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ぬくもりからロマン飛行(03) 2. 「下剋上宣言」 部屋の隅で完全に二人だけの世界を作っているらしいワルキューレのリーダーとデルタ小隊の若きエースパイロットのやり取りを、手にした端末で録画と録音を完璧にしつつ、レイナがぼそりと呟いた。ズームアップされた二人の顔は、どちらかがその気になりさえすればそのまま隙間がなくなるほどだ。 いいぞマジか、いけ、ああ、ダメだー、などと相反する妙な合いの手をレイナの後ろで入れているのは、陽気なラグナ人を具現化したようなチャックだ。反対隣りでするめをひたすら齧りつつ、合間合間にバナナ酒をちびちび飲んでいるアラドが、呆れたように手を振った。 「誰だー。こいつらにこんなになるまで飲ませた馬鹿はー」 「はーい! メサメサに飲ませたのはカナカナでーっす! ハイペースのカナカナに馬鹿正直につき合ったりするんだもんメサメサ〜」 勢いよく両手を上げて答えたマキナが、そのままレイナの背中から腕を回して楽しそうな笑い声をあげる。弾力のある大きな胸がレイナの背中に当たって少し画像が揺れてしまったが、このくらいなら後からいつでも修正補正がきくだろう。問題ない。念の為、これからの動作情報を手振れ補正最大に設定し直してカメラを向け直す。 映されているとはまるで認識していないらしい二人は、微笑み合って、甘えるように頬を寄せ合い、やけに甘ったるい雰囲気で互いを寝るな寝るなと励まし合っているらしい。 「メッサー、意外と付き合い良かった」 「ね〜。きゃわわな酔い方だよね〜」 仕事が終わり、先に戻ったはずのメッサーを強引にでも飲ませようと言い出したのはアラドだった。 それはあまりにカナメの誘いを断り続けるメッサーの態度で、多少なりとも気落ちしているリーダーを元気づけてやろうという単純な計らいに他ならない。男子寮のある裸喰娘々であれば、どうせ彼も夕食はそこで取るし、嫌だと断られたとして、そのままどんちゃん騒ぎをさせてもらえば気持ちは紛れる。そう踏んでのことだ。 計画の立案者の奢りだという触れが出た結果、ワルキューレとデルタ小隊のメンバー揃い踏みとなっての突撃は、運良くメッサーの夕食時に合致したおかげで逃げられることもなく。 不本意全開な顔で食べるメッサーを両脇に挟んで酒を勧めたのはカナメとアラド――だったはずだ。 なんだかんだと勧められるグラスを断らず、ぽつぽつとカナメの言葉に返すメッサーからそっと席を離れたのは三十分も前の話ではなかったはずが、どうしてこうなったと思わざるをえない。 気づけば二人、部屋の隅に鎮座して、真冬の遭難でも体験しているかのような寸劇を繰り広げていたのだ。 テーブルの奥で両手を顔に当て、指の隙間からそんな二人の様子を見つめてはルンをピカピカ激しく点滅させているフレイアが、フォローするように呟いた。 「メッサーさん、カナメさんと飲むの初めてだったんよ……絶対甘く見とったと思う……」 カナメが飲めるクチだということは風の噂にでも聞いていただろうが、まさかここまでとは思っていなかったに違いない。 メッサーも酒に弱い性質ではなかったらしいので、先に相手が潰れるだろうと思っていたのかもしれなかった。 「カナメは単にメッサーと飲めるのが嬉しくて、調子に乗ってペースを上げただけね。自業自得だわ」 「いやでも、カナメさんに『雪山遭難、インプロスタート!』とか煽ってたのアンタじゃなかったか……?」 窓際で妙な艶を放ちつつグラスワインを傾けた美雲は、ハヤテの言葉に流れるような動作で小首を傾げてみせた。 「普通本気でするなんて思わないじゃない? 私のせいではなくてよ」 「うっわ、えげつねえ……」 伸ばした指の先で弄ばれたように、ワインが揺れる。その向こうでは、真顔で繋いだ指先に吐息を掛け合っている二人がいた。 はわわ、と叫びながら大きく指をチョキの形で開くフレイアに呆れつつ、ハヤテは苦虫を噛み潰したような顔をした。 おお、と歓声が上がって様子を見れば、今度は抱きついたカナメをよしよしと優しく抱き締め返し、頭を撫でているメッサーの姿が部屋の隅に見える。 「おー、カナメさん大胆だなあ。レイナ、記録後で消してやれよー?」 「後で。二人に見せたら。場合によっては」 「また生クラゲ奢らせる気でしょ〜。もうレイレイは〜」 楽しそうな悪だくみを放置して、二人の様子を酒の肴で楽しみ始めているらしいアラドの言葉に、さすがに少しばかり同情してしまう。やんややんやと煽っていたチャックが、ふと真顔になった。メッサーがカナメの耳朶に唇を寄せて、何かを囁いているシーンが、レイナの手元でかなりズームにされている。 「なあなあ。結局うちの死神様とリーダーって付き合ってたの?」 「「「「「ないないない」」」」」 ハヤテ以外の声が綺麗に重なった。 「だよなー」 「ぶふぉっ!」 思わず飲んでいた水を吹き出してしまう。 レイナの手元画像では、それはそれは嬉しそうに微笑むカナメの表情が大画面に映し出されている。どう見ても、恋人の腕の中で甘えるドラマで良く見るシーンにしか見えないのに、付き合っていないのか。これで? 酔っているとはいえ、これが本気じゃないならなんなのか。 カナメが演技だとして―いやしかし、これほど演技力があったなんて知らなかった。歌姫がドラマに出ることは基本ないがこれなら例えワルキューレを引退したって引く手数多になりそうだ―、メッサーがそれほど演技派だとは思えない。恋愛モノなら尚更だ。 「……すげえ盛大な告白をぶっこんでたんじゃねえの?」 誰にともなく溢した疑問を、マキナが楽しそうにコロコロと笑いながら答えてくれた。 「素直な気持ちを伝え合ってるんだよね〜」 「いや、だから、それが……」 「カナカナはにぶにぶだからねえ」 「にぶにぶって」 「メッサーは修行僧」 「ぶっは! 言うねえレイナちゃん! 死神様、恋心の修行中〜ってか!」 駄目だ。全員それなりに酔っ払っているらしい。 チャックの陽気さに磨きがかかって、素面なら完全に死神の鎌で首を落とされているような台詞を吐いて爆笑しているのだから、彼に関しては相当なのかもしれない。 「よっしゃ。このまま寝落ちてもそのままカメラ回しといてさ、見せた瞬間の態度で賭けようぜ!」 「無言で端末壊しにかかるにクラゲ三枚」 「カナカナ、声にならない絶叫にクラゲ五枚!」 「賭けになっとらんよ!?」 フレイアの訂正は的を得ているようないないような。 裸喰娘々の部屋の隅、ズームアップされた二人が再び額をつけ、頬を撫で合い真剣な瞳で見つめ合う姿を眺めながら、ハヤテは心の中で合唱するしか出来なかった。 【 END 】 2017.01.01のお年賀コピー本としてecさんに送らせて頂いたメサカナssになります。 リクエスト頂いた内容は「寒いところで暖を取るメサカナ」(すごい端折ったw)的なノリで書かせて頂きました。 多分意図されていたものと180度違う方向に行ってしまいました/// |