在りし日の君とその先へ(01)




1.

 緊急の呼集通信を受けてエリシオン内の医療ポッド近くにあるブリーフィングルームのドアを通り抜けた美雲は、先に集合していた彼らのただならぬ雰囲気に足を止めた。
 部屋の奥にいつもは置かれていない簡易ベッドが目にとまる。中ほどにはマキナにレイナにフレイア、デルタ小隊からはアラドとチャックとミラージュ、それにハヤテの姿がある。既に到着していたようだ。メッサーとカナメは珍しくも遅れているらしい。後ろでシュン、と乾いた音を立ててドアが閉まると同時に、彼らに囲まれていた小さな人物が振り返った。普段なら資料やコーヒーカップなどが置かれているデスクの端に乗せられている。
 柔らかそうな赤く少し癖のある髪の毛。それから海のように澄んで綺麗な青い瞳が美雲を真っ直ぐに捉える。妙な既視感を覚えた。しかしそれが何かを察すより早く、大きなその瞳がいっぱいに開かれる。

「――み、みくも、みくもっ」

 興奮気味に小さな少女が美雲の名前を呼んだ。けれど美雲にはまるで見覚えはない。聞いたことのない高い声は舌っ足らずで、子供特有の甘さを感じる。年の頃なら二、三歳か。答えずにいると、少女は小さな手足に勢いをつけてデスクの上から飛び降りた。

「あっ、危ないよ!」
「――むきゅっ」

 すぐ隣にいたマキナが慌てて彼女に手を差し出すも一瞬遅く、締め切られた室内に潰れたカエルのような声が響く。飛び降りたと同時に身につけていた長過ぎる検査着の裾を踏みつけてしまったらしい。受け身も取らず両手をバンザイの形にして盛大に転んだ少女は、それでもむくりと起き上がった。
 鼻の頭と額が赤くなっている。

「……ぃ、いちゃぃ……ぅくっ、え、……みく、みくもぉぉ……」

 そんな少女の周りでザワザワと慌てている様子の仲間達をよそに、少女は大きな瞳に涙の膜をギリギリまで張りながら、よたよたと美雲の足元までやってきた。ひたりと足にしがみつく。
 美雲にはやはり全く覚えのない少女だ。そもそも美雲の身近と呼べる子供といえばチャックの弟妹達くらいのもので、彼らにしろ、一緒に何かをして遊ぶことはない。正直子供の扱いなど何も知らない。
 けれど今、自分の膝丈ほどの少女が足にしがみついてぐしぐしと涙を堪えているらしい姿に、美雲は我知らず身を屈めて視線を合わせた。薄い紫色の双ボウで見定めるかのようにじっと見つめる。少女は何かを訴えるかのように美雲をじっと見返した。

「あなた――」

 見知らぬ少女に、けれど美雲の口は勝手に答えを導き出した。

「カナメ?」

 つい数時間前に別れたばかりのよく知るリーダーの姿とは似ても似つかない。しかし美雲の呼び掛けにハッと目を見開いた少女は、とうとうその青い綺麗な瞳から、大粒の涙をぼろりとこぼして泣き始めてしまったのだった。





                                    【 ⇒ 】

よくわからないけどカナメさんがちっちゃくなっちゃった!
元に戻るまでメッサー君お世話して!
……な付き合ってないメサカナです。(説明ひどい)