ようこそ課外授業! 放課後の終業ベルが鳴ってホームルームが終われば、部活動のある生徒はそれぞれの教室や体育館、グラウンドへと散っていく。その他の生徒も、教室で友達とお喋りに興じたり、好きな先生を囲んだり、遊びに行ったりと様々だ。 けれども校舎三階西棟奥から二つ目の、薄暗い社会科準備室。 我城とも呼べるこの部屋には、当然のことながら生徒の姿は一人もない。理由は簡単。テスト期間でもない放課後に、メイン教室を避けるようにひっそりと置かれた準備室までわざわざ訪ねてくる物好きなんて、そういないからだ。そもそもあまり質問の多い教科でもないし。 けれど。 「モブリットー、いるー?」 ノックもなしにいきなり開けられたドアに、俺は読みかけの書面から顔を上げた。 「……先生つけましょうね、ハンジさん」 「ちょっと教えてほしいっていうか、見てほしいものがあるんだけど」 いた。物好きな生徒の代表格。ハンジ・ゾエ、14歳。 俺の指導はあっさり無視して、ぴしゃりとドアをしめ切ると、後ろ手にさっさとドアロックをかけた。カチリ、と鳴った音におやと思う間もなく、彼女は丸椅子を引き寄せると、俺の前に腰を落ち着けてしまった。 「いいかな……?」 そこで初めておずおずと上目遣いで俺を見てくる。 ハンジ・ゾエといえば、生物部所属で一年の頃から成績は優秀。ただし、いわゆる天才肌を地でいく彼女は、多方面において既成の枠にとらわれない。会議の席で毎回のように成績と言動のアンバランスさが話題になるこの少女とは、一年生の時の受け持ち授業で初顔合わせ。その後、俺が二年生の時の副担になって接点があったくらいだが、どういうわけか最初の授業から頻繁にここにやって来るようになっていた。まるで社会科準備室が彼女のもう一つの部室でもあるかのように。 そのくせ全教科中、俺が受け持っていた時の社会が一番成績最下位だったのだからよくわからない。 今はもう授業も学年も繋がりはなくなった俺のところへ、それでも彼女はやってくる。 勉強の質問もなくはなかったが、それよりもただ普通に喋ったり、寝たり、本を読んだり、好きに過ごしては帰っていくのだ。 そんな日常が三年も続けば、それも当たり前になっていた。 「どうしました?」 本日の彼女は、見たところ鞄も教科書も持ってきていないようだが、何か授業でわからないことでもあったのだろうか。 学校指定の制服は面倒臭いと公言しているハンジさんの服装は、今日も学校指定の濃紺ジャージで、上までしっかりファスナーを上げた襟を立て、何故だが難しい顔をしている。 俺の今年の受け持ちは一年生の世界史で、大学の専門課程も西洋史メインで卒業している俺に、政経の突っ込んだところは聞かないでほしい。教師らしからぬことをチラリと考えながら、俺は彼女に向き直った。 「あのね――あ、その前に絶対誰にも言わないって約束して!」 丸椅子のキャスターをガラガラと鳴らして、ハンジさんが膝の付く距離に来る。 眼前でおもむろに立てられた小指に面食らって、俺は両手で顔の前をガードした。 「何です? 今日は内緒話ですか?」 「いいから!」 大人びた言動で周囲の大人を翻弄しても、こういうところは中学生だ。 強引な約束を取り付けようと頑張る可愛い仕草に、俺は苦笑しながら同意した。小指を絡めて二、三度わかりやすく振ってやる。 「はいはい。誰にも言いません。指切った。……ハンジさん?」 口早に「破ったらソニーの胃袋ね」と呟いた言葉には一瞬ドキリとさせられたが(ソニーは彼女の愛犬らしい。他にビーンという猫も飼っていると前に話してくれた)、小指を離した途端、ハンジさんはジャージのファスナーを全開にした。するりと脱ぐと、それを後ろに置いた教材見本が積み上げられたローテーブルへと放り投げる。それからTシャツの裾をきゅっと握り、眉根を寄せて呟いた。 「実はさ、何だか最近胸が痛くなる時があって」 「――は?」 何? むね? 胸? 痛い? ええと? 物理的に? それとも心的要因で? 俺の脳の処理速度がハンジさんの言動に追いついてくれない。 