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いつになく性急なくせに、これでもかというほど甘い指先が馬鹿丁寧に身体のすみずみを撫でていく。モブリットとこういう関係になってから、強引に暴かれたところも、ゆっくりと教え込まれたところも、それから自分で見つけてしまったところもすべて。
様子の違うモブリットを窺っていられたのは最初だけだ。
ハンジは久し振りに与えられる強い快感から、せめてもと必死で声を殺そうと奥歯を噛んだ。それでも漏れてしまう声をやり過ごそうと手の甲を口に持ち上げる。
けれど太腿の間に潜んでいたはずのモブリットは目敏くそれを見つけると、あっという間に伸び上がってその手を奪ってしまった。

「血が出ます」

まだ噛みついてすらいなそこに、モブリットがねとりと舌を這わせる。そうして視線だけはハンジから逸らさない彼から、ハンジも何故だか逸らせない。

「っ、……やめ」
「シッ」
「ん」

唾液で照らされて煽られた拒絶を、モブリットの唇がまた止めさせた。今度は啄むようなキスをされる。
雛が餌を強請るように甘えたつつき方が、唇と、頬と、それから耳朶に。そのまま首筋に降りたモブリットが再びハンジの唇に戻る。
やわりと下唇を食まれ、ハンジは酸素を取り込むようにモブリットの舌を受け入れた。
歯列をなぞり、舌裏をつかれ、力の抜けたハンジの身体をモブリットの右手がするすると滑りおりていく。

「ん、ふぁ……あ」

甘えた声の出てしまう自分をモブリットはどう思っているのだろう。
こんなつもりじゃなかったのに。
話をして、きっとホッとするだろう彼が気遣いで踏みとどまろうとするのを、明日からもよろしくねと笑って送り出すだけのはずだったのに。

骨盤の上を絶妙な加減で刺激されて、太腿の上、小さな黒子のある場所で、ハンジはびくりと下肢を跳ねさせた。甘い疼きがそこから真ん中にじわじわと登り、モブリットの唇がハンジの戸惑いを溶かすように舌を絡めて飲み込んでいく。
そんなところも感じるなんて、触られるまでハンジ自身も気づかなかった最たる場所だ。普段から脱ぎ着の際に普通に触れるし、誰かとぶつかることがあっても気にしたことすらなかった場所。それが彼に触れられるだけでどうしようもなく背筋まで震える。
全部知られているのだと改めて思うと、羞恥とよくわからない胸の痛みにハンジの身体に力が入った。
左手でハンジの頬をなぞっていたモブリットが、シーツを掴むハンジの手を自分の首に回させる。

「ぁ、まっ」

下肢の間に到達したモブリットの手のひらが茂みにひたりと添えられた。それから間を探るように、親指がしこりを探り当てた。
思わず小さな悲鳴を上げたハンジの額にモブリットが唇をつける。けれど指先は容赦なくそこを摘んで掻いて、つぶして、ハンジの口から小刻みな喘ぎが上らせ続ける。ぷちゅりと音を出して彼の中指が沈められたとき、ハンジは思わずモブリットの背にしがみついた。
もうそれしか出来ることがわからない。
宥めるようにするキスではなく、更なる快楽を誘き出そうとするかのような淫らな舌に口腔を犯され、絡め返すしか出来なくなる。
口での行為で既に十分溢れていたそこは、指の進入を簡単に受け入れ、更に奥へと誘う動きになっていく。
あえかな息で必死に応えるハンジから唇を離すと、モブリットはゆっくりと唇と舌でハンジの肌を下りだした。

「そ、こ、やだ……っ」
「……ここ？」
「やッ！」

肌の上に唇をつけて低く囁きながら、モブリットの指先が中で器用に肉襞を擦り上げる。わかっているくせにいちいち聞くな。いつもの場所を軽く吸われて、ハンジの制止の声も熱い吐息に飲み込まれてしまった。舌と唇に下腹部がきゅんと収縮して身体が跳ねる。
同時にひくりと震えたのは、やはり中も同じだった。

「……ぁっ、あ、あ！」

目の前が一瞬白んだように軽く達してしまったそこから指を引き抜いて、普段なら痙攣が静まるのを待ってくれるモブリットが、代わりのように即座に自身を密着させる。熱く、腫れて感じるほどに熟れた入り口に宛がわれた昴りはひどく怒張して見えて、ハンジは咄嗟に震える腕をモブリットに伸ばした。
彼が割り入るその感覚を覚えている。

「あ、ま、待って、まだ……あっ！」

言葉もなくハンジを見下ろすモブリットが、その手を無視してハンジの中に打ち込んだ。
一息に奥まで飲み込んだ貪欲な口と違うことを口にしたハンジに、モブリットが覆い被さる。そのまま腰を動かしながら呼吸すら許さないといわんばかりの口づけで乱暴に奪い、ようやくずれて、モブリットがハンジの耳朶に唇を寄せた。髪を乱された耳元に短い息切れの音がする。

