飛び出せ!ピロートーク!




――ねえモブリット、起きてる? ……寝てるよね。うん、いいんだ。ちょっと目が冴えちゃったから独り言ね。煩かったらごめん、黙るけどどうかな? 煩い? ……大丈夫そうだね。寝てていいよ。むしろ起きるな。君少し最近オーバーワーク気味だったから、今日くらいちゃんと寝ていきなさい。まあヤらせた私が言うのもなんだけどね。あれだ、あれ。ほら、一晩の安眠の提供だとでも思ってよ。軽く運動した方がよく眠れるっていうだろう? あ、ねえねえ、これっていわゆるピロートークってやつかな。そうだよね。おお、ピロートーク! うおっ、少し緊張してきたぞ! こういう時って何をどう話すものなんだっけ。いつも終わった後で君が私にするやつみたいな事言えばいいの? 辛くなかった、とか、大丈夫ですか、とかそういうやつだよね。あれもピロートーク? トークかあれ? まあいいか。
じゃあね、ええと、あー……、あっそうそう、じゃあ腰大丈夫? これだな! モブリット、腰は大丈夫? はは、明日押してあげよっか。あーでも君変な声出すからなあ。うあーとかひぐーとか。前に研究室の方で押したら、いきなり変な声出しただろう? それでニファがすっ飛んできたの覚えてる? いやーあれクッソ笑ったよね! 何の実験してるんですか! って。実験って。腰押さえてへたってる君と上に乗り上げた私の図に、ものっすごく蔑んた目してスススーって引っ込んでいったの、可愛かったなあ! あの目完全にモブリットに向いてたよね。ぶっは、思い出したらおかしくなってきた。後から二人も来てさ、大丈夫ですか……ってものすごい入りずらそうにしてて。マッサージだよって言ってんのに、すっげー目逸らされたのあれ絶対モブリットのせいだよ。だって顔……顔、あの時真っ赤だったし、ちょ、モブリット……君のあんな顔初めて見た、ぶっふぉ……あ、ごめん、ちょっと待って。笑う。これ笑う。ふはっ、ひっ、ぶふ……っふ、はー…………

……うん、もう大丈夫、落ち着いた。

ねえモブリットさ、あれって結局気持ちいいの? 痛いの? くすぐったいとかも言ってたよね。あ、もしかして脇に手当たってた? ごめんごめん、そうなら次から気をつける。でも君が変な方向に逃げようとするから私もつい押さえこもうとしてあんなことになったんだよね。今度は大人しくしててよ。あ、それといつもはさ、君がいわゆるピロートークってやつで、色々言ってくれてても、こっちも直後の余韻っていうか、少し飛んでるし息も絶え絶えってことの方が多いから、あんまりまともな受け答えが出来ていないよね、ごめんね? 気遣いどうもありがとう。とりあえず回答としては「大丈夫です」ということで。そもそも君、無茶なことってしてないだろ。全然平気だよ。もっとしてもいいよ。むしろしろよ。体位も何かこう――アクロバティックなのとか? したかったら頑張るよ? まあ翌日にあんまり響くようなのだとちょっと困るか……。ああじゃあさ、次の日が非番の時にお試し限定ってことでとりあえずしようか! そうしよう。モブリットが無茶したらどうなるのか興味わいてきた! いつも私に遠慮して――遠慮っていうのとは違うかな、やっぱり気遣って? だよね。したいことをセーブしてるんじゃないのか実は少し心配している。君は私を公私共に優先してくれるきらいがあるからね。優先されるのも嬉しいけど、私だって優先したくなることもあるんだよ。寝ろとか風呂に入れとかは――善処する――こともなくもないようなないようななくないような気もするけど。まあアレだ。優先順位ってあるからね。そうそう、そのたまりにたまった欲望を、君どうしてるのって疑問もあったんだった! シーナの娼館辺りで発散していたりするのかい? ああいう場所って持ちつ持たれつ、そういう需要と供給の上に成り立つ世界だということは重々理解しているつもりだし、男性の生理ってそういう面で色々大変なんだろ? だから別に――…………うん、まあ、生々しく考えるとちょっと…………ああいうこと、するんだ? へえ? 仕方ないんだろ? 大丈夫大丈夫わかってるよ。理解と納得は違うけど。だからさ、するならバレないようにひとつよろしく――

