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メッサー・イーレフェルト中尉の事情(04) 4. 「遅いわね、あの二人」 既に一通りの気分転換に即した雑談はそれぞれ終えて手持無沙汰になりつつある。 美雲は二人が去って行った方向へと視線を向け、誰にともなく呟いた。 「あ〜。きっとメサメサが骨を折ってるんじゃないかな〜。昨日カナカナぶっとんだこと呟いてたから」 「さすがカナメ。予想の斜め上をいく女」 「全っ然話聞いてなかったもんねえ」 「上の空。クラゲに失礼」 美雲の言葉を受け、のんびりとした口調で笑うマキナの肩に顎を乗せて、レイナがにやりと口角を上げる。 昨日二人の間に何か面白いことが起こったらしい。現場を目撃してはいないが、意味深に笑い合う二人の様子で察した面々が、それぞれに顔を見合わせ肩を竦めた。 全くあの二人には困ったものだ。どこからどう見ても互いを必要としているのが丸わかりなのに、おかしなところで素直にならないものだから、じれったくもあり面白くもありになってしまう。 カナメはあの通り恋愛に関して妙に奥手――というよりは、どこか夢見がちなところがあるのでわからなくもないが、メッサーがもう少し貪欲になりさえすればあっという間に進むだろう。男女の恋愛など、始まってしまえばなるようにしかならないのだから。大方の見方はそれに尽きる。 「何だ。今回は完全にメッサーが濡れ衣か」 「……基本的にメッサーさんが何か悪いことをしたことってあったかね?」 「それを言えば、別にカナメさんだってねえだろ」 つまりどっちもどっちということだ。 最年少の二人組にまで真っ当すぎる意見を言われる不在の二人は、今頃どんな話し合いになっているのやら。明確な休憩時間を提示していたわけではないし、後はワルキューレのワクチンライブにかかる話が数点で、それらも急を要するものは特にない。 「まあでも昨日は普通にメサメサの誕生日プレゼントについて戦略練ってただけだったんだけどね〜」 「裸エプロンか、カナメにリボンでプレゼント作戦を推したのに却下された……」 「はっはっは! それは男の夢ですね!」 最高なタイミングで抜けやがったな、と内心で思っているところに飛んできた、レイナの過激な提案をアラドが豪快に笑い飛ばした。その会話で何をどこまで想像したのか、あわわはわわとルンをピカピカに光らせるフレイアを横目に、チャックも笑いながら会話に混ざる。 「一足飛びにいきすぎだってレイナちゃん。ほら、ウチの死神様の女神信仰は年季が入ってるからさあ。そうすぐに、好きです、付き合ってください!ってことにはならないんじゃないの? あっちの二人のようにはさ」 暗に最年少の若い二人を揶揄してやるが、当の二人はカナメとメッサーがどうすれば付き合い始めるかをああでもないこうでもないと夢中で話し合っていて、全く聞いていないようだった。空回りに呻くチャックへ、向かいに立つミラージュがぽつりと呟く。 「確かに。メッサー中尉のそういうお付き合いの始まり方、あまり想像つきませんね」 「だろだろー!」 ミラージュは真面目に熟考してくれているようだ。難しそうに眉を寄せて顎に手を置いている。チャックが同意を得たりといったように、嬉しそうな声をあげた。アラドもそれには大いに頷きたい気分だ。確かにそんな青少年のような始まり方をするメッサー・イーレフェルトの姿を想像するのは難しい。いい大人ならそれこそ雰囲気でということもあるだろうし、子供のようにお付き合いのお申込み、などアラド自身もう何年も覚えがない。 だが、相手はあのカナメ・バッカニアだ。手順を踏んでやった方が早い気もする。 可愛い部下達の進展を自分勝手にシミュレーションしながら楽しんでいるアラドへ、美雲がくすりと悪戯めいた微笑を向けた。 「でもカナメよ? 告白もなしに進めるとも思えないけど」 「いやあ、美雲さんが言うと説得力ありますね」 「カナカナ、夢見る真面目ちゃんだからねえ」 当人のいないところでされる話には花が咲く。 それぞれが思いつくままに、勝手な始まりを言い合っていると、レイナが何か思いついたらしい。マキナの横でポンと手を打った。 「メッサーが告白と同時に押し倒せば問題解決」 「おしっ!?」 「レイレイ〜。カナカナ失神しちゃうよ〜」 また瞬時に頭のルンを光らせたフレイアを笑いながら言うマキナに、アラドがいやいやと割って入った。 「しかしあいつの故郷、アルブヘイムは元々愛には情熱的なお国柄だって話ですからね。そのくらい朝飯前なんじゃあないですかね」 「あんたまで何言ってんだスルメ親父が。セクハラかよ」 軽く見えて、その実真面目なハヤテの返しにドッと笑いが起きた――その時だった。 シュン、というドアの開閉音とほぼ同時に横壁を激しく叩きつけるような音がして、ブリーフィングルームにいた面々は一斉にそちらを振り向いた。 「失礼します、カナメさんが倒れました!」 声と同時に現れたのはメッサーだ。若干の焦りが滲んだ口調は珍しい。 いや、それよりも―― 「えっ。カナカナ、どうし」 思わず腰を浮かせたマキナは途中で言葉を飲み込んだ。 メッサーの腕に抱き上げられぐったりしているカナメの顔がやたら赤い。 「なので医務室に運びます!」 「お、おお」 アラドの返事もそこそこに踵を返したメッサーは、まるで宝物を包み込むようにカナメを抱き直した。二人の着衣には当然だが何ら乱れはない。けれど、一部、どうしてもおかしいところがあった。 ここを出るまでカナメの唇を彩っていたルージュの輝きが失われ、代わりのように、ほぼ無表情の上へ器用に焦燥だけを乗せたメッサーの唇が、やたらと艶めいている。きっかけの詳細まではわからずとも、何があったかこれでは一目瞭然すぎるというものだ。 ちょうど雑談のネタにしていた手前、誰の目にも留まってしまったそれに、最年長のアラドが思わず口にした。 「……お前、あんまり最初から飛ばしてやるなよ」 「大したことはしていません、まだ!」 「お、おお」 そんなにきっぱりと断言されては、アラドもさすがにそれ以外に言葉がない。そのままカナメを抱えて小走りで駆けていくメッサーの背中を見送って、残された面々に無言が落ちた。 振り向きもせず投げ捨てられた台詞は彼の心の底からの本音だろう。ルージュの移るキスくらい、大したことに入らない。適当に経験があればそれはわかる。わかるのだが、相手が相手だ。彼女の恋愛キャパシティは計り知れない。 「つーかさ」 ようやく始まった関係の一歩で目を回したらしいカナメの攻略方法は、情熱的なアルブヘイムの手練手管で是非とも見つけてもらうしかない。 「誕生日は手ぇ繋ぐとこから始めた方がいいんじゃねえの……?」 なんとも言えない雰囲気の中、真っ当すぎるハヤテの呟きが響き渡る。 今後の二人にエールを送りつつ、その場にいた全員が心の中でメッサーへと盛大に合掌したのだった。 【 END 】 12/14 Ich freue mich Dich kennengelernt zu haben. Alles gute zum Geburtstag! |