知って、暴いて、暴かれて




モブリットの手が頬にかかる。
唇に触れる寸前、頬骨の位置を確かめるように親指でなぞり、下から掬うように奪われる。
少し荒れてカサつく部分と、柔らかい部分が、馴染んだ動きでハンジの唇を優しく食んだ。
薄く開けて迎えれば、ぬるりと弾力のある舌がハンジの口腔に侵入する。

「ん、ぅ」

拒絶ではなく思わず鼻に抜ける声が出る。
甘くくぐもったそれに、動きを増した舌を絡めて、ハンジの手もモブリットの頬から髪を乱していく。
ベッドの上、向かい合い深く絡めながら次第に膝立ちでモブリットへと乗り上げると、ハンジの腰を支えていた彼の手が、シャツの裾から直接肌に触れた。脇腹の感触を楽しむように、ひたりひたりと這う手のひらの厚みが存外気持ち良い。
ハンジはふるりと息を漏らしながら、さらにモブリットの舌を舐った。
髪を梳かして首筋に触れて、時折頬へと唇を滑らせる。そうすれば、お返しとばかりにモブリットもハンジの頬を啄んでくる。耳朶を舐め、抱いた腰から背筋へ上る悪戯な手が、シャツの中で下着の上から膨らみを撫でた。

「ぁ」

頂きを掠める指先に吐息がこぼれる。
その隙間を縫うように唇を塞がれて、モブリットの手がハンジのシャツのボタンを外し始めた。
ひとつふたつ。片手で腰を抱きながら、器用に外される度に、唇がちゅっちゅと音を立ててハンジを突く。

「――ん、モブ、あ」

名前ひとつ、最後まで呼ばせてくれない小刻みなキスは、甘えと悪戯を織り交ぜている。
分を弁え、大人しめに控えている普段の部下は、ここにはいない。
ハンジの本気ではない抵抗を察してあっさりと封じる術に長けてしまった男は、唇だけでゆっくりと弧を描いてハンジの様子を窺ってくるのだ。

(くっそ……かわいいなあもう)

可愛くないと評するには、唇も手も甘すぎて、身体の奥がじんじんする。
全てのボタンを外されたシャツが、するりと肩から落とされた。
膝立ちで見下ろすハンジの首筋に鼻を埋めたモブリットが、ゆっくりと体重を預けてくる。促されるまま押し倒されると、また激しく甘いキスに襲われた。

短い息を吐きながら、モブリットが自分のボタンにも手を掛ける。気づいて手伝うハンジへキスする唇は止まらない。
時折頬を乱暴に撫でてくる指先を甘噛んで、ハンジは自分の背中の下で蟠っていたシャツをベッドの端に手さぐりでまとめた。

「ハンジさん」
「……ん?」

最後のボタンに手を掛けたモブリットが、ようやく少しだけ息を吐いた。それでもハンジの腕は彼の首に回せる距離で動きを止める。
名前を呼ばれて見つめれば、熱を持て余したヘーゼルの瞳の中に自分がいた。

(クッソ滾る――)

大人しい男だと思っていた。
中にくゆるものはあるのだろうが、それを容易に見せることのないタイプだと。
見せるなら、それはおそらく彼にとってよほどの事がある時だろうと。
その判断はある意味正しく、けれども修正が必要でもある。
積み上げた枯葉の中で燻ぶる火種のように、彼はいつも燃えているのだと知ったのは、そう近くない過去のこと。表面を覆う葉の瑞々しさと冷たさに安堵し、一陣の風さえ吹けば中で爆ぜる火傷すらしそうな熱情を確認しては、やはり安堵している自分にはもう笑うしかない。いつの間にこんなに炙られていたのだろう。

よほどのこと、に、自分が組されているのは自惚れじゃない。

「モブリット、どうし――ん、ぁ」

言葉を待つハンジの胸元を覆う黒のスポーティな下着の上から、緩い刺激を施されて、いっそ冷たくも見える瞳の下でハンジの口から嬌声が漏れた。感度を確かめるように指先が先端をなぞり、膨らみを柔く揉みしだく。時折強められる絶妙な力加減のもどかしさに堪らず、ハンジはモブリットの手に手を重ねた。

