在りし日の君とその先へ(07)




 美雲とフレイアの撮影も終わり、もののついでで護衛兼運転手をさせられていたアラドが車を戻してブリーフィングルームに戻ると、そこにはワルキューレのメンバーが勢揃いしていた。廊下の真ん中に陣取って、中に入る気はないようだ。レイナを中心に、何やらボソボソと言い合っている。スルメを唇の間で揺らしながら、アラドは彼女達に近づいた。
 ひょいと上から覗きこむ。

「あーこれは……」

 レイナの持つ超薄型携帯端末が映し出していた映像に、アラドは思わず口を開けた。

「シャッターチャンスだよ、レイレイ!」
「保存済み。ナイスポージング。カナメ、迫る女」
「小さい姿のはあるのかしら。食堂のと格納庫の、後で個人コードに送ってくれる?」
「了解」
「はわわわっ。カ、カナメさん、これ大丈夫なんかね!?」

 フレイアの頭についたルンがアラドの視界で痛いくらいに眩しく揺れる。レイナの了承に満足げに頷いた美雲が、そこでようやくアラドに気づいたらしい。顔をあげて「あら」とでもいうような顔をした。

「お疲れ様、アラド」
「どうも。美雲さんもお疲れ様でした。ところでこれ、ライブですか?」

 くいっと顎でブリーフィングルームのドアを示すと、レイナが画像をアラドに向けた。
 そこに映るのは、数時間前あんなに渋々と小さな女神の世話役を仰せつかった長身の部下と、その膝に乗り上げて艶かしい足を折り、彼の胸に顔を擦り寄せて眠りに落ちているらしい歌姫の姿だ。

「ライブ。生配信。オススメポイントはこちら」

 レイナにタップされた画像は素早くフレームが切り替わり、いくつかの映像を同時に数点アップにして映し出した。カナメの右手がメッサーの左手に重ねられ、指が絡んでいるのがよくわかる。右手をカナメの腰に置いて少し俯き加減の唇をその頭部にくっつけ、規則正しく腹を上下させているメッサーの瞼はしっかりと閉じられており、眠っているのだとこちらもすぐに見て取れた。
 着替えやすさを重視して男性のMサイズを用意していた検査着を着たカナメは、それでも女性にしては長身ゆえに、大きめの彼シャツを着た姿に見えなくもない。その足はしっかりとメッサーの太股の横にくっつき、これでメッサーが肌蹴てさえいれば完璧な事後だ。

「こんなのも作ってみました〜。ね、レイレイ」
「カンペキ」

 マキナがピッと爪のスタッズを弾く。と、そこに浮かび上がったのは、格納庫で駆け出す小さなカナメと、その後ろで手を離され慌てたように前のめりになっているメッサー、それに、笑顔で両手を広げ迎え入れようとしている見慣れたケイオスの制服に身を包んでいるカナメの姿だ。

「これは」
「ほええ〜……おやこ……」
「違和感が家出。マキナ天才」
「久し振りにライブから戻ったママに駆けてくきゃわわな子カナカナと、カナカナ、メサメサの両親バージョンだよ〜。あとこっちも」
「あら、この表情いいわね」

 美雲のお眼鏡にもかなったらしい次の画像は、食堂でメッサーが小さなカナメに無理矢理オムライスを食べさせられているものだった。引きで映し出された正面に、頬杖をついてにこにこと二人を見つめているかのような大人のカナメがいる。

「このあいだのファン感謝イベントでちびっこと遊んでたカナカナと、こっちのはフレイアがウィンダミアアップルにかじりついていたのを見てたときのカナカナで、親子のお食事風景でした〜。はああ〜、きゃわわ〜」

 合成にしても完璧すぎだ。無駄に加工技術の高さを見せつけた画像にアラドはぶっと吹き出した。これがどこかに流出したら、タブロイド紙もびっくりなスクープになるだろう。
 ワルキューレリーダー、エースパイロットと熱愛からの仲良し協力育児中発覚。
 それよりもまずは、今そこでぐっすり夢の世界をさまよっている二人が見たら、青ざめるのか赤らめるのか。どちらの反応も楽しめそうだ。
 他に何枚も作っているらしいマキナとレイナがスクロールしていく画面を見ながら、アラドは眦を下げた。
 いいじゃないか。とてもいい顔をしているぞメッサー。お前、こういうの似合うからな。覚えておけよ。

「……いい顔ね」

 ふと、まるでアラドの心を読んだかのような言葉を言った美雲が顔を上げる。
 けれどその言葉のわりに、画像を見つめる瞳がほんの僅かに名残惜しそうに細められた気がして、アラドはおやと思った。

「さびしいですか」
「あら、どうして? 元に戻って何よりだわ。ワルキューレにリーダーは必要だもの」

 美雲はアラドへと妖艶に微笑してみせた。が、やはりどこかもの足りなさげに、もう一度レイナの持つ端末に映った小さなカナメを目の端で追っている。あれだけなつかれていたのだから、もう一度くらいあの小さなカナメに会いたかったのかもしれない。

「でも、そうね。小さいカナメもそれはそれで悪くないとは思ったわ」

 レイナの操作でライブに切り替わった画面の中で折り重なるようにして眠る二人は、まだしばらく起きる気配はなさそうだ。時たま頬の位置を調整するかのように無意識に動くカナメを、こちらも無意識に抱き寄せ直すメッサーは、ぴたりと収まりが良さそうな位置に落ち着いたらしく、またくったりと動かなくなた。
 きゃわわ〜、と呟くマキナの側で、一緒に画面を覗く美雲はどこかあどけない表情を見せた。その姿は外見の華々しさから妙にアンバランスな危うさで、人差し指を唇につけ小首を傾げる。

「この二人、このまま子供作らないかしらね。悪くないと思うのだけれど」
「こ、こここっ、このままかね!?」
「フレフレ、シーッ! 声大きい!」
「二人、起きるかも」
「あわわわわっ」

 美雲のおとした爆弾に被弾したフレイアは、ルンを殊更光らせて慌てて口を両手でおおう。
 全員が見守る画面の中、ドアの向こうの二人が僅かにぴくりと動いたのが見えたのは、それからすぐのことだった。




                                    【 END 】

よくわからないけどカナメさんがちっちゃくなっちゃった!
元に戻るまでメッサー君お世話して!
……な付き合ってないメサカナです。(説明ひどい)