」
「ぅ……い、息……かかって、や……」
「イヤ?」

 浅い呼吸と連動するようにひくりひくりと蠢くそこは、どう見てもメッサーの愛撫を全体で待ち望んでいる。応える以外に頭が回答を導き出せない。
 震えるカナメの指先がメッサーの髪を軽く引いたのを合図に、メッサーはショーツを乱暴に横に除け、濡れたそこに舌肉をにちゃりと突き立てた。

「ゃ――……やだ、メッサーくん、メッ……、見ちゃ駄目、や、やだっ、アッアッ!」
「カナメさん、声」

 溢れる液体を啜り、舐め、押し戻すようにしてまた舐め上げれば、カナメの口から悲鳴が上がった。短い言葉で指摘する。

「ふ、んんぅ−っ!」

 従順に唇を引き結び、それでも漏れてしまう声を隠そうとカナメが片手を持ち上げた。けれどひっきりなしに与えられる刺激に、スタッカートの聞いた甘い吐息がフッフッと室内に響いている。
 耳朶に届くカナメの旋律はメッサーの耳朶を震わせ、背筋から下腹部に痛いほどの痺れを与えた。

「……はっ、ぁ…、あー……」

 これが最後の提案だ。
 メッサーはちゅうっと啜った愛液で光る唇をぺろりと舐めて、蠢く入り口の周りに優しく口づける。それから花芯に唇を寄せ、指を一本中に差し込んだ。そうしてゆっくりと、けれど入り口浅めのざらりとした上部に指の腹を押しつける。

「カナメさん、やめますか」
「んっ、や、やめ……だめ、だめって……そこ、イッ!」

 はっきり嫌だというのなら、これで止める。今なら止める。
 けれどそカナメがそうしないというのなら、本意がどうあれ都合よく解釈して止められない。だから――

「言って、カナメさん」
「まっ――、あ、それ、だめっ。め、めっさーく、イ、イッちゃう、イッちゃうから、も、 本当ダメ――ッ!」

 ぐり、と中を引っかくように動かして、同時に固く凝った敏感な蕾をを唇で吸い上げる。カナメは仰け反るように腰を浮かして、それからくたりと力が抜けた。もう無理だ。自分はよく頑張った。彼女は結局最後までメッサーを蹴り飛ばすほどの拒絶は何もしなかった。だから――これはそういうことでいいと思う。

「カナメさん......」

 メッサーは手早く前をくつろげると、くたりとしたままのカナメの腰を持ち上げた。横に除けていたとはいえ、中心をぐしょりと濡らしたショーツを引き抜いて足の間に自分の腰を押し付ける。
 取り出した自身でカナメのそこへ二度三度軽く上下に擦りつけて、メッサーは身体の上に覆い被さった。びくっと震えたカナメの手が、反射的にだろう乗り上げるメッサーの背中をぎゅっと掴んだ。
 まったくカナメはわかっていない。そんなことをされてしまったら、求められてるとしか思えなくなる。

「カナメ、さん」
「ま……っ、ふっ、ぅん――ああっ!」

 押し返さないカナメの身体を抱き締めてずぷりと一息に突き立てれば、腰が跳ね繋がりを奥深くまで受け入れる。腰を抱えたメッサーにカナメの足が震えるようにしがみついた。
 十二分に潤ったカナメの中は、メッサーをこれでもかと締め付けて、そのくせもっと奥へと誘うように入り口と、途中と、それに奥とで絡みつくような収縮を繰り返す。

「――は……っ」

 とてつもなく気持ちいい。
 こんな場所でということや、彼女の声を誰に聞かせたくもないという独占欲、それに多少無理を押してしまったという後ろめたさを補ってあまりある気持ちよさ。
 先程イッたばかりで敏感になっているのもあるだろうが、ヒッ、と喉の奥で悲鳴を上げたカナメにしがみつかれれば、自制など簡単に逃げ出しそうだ。いや、ほとんど全員脱走済みか。

「アッアッ! メッサーくん、めっさ、くんっ」
「声、出ちゃってますよ」
「ンッ、だ、だって……いきなり、おくっ」

 初めからラストスパートのような動きにカナメがほとんど泣きそうな声でそう言った。メッサーを押し返すつもりで置かれただろう手が、律動の激しさに押されて肩に滑り落ちる。

「あっ、それっ、や、ンン――ッ!」

 強すぎる快感に止まらない嬌声を、メッサーは大きく口を開けてかぶりつくように奪ってやった。口腔全部を舐め回せば、上も下も卑猥な水音が響いて鼓膜を蹂躙する。入り口から徐々に慣らしていく配慮もなく奥を叩きつける動きに、けれどカナメの身体ははっきりとそれを喜んでいるとわかってしまった。中が淫らに動いてメッサーに吸い付き離そうとしない。
 メッサーははあっと荒い息をカナメの耳朶に吹き込んだ。

 彼女とこんな関係になる自分を、メッサーは考えたことがなかった。夢の中で不意に淫らな妄想が働いても、すぐに意識の外に追いやった。いつか、他の誰かが彼女に選ばれ、手を伸ばして微笑み合うことがあったとしても、それが自然なことなのだと信じていた。
 自分は彼女を――生きる意味をくれた女神を命を懸けて護れればいいと思っていたのだ。本当だ。カナメは明るく、凛として美しく――時たまこちらが驚くくらい愛らしいところがあるだけで――絶対に手の届かない女神だと思っていた。それで良かったはずなのに。