「コリコリっていうか、全体的に腫れてるような気もして、だからちょっと心配になって。でも自分で触ってたらなんかよくわかんなくなってきちゃってね」 「あ、あの」 「だからさ」 突然何を言い出したのかと呆気に取られる俺を無視して、彼女は続ける。 早口なのは、自分の思考に没頭している彼女の癖だ。 そうして言うなり、彼女は突然Tシャツの裾を捲り上げた。 「モブリット、触ってみて?」 「できるかーーーーーーーーーー!!!!!!」 当然のようにされたお願いに、さすがに俺の口から絶叫が出た。 何言いだすんだ。というか、何見せてるんだ。中学生。女の子。教師。男。ダメ、絶対。 発育途中のささやかな膨らみだとか、ワイヤーどころかレースもないシンプルなスポーツブラだとか、あ、でも思ったよりは意外とあるかもとか、そういうことは問題じゃなく。日に焼けてない白い肌は若者らしく張りがあって、一見細く見えるけど、引き締まった筋肉が無駄なく綺麗にラインを形成している様を、おいそれと他人の前で剥き出しにするなんてもっての外だ。 興味の対象物を見掛けたらバネ仕掛けのように飛び出して行くあの瞬発力や、「モブリット聞いてー!」と嬉しそうに飛びついてきていたジャージの下はこうだったのかと、教師に思わせるとかありえないだろう。本当、ダメだから。やめなさいってば。 「え、何で!? 可愛い教え子が心配じゃないの!? いいじゃん、ちょっとだから! ちょっと触って確かめてくれるだけでいいから! ほら!」 「あああなたこそ、可愛い先生が心配じゃないんですか! こんなんこと、未成年に対する猥褻罪であっという間に逮捕失職のフルコースですよ!? あ、ちょ、こら、やめ――」 けれど、俺の態度に思い切り不満顔になったハンジさんは、ぐいぐいと丸椅子で迫って来た。 今すぐ服を下ろさせるべきか、自分の視界を塞ぐべきかで戸惑う俺の手を奪う。 「大丈夫大丈夫」 「何が!? まったく大丈夫が見当たりませんよ!?」 「ここに人なんて滅多に来ないし、とりあえず鍵も掛けたし」 「そ――」 ういう問題じゃない。というか、鍵は最初からその為か! 「猥褻物に抵触するほど大きくないって。ほら、ね?」 (そういう問題じゃありませんけどもおおおお!!!) どういう基準だ――叫び掛けた抗議の声は、ふにゃりとつけられた柔らかい感触で、喉の奥に引っ込んでしまった。 ね、じゃない。大きさじゃなくて問題は場所だ。 何してるんです。ダメだって。ちょっと待った。触ってる触ってる。思い切り彼女の胸を、俺の手が、触れて……! 「それでね、この辺りの奥なんだけど……わかる?」 「わっ、わかりません!」 左手で俺の手首をしっかりと握り、右手で上からトントンと押してくる彼女に、俺は盛大に首を振った。 わかるまで触ったら完全にアウトだ。いや、もうこれもアウトか、いやでもこれはハンジさんがいきなり、無理矢理―― 引っ込めようとした俺に、そうはさせじとハンジさんは掴む力を強めて、上半身を俺の方へと近づける。 「もっとちゃんと触ってよー」 不満げに唇を尖らせられても、ハイそうですね、が出来るシチュエーションじゃない。 「ちゃんとって――、こ、こういうことはせめて保険の先生に」 「嫌だよ! 恥ずかしいじゃんか!」 「は――はぁっ!?」 驚きの理由を高らかに告げられて、俺は間の抜けた声を上げてしまった。 うちの常勤保険医は一般的な女性だし、定期的に入るカウンセラーも色々なケースを想定して、男女それぞれが雇用されている。 その専門家を差し置いて、今、ここ以外でほとんど何の接点もない男の社会科教師と、準備室で二人っきりで―― 「俺には恥ずかしくないんですか!」 「え? だってモブリットは大丈夫だから」 また驚きの理由が出た。 さも当然とばかりにきょとんと瞬くハンジさんは、心底そう思っているらしい。 (大丈夫って何が……え? 待った待った。全然意味が……) 信用とか信頼とか、そういう意味か? それなら教師冥利に尽きるけれど、それでも性別というものがあってですね、ハンジさん。 