キー・トーク


軍属になるずっと以前から、互いを見知っていた上官たちのツーカーの会話は、慣れた耳にもテンポが良くて、小気味良い。
無線機から流れてくる演習の音より、心配のない二人の会話はいつものことで、今更何を気に留めるということもない。

「ホークアイ中佐、昨日の――」
「マイルズ大佐に引継ぎ済みです。明日までに企画、立案を依頼しておきました」
「いい頃合だな。医師団の派遣は」
「午後に一次報告が上がってくる予定です。先遣隊の方は準備済みです」
「ああ、頼む」

何が、何を、といった内容を一切省いて進む会話に淀みはない。
サクサクと進む話題はどれも軽い内容ではないはずなのに、マスタング将軍の言葉を受けて、おそらく必要な書類を準備し終えていたらしいホークアイ中佐の動きにも迷いはなかった。
今、自分の下に就いている部下達も良くやってくれているし、なかなか馬の合う奴らだと思うが、彼らのような会話が出来るようになるまで、いったいどれほどかかるのかなんて想像するだけ無駄だ。

「さすがですねえ。息ピッタリで」

そんな日常のやり取りに、どうやら同じ感想を抱いていたらしいフュリーが俺の隣で微笑ましそうな声を上げた。自分と部下とのやり取りを思い返しながら同意する。

「だな。俺、年々追いつける気がしないわ」
「はは、僕もです。長年連れ添った夫婦でも、あそこまではどうかって感じしますもんね」

艱難辛苦の差とでもいうのか。
いつ見てもそっくりそのままミニチュア版みたいな子沢山のファルマンも、達していない次元だろうというのが、ブレダも含めた俺たちの共通見解だ。
そういえば、彼らのこれまでの実績や多少のヨイショもあるだろうが、秘密裏に実施された理想の上下関係ランキングでいつも上位入賞を果たしているらしいという噂を聞いたことがある。
足払いを掛けられたり、堂々と無能宣言されたり、ましてや笑顔で銃口を向けられる上官を目の当たりにしてきた身としては、掛け値なしに首肯するのは憚られるが、まあ、今の落ち着いた雰囲気だけを見れば、わからないこともない。

「ああ、そういえば」
「はい?」

ふと、中佐の手でまとめられた書類に目を向けていた将軍が、思い出したように顔を上げた。

「今日だったか?」

やはり色々省いた質問を、中佐はすぐに理解したらしい。
会議の手筈か何かだろうとあたりをつけた俺たちを尻目に、申し訳なさそうに少し眉が下がっている。
仕事の関係で彼女がこんな表情を見せるのは珍しい。
滅多にミスをしない中佐が、言いにくそうに書類を前に持ち直した。

「あ――。すみません、私今日少し遅くなりそうで」
「撃ちに行くんだろう?」
「はい」
「いいさ。きたら開けといていいか?」
「お願いします」
「うん。ああ、それと前のは入れてあるぞ。二段目な」
「右側の?」
「そう」
「わかりました」

随分色々省かれた会話は、やはり淀みなく終了した。

「……」
「……」

これは――アレか? だよな。仕事の話――の後の、アレだよな。
それにしても随分すんなり――いや、えーと、まさかやっぱり一緒に――いやいや、え?

勝手にうっかり巨大化してしまった耳を元に戻しつつ、次の軍議に向かう二人の背中を見送る。
迷いなく遠ざかっていく二人分の軍靴の音を聞きながら、何とはなしに落ちた沈黙を、フュリーの咳払いが、全てを代弁して発せられた。

「ええと……」
「息、ピッタリだよな」
「……ですよね」

昔からギリギリのラインで踏み込めないツーカーに会話は、他に何の確証もない。
だから、つまり、他に言ったらマズい気がする。
ある意味ツーカーの会話を終了させて、俺とフュリーは黙々と自分の仕事に取り掛かったのだった。



Yさんのハピバ記念に差し上げたもの。
リザたん中佐設定です。もう事実婚でいいと思う。はぁはぁ。


 
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