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ララミス星系☆遠距離恋愛未満(03) 「ええ〜……うーん……あまい、けど、これって、この二人って、もしかして……」 イヤホンから二人の会話が聞こえなくなって、しばらく。 片耳にイヤホンをつけたままのマキナは、腕組みしつつ可愛い顔の眉間に難しい皺を作りながら、左右に首を傾けた。 言わんとしていることを察して、レイナは画像デバイスを消してから、ビシリと人差し指をマキナに向ける。 「デキてない」 「だよねえ!?」 勢いよく差し返された人差し指が、マキナの不満を表している。こくりと頷くことで同意を示して、レイナは膝上で操作していたキーボードを折り畳んで机上に置いた。 最初に二人の会話を聞いてしまったときはまさかと思った。が、その疑問は回を重ねるごとに強くなり、今日のマキナの反応で確信に変わる。確定だ。あの二人は付き合っていない。 「ええ〜……ちょっと待って。意味わかんない。あんなことがあって、どう考えても二人ともものっすごく意識してたよねえ? それで、一回くっついて別れたわけでもなさそうだし、なんでまだこんななの? ねえ、レイレイ。カナカナとメサメサ、絶対両想いだったよねえ!?」 「おそらく。たぶん。きっと。……絶対」 「だーよーねえぇ!?」 もう一度「意味わかんない」と叫びながら、マキナがぎゅううっと抱きついてくる。その濡れたピンクの髪を撫でながら、レイナはラグナにいた頃の二人の様子を思い浮かべてみた。 さして興味のない二人の始まりなど覚えてはいない。気づいた頃には既に、食事に誘うカナメをメッサーが断る、という面白い図式が出来上がっていた。けれどそこに見えたのは、いつものカナメの年長者的なお節介と、嫌悪ではなさそうなメッサーの頑なな固辞の姿勢だった――……はずなのに、いつだったか偶然その現場に居合わせたレイナに「残念。また振られちゃった」と笑ってみせたカナメの顔がやけに寂しそうで、それ以来メッサーを見るとよくわからない苛立ちがこみ上げてくるようになったものだ。 だからというわけでもないけれど、その頃ちょうど発生したケイオスの連絡ミスに端を発したメッサーの引き抜き話を、ラグナ支部中に広めてやったことも今ではいい思い出だ。 そんな二人が食事をする姿を、レイナはついぞ見ることはなかった。が、結局メッサーにとってカナメが特別な存在だとわかったのがクラゲ祭りの日で。あの日していた会話の内容はわからないが、傍目にも随分いい雰囲気に見えた。 それからすぐに、アル・シャハルでの出来事になる。 メッサーの命を懸けたあの行為がただの忠義心だなどと言われたら、ただでさえ興味のない他人全般に対して、完全に不信になりそうだ。 「……メッサーはカナメのことが好き」 「うんうん。そうじゃなかったらあのメサメサがあんなスタンプ使わないよね。カナカナ限定!」 しな垂れかかりながらそう言って、マキナはレイナから身体を起こした。どうやら着替えをする気になったようだ。後ろのドレッサーからレッスン着を手早く着込んで、また隣に腰を落ち着ける。 「カナカナだって、絶対メサメサのこと好きだよね。寝る前に声が聞きたいとか! カナメ・バッカニアが! 大スクープ発言!」 本当にそうだ。 たまに抜けているところはあれど、いつもハキハキとしたカナメのあんな甘えたような、それでいて少し答えを怯えているような心許無い声は聞いたことがない。深く頷いたレイナを、マキナがぎゅっと抱きしめる。 「……メサメサはさぁ。ヴァールのこととかあって、カナカナの電話も任務みたいに思ってるぽいけど、……でもどう考えても違うじゃない?」 「カナメ、かまってちゃんになってた」 「そう、そこ! それー!」 レイレイわかってると叫びながら抱き締めてくるマキナの腕に力が入る。 そのままぐらりと倒れてしまったレイナを笑いながら引き起こして、マキナはこつんと額をつけた。 「カナカナっていっつもワルキューレのこと一番に考えて、自分の主張ってしないじゃない? でもメサメサには違うんだなあってホッとしたのに」 「うん」 それはレイナも感じていたことだった。 見てほしい、聴いてほしい、傍で歌いたい、教えてほしい、知ってほしい―― カナメの「ほしい」がたくさん詰まった会話も口調も、レイナは初めて聞くものばかりだ。ちょっと拗ねた様子も、嬉しそうに跳ねる声も。ドキドキとふわふわが混ざり合って、キラキラ降り注いで見えるようだと思った。 もっとずっと付き合いの長い自分達に見せない顔をこんなに簡単に引き出せてしまうくせに、メッサーはまったく色々と足りない。主に覚悟や押しの強さや、カナメをモノにしたいという強い意志が。 そのくせ―― 「メサメサ、カナカナにならあーんなに甘ったるい会話もちゃんと出来るくせに!」 先程の通信を思い出したのか、マキナが憤懣やるかたないといった表情で拳をぷるぷると震わせる。 「あんなスタンプだって送ってるくせに」 わかる。同じことをレイナもずっと思っていた。 カナメから「おやちゅ(??3?)?みなさい、メッサー君」というキスの顔文字付きメッセージにキスのスタンプで返していたのを見逃すわけはない。あまつさえ―― 「行ってらっしゃいに行ってきますで、デバイス越しに『ちゅっ』とかしといて、なんであれで付き合うまでいけないのかなあ!?」 「それ。イミフ」 「だよねえ!」 「ニブニブ」 「信っじらんない!」 他人の感情の機微には疎い自覚のあるレイナにだって、さすがにこれは相思相愛だとわかるレベルだ。それなのに、なんて当人達のじれったいことか。 カナメがここへやってくるまで、あとおそらく十数分ほど。 けれどようやく同意を得られる同士の出現で気分の盛り上がってしまった二人の言いたい放題の激励は続き――背後からゆらりと怒気を含んだ静かな声で名前を呼ばれ、振り返れば、赤とも青ともつかない顔色のカナメが貼り付けた笑顔で「私もその話詳しく聞きたいな」と言った言葉にヒッと息を呑むまで続けてしまったのだった。 【 END 】 メッサー君は生存ルート。 アル・シャハルに転属した後のメサカナのやり取りをハッキングしたマキレイのお話です。 (DVD3巻の小劇場ネタ少しあり) |