俺だって男という生き物なわけで、グラビアで追うタイプと実際付き合うタイプが合致するかというとそうでもなくて、だからつまり、大きくなくても、それはそれでよからぬ感触に頭が混乱するくらいには若い男という生き物なわけで。 それともまさか、俺になら何をされても大丈夫とかそっちの意味かと、更によからぬことを考え出しそうになったところで、ハンジさんがきゅっと唇を噛みしめた。モブリット、と呼ぶ彼女の声が震えて聞こえて、俺の抵抗が無意識に引っ込む。 「ねえ、これって病気かな……?」 「――」 不安そうに瞳を揺らして出された質問に、俺は自分の浅ましい思考を葬り去るべきだと理解した。 彼女は中学生で、女の子だ。忘れるなんてどうかしていた。どんなに自信に溢れて好奇心に輝いて見えても、不安と困惑は常に背中合わせに抱えている。そういう時期だ。特に成長期の身体の変化は、男の自分にだって覚えがあるし、女の子ならそれは男の比ではない。 心理学含めそこも勉強したはずなのに、何やってるんだと自分を内心で叱咤する。 「……たぶん大丈夫だと思いますよ」 「本当?」 出来うる限り優しい声音で言う俺に、まだ不安の色が濃い瞳でハンジさんが見上げてくる。 どうしたら安心させてあげられるだろう。 ここで手を離すのは簡単で、専門家を勧めることも重要だ。が、今頼られてるのは自分でもある。 頭の良い彼女のことだ。お為ごかしではなく、自分の持ちうる知識を正直に晒すことにして、俺は彼女から逃げるように引いていた身体を元に戻した。彼女に取られているだけでなく、左手も添えるように彼女のもう一方の胸に触れて、最初に指摘された胸の上部、それから下部を押してみる。 彼女が自分で言った通り、まだそう大きくない胸は、けれどもきちんと女性らしい膨らみを帯びて柔らかい。 「はい。ええと、成長期の女性はホルモンの関係で胸が張ることがあるんです。痛みを感じることがある、というのは多分その関係だと思いますし、コリコリ、というのはよくわかりませんけど、どこら辺です?」 「あ、ええと、……ここらへん、かな」 「ふむ」 両手の上から、ハンジさんが軽く押さえて教えてくれるその個所を、親指と、それから人差し指、中指、薬指の順で包むように押してみる。 胸の真ん中を中心に、塊といえばそうも取れる部分はある、ようなないような。 「……触った感じでは特に俺にはおかしな感じはわかりませんけど。というかこれのことを言っているなら、乳腺では?」 試しに他の部分を軽く揉み込んでみたが、それ以外に俺の知識と経験ではわかりようもなさそうだった。 右も左もそうしてじっくり確かめて出した結論に、しかしハンジさんからの言葉がない。 「……ハンジさん? 聞いてます?」 「あ、うん、聞いてる。ごめん、ぼうっとしちゃった。えと、そっか、乳腺かー……」 視覚的な引き攣れがないかと確かめる為に近づけていた顔を上げると、ハンジさんは我に返ったようだった。 もしかすると、俺の意見と彼女の知識を、頭の中でマッチングしていたんだろうか。 「とにかく、この感じとその症状だけなら今すぐ深刻になることはないと思いますけど、あまり続くようなら専門医に――大丈夫ですか?」 「う、うん!」 まだどこがぼうっとしているように見える彼女の顔を覗き込むと、ハンジさんはコクリコクリと妙に緩慢に思える動作で首を振った。それから「へへ」と笑って小首を傾げる。 「……あ〜、でも良かった。ちょっとホッとしたよ」 「痛む時はあまり触らずそっとしておくといいと思いますよ」 「うん、そうする。ありがとう、モブリット。聞いてくれて良かった」 「でもこれはあくまで素人診断なので、気になるようなら本当にきちんと病院に行ってくださいね」 「わかってる」 乳腺が張るというくらいなら、それは女性ホルモンの関係だろうし、それ以上なら、やはり病院に行くべきだ。 俺の提案にやっと頷いてくれた彼女は、ようやく晴れ晴れとした表情を見せてくれた。 発育に掛かる時間や症状は人それぞれだ。成長痛しかり、生理しかり、一般的な思春期や成長期のハウツー本ではよくある事象でも、個々人にはいつも初めての経験になる。 