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……あー、ええと、何だっけ!? そうそう、ピロートークだ! ピロー。つまり枕。で、今私は君の腕枕でウトウトしていたわけだから、このトークは元祖ピロートークだよね。これさあ、腕痺れてないか? 大丈夫? 実はつついたら痺れ過ぎててビクッとしたりする? ……しないね。寝てるとわからないか。明日起きたらまたちょっと試してみることにするよ。ところで痺れるで思ったんだけど、巨人にもその感覚ってあるんだろうか。疲労自体はあると考えているんだけれど。長距離走行は途中で力尽きるわけだから、時給力に個体差はあれど、肉体――と言っていいのかわからないけど便宜上ね――肉体の限界はあると考えられる。彼らが疲労を疲労として理解しているかという点には大いに疑問を抱くけど、肉体的に疲労しているというのが是というべきかな。どう思う? これも明日話そうか。それと類似して痛覚。これは何度も被検体を通して実験をしているから、おおよその見当はついてきた気がするよね。痛みを与えると反応を示す。拒否に準じる絶叫を出す個体もいる。つまり痛覚に危機感を覚えるだけの知能があるのかという点は置いておけば、痛覚それ自体はそれなりにあると言えると思う。ただ痛みを認識しないってのが厄介だよね。生物なら痛みと恐怖をイコールにして、追跡の手が緩まりそうなものだけど、彼らにそれは期待できない。涙を流す個体も今のところ確認は取れていないから、彼らの表情の変化で感情の発露を見分けるのは現状ほぼ不可能と思われるのが惜しいな……。筋肉構造はどうだろう。動作からして我々人間とそう相違はないと思うんだけど、ああでも奇行種の動きだと関節可動域がおかしいこともあるね。ここを調べるなら、やっぱり対象が絶対的に足りないな……次の捕獲予定の子はさ、手足の特に丈夫そうな子と奇行種が欲しいな。痛みとの関係……うん、その辺りの限界値も知れるといい! ならば捻りと圧力と引力、これらを同時に負荷としてかけられるような装置があればベストだ。うんうん、まとめて技巧班と詰める必要がありそうだな。僅かな差でも比較検証する価値はあるんじゃないか!? 面白くなりそうだ。――そうそう違いといえば、体毛の箇所も人のそれとは少し違うようだよね。頭部にかかる被毛箇所はほぼ同じだけど、手足や陰部にその様子は見られない。まあそもそも生殖機能ないし、いわゆる陰部もないんだけど。あ、知ってるかい? この間死んでしまった被験体のあの子。彼は睫毛がとても長かった! 可愛かったよねえ……目も全体的に黒目がちでさあ……。視力の数値もそれぞれなのかな。巨人が大人しく視力検査を受けてくれればいいんだけど、現時点では動態検査しか出来ないのがもどかしいね。目の良い個体、悪い個体、嗅覚、第六感、……ああ! 彼らの可能性は虱潰しに探したいね! 何だかたぎってきたぜ! 陽の入りが活動限界を示唆しているらしいことも、視力と関係があるのかな。変温的な可能性は今までの体温計測からも否定されるから、何らかの別の理由……器官が関係している可能性が考えられる。――気になるなあ! なるよね、なるだろモブリット!