「めっさーくん、めっさー、く……っ、あ、あんっ! や、やぁっ」

 カナメがこんなに甘い声で自分を呼ぶから。
 しがみついて、髪を乱して、もっともっとと腰を揺らして、メッサーを求めてくれるから。

「っカナメ、さん」

 彼女を女として見てしまった。求めてくれるから求めてしまった。
 誰にも見せない表情を、誰も知らない反応を、メッサーにだけくれる声を独占したいと思ってしまった。

「ンンンッ!」

 息を詰めて背中に回されたカナメの爪の先が、甘い痛みをもたらした。ともすれば達してしまいそうな衝動を堪えて、メッサーは繋げたままでカナメをぐいと抱き起こす。

「ひゃ――、ぅあんっ!」

 突然のことにカナメは一瞬素直に驚いて目を見開き、けれどすぐに深く中に刺さる軛の存在に悲鳴を上げて腰を浮かせた。けれどメッサーの手はそれを許さず、カナメの腰を捉えて自分の膝上に拘束する。
それからゆるゆると突き上げるように腰を揺らせば、カナメは逃げるようにメッサーの上で身を捩った。

「だ、だめっ、めっさ、くん――これ、奥あたっ……ぅ……から……っ」

 カナメの手が、メッサーの肩をぎゅっと掴んだ。刺激に浮かす腰を掴んで引き落とすと、カナメがふるふると首を振る。そういえばこれは初めての体位だ。カナメ自身の体重でメッサーを深く受け入れている場所がいつもよりも深いから、もしかしたら痛いのだろうか。
 腕の中で震える姿に不安を覚えて、そっと様子を窺ってみる。

「……ねがっ、ね、さっきのが、いい――」

 メッサーの肩に額をつけたまま、カナメは小さな声で喘ぐようにそう言った。揺する動きを止めて覗き込む。と、頭を上げたカナメの瞳が涙に濡れていた。罪悪感に胸がグッと締め付けられて、けれど同時にカナメが蕩けるような声で「メッサーくん」と名前を呼んだ。涙の膜を湛えた蒼い瞳に切羽詰まった自分の顔が映り混んでいる。

「すみま――」
「おねが、……っさーくん、さっきの、ぎゅうっていう、のが、い……」

 もう一度小さくお願いと呟いたカナメの中が何度もきゅんきゅんと収縮して、メッサーは衝動的に腰を掴んで押し付けた。

「ふぁんっ! ――やっ、なんで――」

 ギリギリの理性でカナメを再びベッドマットに押し倒し、メッサーは腰を激しく打ち付けた。広げた太股を高く掲げ、ぐっと何度も奥を叩く。ずり上がって意味をなさない制服のスカートが妙にこの場所がどこであるかを思い出させて、余計に背徳心が強くなる。乱れて、けれど脱げきらないジャケットから覗く素肌が熱く湿って、カナメの興奮を伝えてくる。
 メッサーは抱えたカナメの胸の先をシャツの上からべろりと舐めた。

「ぃ、あんっ!」

 興奮に任せてシャツをたくしあげ、下着をずらして露出させたそこにじゅっと吸い付く。カナメの背中がしなやかに跳ねた。

「……こういうの意外と好きなんですか?」
「そっ、そんなわけな――んっ、ふぁっ」
「興奮してます?」
「し、してな」
「でも、いつもより……っ、ドロドロですよ」

 中のうねりもメッサーを締め上げて離さない。打ち付ける肌のはぜる音を激しくしながら、メッサーはカナメの耳朶に囁いた。ついでに「声、抑えて」とも囁けば、カナメの中は更にメッサーに絡み付いてきた。

「そっ、それはメッサーくんが、――んッ」
「いつもより締めてくるのは?」
「やっ、ぁっ、んんぅっ!」
「……カナメさん、締めすぎ」

 カナメの中が良すぎて思わず笑いが吐息に乗ってしまった。無意識のカナメに煽られて簡単に限界を迎えてしまう自分を笑ったつもりだったが、彼女はそうは受け取らなかったらしい。
 真っ赤な顔で濡れた瞳を羞恥心でいっぱいにして、キッとメッサーを睨み付けてきた。腰の動きを止められないメッサーに揺さぶられながら、お返しとばかりにカナメの長い足が腰の上でクロスする。

「ンッ、ンッ――め、めっさーくんだって、い、いつもよりおっき……せにっ!」
「そりゃあ、こんなの――興奮しますし」
「――んぅぅっ!!」

 ぐちゅりと一際大きな水音を響かせて、メッサーは激しい抽挿を繰り返した。カナメの足が腕がメッサーにしがみついて触れた部分から溶けそうだ。声が聞こえたら困るから、などと今更の理由をとってつけたように思い出して、メッサーはカナメの唇を貪った。離さない。離したくない。こんな乱暴な欲望を自分が持つようになるなんて。
 あの日から何もかも捨てたと思っていた欲望は、一度火がつけばこんなにも簡単に止まらなくなるものだとは思わなかった。任務だなんだとかこつけてカナメを遠ざけていたのは、単に自分の動物的な欲望を知られたくなかったからかもしれない。

 もっと。もっとだ。カナメが欲しい。欲して欲しい。カナメがいい。

 上も下も激しく攻め立てられたカナメが、か細い悲鳴をあげてしがみついた背中に爪痕を残したのと、メッサーが咽喉を鳴らして果てたのは、おそらくほとんど同時だった。



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