「モブリッ――」
「手を、こっちに」
「え、――わっ、と!」

言うなり両手を一括りに持ち上げられて、雑な着替えのように頭から一気に下着を剥ぎ取られてしまった。
不意の外気に晒された肌が震える。

「乱暴っ」
「すみません我慢できなくて」
「嘘だね!」

無造作に床へ捨てられた下着の上に、反動でずり落ちたシャツが重なる。
モブリットの唇がハンジの胸に添えられた。
片手でもう一方の胸を刺激して、唇は先端をぱくりと含む。舌肉の熱さと動きで転がされて、張りつめていくのを感じてしまう。
泡立つ肌と、中から沸き起こる次への期待にふるりと震えて息を詰めたハンジに、モブリットがふと動きを止めた。足の間に膝をつき、ハンジの顔をひたりと見つめる。

「……寒いですか?」
「え?」

続くはずの刺激を止められて、上がりかけた息で聞き返すと、モブリットは生真面目な表情で、ハンジの二の腕を上下にさすった。甘さのない、やけに労りだけを感じる手つきがもどかしく、それと同時に可愛くて、思わず笑い出しそうになる。
ぷつぷつと泡立つ肌を何度も暖めてくれる動きはどこまでも真摯で、ああもう本当に、と口元がこみ上げる笑みで歪んでしまった。

「シーツ掛けましょうか」

それをどう受け取ったのか、おもむろに端に寄せていたシーツへ手を伸ばすモブリットを、腕を掴んで止めさせる。

「いらない。大丈夫」
「ですが」
「快感を予期しての鳥肌だから。……ええと、武者震い?」
「……言葉の選択が間違っています」

取った腕をまた自分の胸へと誘導させて「そう?」と笑えば、モブリットはきゅっと唇を引き結んだ。僅かに寄った眉を片方上げてハンジを見遣る。一見真面目に見えるその表情は、困惑ではなく攻撃一歩手前の伺う顔だ。

(スイッチ、入ったな)

胸においた指先に力が入れば、後はもう続きは何より身体がすべてを知っている。二の腕だけでなくぞくりと泡立つ感情を背中に走ったことを知られる前に、ハンジはモブリットの肌蹴た胸に手を這わせた。

「それにさ」
「――う、わっ!」

そのままぐっと押し退けて、勢いのままシャツを引き抜く。皺のことなど考えず床に放ると、突然のことにされるがまま押し倒されたモブリットへ、ハンジは身体でダイブした。

「ちょ、っと、ま」

色気なく胸を合わせた先で、困惑の声を上げるモブリットの髪を、わしゃわしゃとやはり色気なく引っ掻き回す。
いつもの分け目がくったりしてしまうまで散々撫でて、ハンジは笑いながら額にちゅっとキスをした。

「ねえ熱くなるよ、絶対」

だからシーツはいらないよ。

乗り上げて言った自分がどんな表情になっているのか、ぱちくりと瞬いたヘーゼルの中に探そうとして、ハンジの後頭部をモブリットの手が強く引いた。言葉もなく塞がれた唇がびりびりと痺れる。
舌も絡めず、ただ息だけを奪うような口づけはすぐに離れ、代わりにモブリットがハンジの手を引いてすかさず組み敷く体勢にされた。

「わ――」
「……確かに!」
「ふはっ!」

お返しとばかりに髪をぐしゃりと掻き回されて、けれど次第に熱を覚えさせるその指先で、吐息で、視線で、ハンジの全てに火が灯される。


【Fin.】


灰色さんの描かれるモブハンで勝手にイメージさせてもらったモブハンR15!
灰色さんのモブリットとハンジさんは、それぞれにしっかり確立された自己があって、分隊長と副長なんだけど人間としては対等で、恋人の時間を過ごすときもお互い虎視眈々と狙って甘えて甘えさせて……とやっててくれそうな大人可愛いかっこいいイメージです。スタイリッシュ!
それをどう表現したら伝わるかなあ……と筆の流れるままに徒然にやらせてもらったところ、なんということでしょう。ただのマウントの取り合いになったのでした。(解決Before★After)