……ってああ、寝てるんだっけか。ごめんごめん。ちゃんと寝てる? ……うん、寝てるね。いい子だ。……お? モブリットも睫毛長いんだね。へえ、きれい。金色の縁取り――秋の干草色、かな。実りの証明。太陽に愛された人間。うんうん、似合うなあ! こうしてるとぽかぽかして気持ち良いのも太陽みたいで君にとても合ってると思う。君のにおいの染み込んだシーツ、太陽のにおいがすると思う。干してるから? さすがだなあ。そういえば先週私のベッドシーツもしてくれたんだよね。ありがとう。ねえほら、埃っぽさがなくなってて今も快適だろう? あ、髭だ。おお。ザリザリする……。少しずつ生えてきてる。新陳代謝ここに見参! って感じ。へええ、こんなにじっくり君の寝顔を観察することも滅多にないから少し新鮮だな……。もう少し明るい時分ならもっとよく見えたんだろうけど。月明かりでも夜目が慣れて、これはこれで雰囲気があって良いものだね。でもちょっといけないことをこっそりしてる気にもなるな。はは、別にいけないことしないよ? 大丈夫。安心して寝て――いつも寄ってる眉間もハンジさんが伸ばしといてあげよう。あんまり皺寄せてるとリヴァイみたいになっちゃうぞー。よしよし、伸びてる伸びてる。あ、ねえねえモブリット? 今ふと思ったんだけど、人間ってどうして身体を繋げようとするんだろうね? 動物的本能でいえば結局この行為って単なる生殖行為だろう? 繁殖の急を要しない私達がそれでも求めてしまうのには、どんな理由があるんだろう。それは進化か退化か、その仮定で得てきた複雑な思考という概念から生まれてきた矛盾の生む行為なのかもしれないね。ああでも。気持ちいいっていう単純な思考で求め合うというのも一つの正解なんだろうけど。……君はどうなのかなモブリット・バーナー? ちゃんと気持ちよくなってる? そうじゃないとこの行為における君のリスクばかりが大きくなっちゃうんじゃないかとハンジさんは心配してしまったわけだ。私は十分気持ちいいけどね。今日も良かったし。疲れてるのに付き合ってくれてごめん。ありがとうモブリット。私個人で言わせてもらうとだね、やっぱり繁殖を主とした理由ではないし、ただ単純に君と繋がりたいという意識の方が大きいかな。別に何が何でもってわけじゃないし、気分が乗らない時は乗らないものだけど。でも、うーん、どうかな。どうだろう。君がそういう意図で触れてきたらその気になることの方が多いと思う。……うん、たぶんそうだろうな。それってさ、身体が君を覚えてるってことだと思う? 犬の食欲と外的要因の実験を知ってるかい? 食事を与える時、決まって同じ外的刺激を与え続けると、その犬は外的刺激だけで食事を連想して唾液腺が刺激され分泌するようになるそうだ。興味深い実験だよ。それと同じことが私にも言えるってわけだよね。君に触れられると思い出すんだ。この手が次にどこに動くのかとか、どういう刺激を与えようとしてどこにどう触れるのかとか。もちろん毎回同じわけじゃないし、場所や体位や、交わす言葉なんかもそうだね。それぞれ違うことは多々あるけれど、それでも「君が」「私に」「触れる」という行為が変わらない外的要因で、私はそれを起点に過去の経験をリンクさせて与えられるであろう「快感」を想起してしまうわけだ。何が言いたいかというと、――あ、誰でも良いとかいうわけじゃないよ! この言い方だと誤解を生じるな。ええと、そうだな、「君が触れる」というワードで一括りにしてほしい。そのつもりで話しているよ。肉体的快楽もそうだけど、精神的快楽も同時に想起されてると私は考える。つまり「君が触れる」イコール「君に触れられる」イコール「君との行為が気持ちいい」イコール「君にされたい」イコール「君としたい」イコール「君がいい」という帰結。……ちょっと手を借りるね。大丈夫、かじったりしないから寝てて。……そうそう、この手が私に触れるのが好きだよっていうこと。この目が私を映したり、この唇が私に降ってくるのが好きだよ。つまり私は君の色々が結構好きなんだよっていう――――

――――あれ? モブリット、もしかして起きてる? おーい? お、狸!? 狸か!? 今動いたろ! あ、こら、うぷっ、くるし……っ、ちょ、ま、わかった! 寝る! 寝るから! わーかった! 寝よう! ……あ、そうだ。寝るけどこれひとつだけ。明日起きたらさ、君の野獣と限界発散方法について――うぶぉっ!

【FIN】


ハンジさんが一人称で延々独り言で語り続けるモブハン。読みずらいのは仕様です。すみませんー