だって一緒にいたかった。(02)




 ぐったりという形容がここまで嵌まる姿もそうないと思う。
 メッサーはベッドに横たわるカナメを前にして、数分前の自分を殴り飛ばしたくなっていた。右腕を力なく目の上に上げ、ようやくおさまってきた息を小さな唇から吐き出している姿は、無惨に蹂躙されたあとにしか見えない。

「……あの」

 本当にとんでもないことをしてしまった。溜まっていたなど言い訳にならないとわかっている。カナメがあまりに可愛い反応をしたのがいけない等も男のエゴだ。申し訳ない。
 事が終わってからまだ一言も言葉を発していないカナメは、きっとものすごく怒っている。
 ここは何がどうなったとして、素直に謝る一手しかない。

「すみませんでした」
「………………めっさーくんの、ばか」
「はい。……すみません」

 顔から腕をどけないままの口調はまだどこか甘く聞こえる――などというのも、男の都合の良い聞き間違いだ。重ねて謝罪を繰り返しながら、メッサーはカナメのジャケットを丁寧にあわせた。されるがままのカナメの憔悴っぷりに罪悪感はひとしおだ。
 と、カナメが緩慢な動作で左手を小さく持ち上げた。

「……おこして」
「はい」

 低く呟く声は少し掠れて聞こえる。散々我慢させてしまったせいで、咽喉を痛めたのかもしれない。そこにまた自分の失態を悟って、メッサーは更に激しく自分を殴り飛ばしたくなった。 
 が、それよりも先に彼女の要望に応えなければ。
 差し出された手に出来るだけ優しく触れて軽く引く。同時に背中にも手を回しカナメの身体を抱えるようにして、ベッドの上へ起こしてやった。けれど我が儘放題した男が傍にいるのも、今ばかりは嫌だろう。

「あの、本当にすみませんでし――……カナメさん?」

 だが謝りながら身体を放しかけたメッサーへ、カナメのぐにゃりと力の抜けた柔らかな肢体がしなだれかかってきた。咄嗟に支えて、メッサーはカナメを覗き込む。まだそんなに具合が悪いのだろうか。本当にどうすれば許してもらえるだろう。触れるのも自戒していたあの頃の自分を見習って、理性を勉強し直さなければ。
 カナメには今夜はひとまずここで過ごしてもらうとして、勤務開始まで自分は適当な空き部屋にでも行くとしよう。

「メッサーくん」

 そう思っていたメッサーの肩に、カナメがぽすんと頭をつけた。そうして、すり、と額を軽く押し付けられる。呆然としてしまったメッサーの背中に、やはりまだ力の入りきらないカナメの腕が回されて、制服のジャケット越しに弱く抱き締められたのがわかった。
 怒ってないのか。あんなにしたのに。
 驚きながらもカナメの背中に腕を回し返してみれば、おとなしくメッサーの胸に体重を預けてくる。

 理性――理性を。そうだ。人間に本来備わっているとされる知的能力を思い出せ、メッサー・イーレフェルト。
 体温や柔らかさや、自分だから彼女は赦しただなんて思い上がりは捨てろ。

「おしごと、がんばって」
「は――」
「ちゃんと一緒に過ごしたい」
「……格納庫ならこの時間あまり人がいませんが」
「バカ」

 意図を察したカナメがごすんと額を強く押し付けてきた。自分でもこんなバカなことを口走る日がくるなど想像もしていなかった。信じられない。だが現実だ。
 ジャケットの上から弱い力でつねられて、メッサーはカナメを抱き締めたまま本日何度目かわからない「すみません」を口にした。



                                    【 END 】