天才といえそれは彼女も変わりなく、突然自分に起きた胸への変化は、とても不安だったんだろう。 (女の子だなあ。胸もやっぱり柔らかいし――……) ふに、と指先の沈み込む先を見て、俺はハッと我に返った。 揉んでる! 揉んでる! アウトなやつだ! 「すみませ――!」 慌てて両手を離そうとして、 「でも人体って不思議だね。同じ胸でも他の場所は平気なのに、ここだけ張ったりするとかさあ」 手の上から両手を重ねてきた彼女によって、思い切り胸を押しつけられる。 意表を突かれた俺の手のひらは、完全にハンジさんの胸を覆ってしまうことになった。 指先がささやかな膨らみの感触を否応なしに感じている。それに。 「ね、他は結構柔らかいでしょ?」 「は!?」 「ほら、こことか」 上から適当な当たりをつけて俺の手を押すハンジさんに、そういう意図はないと知ってる。 だけども俺の手のひらが包む膨らみの、ちょうど中心辺りにある柔らかな突起の上から押されて、そこがどこだかわかる俺は一人で上擦った声になった。知識のない相手にこれはまずい、――いや、知識があっても完全にまずい。 彼女は生徒で、俺は教師で―― 「ちょ、ちょっと、ハンジさん、もう――」 「――あ、ッ」 「え」 彼女が驚いたような声を上げた。今までに聞いたことのないような少し高い声と同時に、置かれた手の上でびくりと指先も跳ねた気がして、思わずハンジさんの顔を見る。 と、彼女も自分自身に驚いたようで、また少し不安げな顔で俺をひたりと見つめていた。 この顔に弱い。途端に無下に出来なくなる。 「ハンジさん?」 どうにか落ち着かせてあげたくて、名前を静かに呼んでみる。そうするとハンジさんは逡巡するように目を伏せて、それからきゅっと俺に重ねた手のひらに力を込めたようだった。 「あ、あれ……、あの、ね? ……そこはちょっと、変、かも」 「そこ……?」 戸惑いながら落とされた彼女の視線の先を追って、俺はその場所に行きついた。 そこは彼女の胸の中心。俺の手のひらが確かな主張を感じる場所で、それはつまり―― 「!!」 触っちゃいけない胸の中で、特に触っちゃいけない先端の名は―― 「す、すみませ――!!!」 「違うよ! 平気、痛くない……」 そういうことじゃないんです。痛くなくても、そういうことじゃないんです。 引っこ抜こうとした俺の手を、しかしハンジさんはがっしりと掴んで離してくれない。 むしろ何だか妙に切なげな顔を向けられて、俺は息を飲んでしまった。 痛くないんだ、と呟きながら自分の身体の変化に戸惑うハンジさんは、俺の手が当たるその部分を、上からおそるおそる押してくる。その度に手のひらに感じる尖りの主張がはっきりとわかる。 その感触を少しでも他に逃がそうと立てた五本の指が、周りの膨らみに沈み込みそうになり、慌てて離す。すると反動で先端が手のひらに強く押し当てられてしまう。これを繰り返す動作を何と呼ぶか。それはつまり、何というか、今、完全に、もんでいる―― 「……ふ、ゎ……」 それでもハンジさんは手を離さない。 潤み始めた視線をしっかりと俺に向けたまま、その動きを受け止めて―― 「痛くないけど、……ね、モブリット、これ、なに……かなっ?」 「………………なん、で、しょうね……?」 最初は弱く、次第にはっきりと形を変えていく小振りな胸に、だんだんわけがわからなくなってくる。 俺の手の上に置かれたハンジさんの一回り小さい手が、同じ強弱で押し付けられる。息を詰めたような小さな声が俺にかかって、やけに甘ったるい気にすらなった。 動きを変える。と、ずらした指の間に現れたそこに、彼女自身の指が触れて―― 「――わっ!」 「はいっ!?」 その途端、がばりと上げられた顔が鼻に付きそうになって、俺も慌てて顔を上げた。 ハンジさんは胸と俺の顔を交互に見上げ、それから思い切り顔を歪めた。 「コ、コリコリしてる!? ここ、え、何で!? いつも結構柔らかいのに! え、え? 何で!?」 「え」 指の間から覗くちょんとした先端を、おそるおそる触って、愕然とした表情で俺を見る。 