「……っ、っ」

打ちつけられる肌と肌のはぜる音が、卑猥な水音と混じって、ハンジはたまらずモブリットの肩に回した指先に力を込めた。モブリット、と呼びたいのに声にならない。快感に身体を支配されて、目の前のよく知る身体に泣きたくなる。

「……ンジ、さんっ」
「んっ、ん、」

縋る場所を求めた指先が背中に食い込み、モブリットがびくりと一瞬強ばった。
跡を残したらダメなんだっけ。
どうにかそれだけ思い出して、背中から手を離そうとしたその時、モブリットがハンジを強く抱き締め返してきた。
逆に拘束跡でもつけるかのように胸板を押しつけ、尖る先端が刺激される。頭を抱き込まれて、モブリットの肩口にハンジの唇がぎゅうと当たった。

「モ、ブリ……ッ」

もうダメだ。考えられない。
繋がった箇所から聞こえる淫猥な音に聴覚を犯され、引き抜かれる度縋りたくなる。押し込まれては飲み込む下は素直なのに、これ以上他の場所でも抗うことが出来なくなった。
ほとんと反射でハンジはモブリットの肩に噛みつくようなキスをした。
彼の動きが一瞬止まる。

「や、だ」

けれどハンジはそれを厭うように小さく首を振って、さらに強く吸いついた。
これが最後なら、もう何でもいい。
どうせ消えてしまうのなら、今日くらい、少しくらいもういいじゃないか。
止めさせる為にかまた唇に戻ってきたモブリットの舌は、ハンジの行為を咎めるように乱暴だ。でも甘い。頭の奥がじんじんと痺れて溶けそうになる。
無意識に両足はモブリットの背中に回していた。焦れたように擦りつけると、すぐに動きは再開される。

最後まで離さないで、もっともっと。

抜かれては突き入れられて、鼻に抜ける声が自分のものだと思えない。
飲み込みきれない唾液が伝う。荒い息を吐く為に唇が離され、また戻る。薄く開けられたヘーゼルの瞳が、ハンジをしっかりと見つめていた。

（モブリットは、ずるい――）

こんな行為、何でするんだ。やるならもっと適当でいいのに。快楽だけで甘さなんて教えてくれなくてよかったのに。なのに何で、こんな時に、そんな男の顔で自分を見るんだ――……
短い呼吸の隙をついて、ハンジはモブリットの背中に腕を回した。
モブリットのリズムに合わせて腰を揺らして、咽喉に、鎖骨に、何度も何度も噛みついては吸いついて、赤黒い痕をそこに残す。
今日だけだ。今日で終わりだから、これもすぐに消えるから。

「え？　あ、モブリット――」

と、首筋に吐息を感じた。べろりと舐められて気取られた瞬間、鎖骨との隙間にじゅうっという音と共に熱が灯る。そのまま唇は一度ハンジのそれを掠めて、喉元を何度も吸い上げ、下に移動し、胸の上まで乱雑な跡を散らして、ささやかな双丘にもつけられる。

「え、わっ、ちょ……んんっ」

モブリットからされたことなんて今までなかった。……いや、一度だけだ。初めての朝、着替えの時に見つけたのが最初で最後で。それからは暗黙の了解のように、触れ合った証拠はどちらも、どこにも残していなかったはずなのに。こんな。シャツを着たって隠しようもない所有の証を、終わりにつけてやり返すなんて、自分達はどこまで悪趣味なんだろう。
胸が苦しくて泣きそうになる。
思わず背中に爪を立てれば、モブリットが胸の先端を痛いくらいに吸い上げてきた。そうして腰を打ちつけながら、ハンジの首筋に鼻を埋める。

「な、なに」
「……、しまる」
「え、あ」

ごめん、と言い掛けたハンジの身体をモブリットが強く抱いた。
激しくなる腰の動きに限界が近いのだとわかる。
――わかる。イク時のくせも、これからモブリットがどうハンジの奥に入り込もうとしてくるのかも。
腹の奥がきゅうっと鳴いた。
ほしいとむずがる子供のような素直さで、ぐちゅりと溢れた液体が尻を伝う。モブリットに突き入れられて悦ぶ身体が、奥へ奥へと誘っている。
ハンジはすぐそこにあるモブリットの耳を舐めた。これは理性か、本能だろうか。ダメだ。どうしようもなく全てが欲しくて仕方なくなる。でも終わる。これで、最後だ。終わらせないと。

「――モ、ブ、リット」

好きだよ、好きだったよ、私は本当は君のことを。だから。

「ご、めん……っ」

困らせてごめん。ずるくてごめん。優しい君につけいってごめん。
最後の昴りに向けて一層激しくなる打ちつけに翻弄されながら、ハンジは小さく呟いた。応えるようにさらにモブリットが激しくなる。

「〜〜〜〜っ」
「――ふ、あ、ぁああッ！！」

この甘さと痛みが少しでも長く残ればいい。
そう思いながら、ハンジは達するその瞬間に、またモブリットの肩に噛みついた。