「ほ――本当だよ!!」 何が、ああ、ええと、いつもは結構柔らかいとかいうやつですか? そうですね、さっきまでちゃんと柔らかかった――って、そうじゃない。そうじゃないだろう。そんなこと、わかっているけど言えないだろう。どの口で言える。どう言えばいいんだ。コリコリさせたのは俺のせいです、なるんですよ、何故ならそれは――――言えるかそんなこと。バカじゃないのか。 「ねえ、ここ今硬いよね!? え、え?」 「いえ、あの、」 雰囲気に飲まれたといえばそれまでだが、そんな不誠実極まりない言い訳を彼女に出来るか。 理由も原因も須らく俺だ。 内心で汗が噴き出そうになっている俺の前で、そうと知らないハンジさんは、Tシャツを捲り上げたまま、俺のシャツをぎゅっと掴んだ。綺麗な明るいアンバーの瞳にみるみる透明の膜が浮かんで揺れる。 「モ、モ、モブリット、こここここれは本当に病気かな……っ」 「だだだ大丈夫! 大丈夫ですすみません! 違いますから泣かないで!」 何てことを。何て不安を与えてしまったんだ。自分を思い切り罵倒して殴り倒したくなる。 思わず彼女を抱き締めると、回した腕の中でまだTシャツが上がっていることに気がづいた。勢いよく引き離すと不安をいっぱいに宿した瞳から涙が一粒ぼろりと零れる。咄嗟にシャツの袖を押し当てて拭い、乱暴にTシャツを下ろさせて、俺は荒く席を立った。 「モブ……」 か細い声を背中に聞いて、彼女の後ろにあるローテーブルからジャージの上着を取ると席に戻ってバサリと掛ける。 それからぎゅうっと抱き締め直して、背中と頭を何度も撫でる。ポンポンとリズム良く、何度も何度も。 「大丈夫ですから。それは本当に大丈夫です。……すみません」 汗とシャンプーと、ハンジさんの匂いがする。きゅっと両肘を抱え込んで俺に身体を預けていたハンジさんが、ぐずっと鼻を啜りながら俺の胸に呟いた。 「……これも、みんな、なるやつ?」 「なるやつ、ですけど、まだあんまりしちゃダメなやつです……」 した自分が何言ってるんだ。罪悪感で死にそうだ。 今更子供にするように優しく抱き締め直したところで、自分の愚かさに泣きたくなる。 ハンジさんがこくりと頷いて、ゆっくりと俺の胸に手を置いた。身体を起こしたハンジさんは、今まで見たこともないくらい心許ない表情を俺に見せた。 「わかった。気をつける」 何を、どう、気を付けるつもりになったのかはわからないが、そんなこと聞けるわけもない。 とりあえずあなたが一番気をつけるべきはそういう危うい表情で、今一番気をつけるべき相手は目の前の俺で間違いありません。 そんな忠告も、喉から出掛って、でも言えない。 羽織っていただけのジャージのファスナーを不器用そうに上げる姿が、くっそ、もう、ちくしょう、可愛いな、とか思ってしまう男がいるんですよ気をつけて、と本当は教えた方がいいことなのに。 「モブリット」 一番上までしっかりと上げて、いつも通りに襟を立てたハンジさんが、俯いた顎をすっぽりと入れて俺を呼んだ。 元々彼女の体格には少し大きめなジャージの上着は、袖先も余って指先がちょこんと見えている。 その手を襟で隠れるかどうかギリギリの口元に持ち上げて、ちらっと向けられた視線と合った。 「……今日のこと、本当に誰にも言わないでね。約束」 言えるか。むしろ言わないでください。卒業して、高校も卒業して、大学に入って、成人しても絶対に。 あとそういう表情も本当に控えて。 拗ねたようにずいっと差し出された右手の小指が、何だかとてもいけない契約に見えてきた。 全ての誘惑からせめて視界を閉ざそうと、両手でさめざめと顔を覆って「誓います」と呟いた俺の小指を、彼女は強引に絡めて切った。 【FIN】 4/12の梅星さん(@ume5902)ハピバに送るモブハンss。現パロJKハンジさんと社会科教師モブリット。思春期の相談を受けるお話です。おっpい揉んでますが、現実でやったらいけないやつです。良い子は真似しちゃダメなやつです。成人記念に成人がやったらいけないss。 |