Autumn




それは、四季折々のものがたり――


【CASE1 Autumn】


ギラギラと照りつけるばかりの陽射しが穏やかさの中に哀愁を漂わせ始める頃。
それがボクの季節。
山々を順に赤く黄色く染め上げて、いつもより少し重ね着をしてでも外の澄んだ空気を胸一杯に取り込みたくなる、そんな時節だ。
女の子達は薄くて淡い色味の服から、少しだけ濃い目の色に移り変えて、ボクの織りなす紅葉とまるで軽やかにダンスを踊り出すかのように、おしゃれに花を咲かせ始める。

「おっと」

ゆっくりと歩くボクの傍を、仲良し三人組が箸が転がっても笑いそうな様子で通り過ぎていった。

「……うん。かわいいなあ」

立ち止まらずにその彼女達を見送って、ボクはそっと一人ごちる。
ボクの名前はオータム。
三番目の季節だなんて人は言うけれど、それはスプリングを先頭に数えたらっていうだけで、サマーが先頭なら二番目だし、ウィンターからなら一番ドベ。
でもボクから数えれば『トップ・オブ・ザ・シーズン』だ。


一体いつからボクがオータムなのかをボクは知らないし興味もない。ボクはいつだってボクだった。
 スプリングのようにどこかからひょっこり現れてはウィンターの心を奪い取ったりしていないし(彼はものすごく無自覚だけど。そこがムカつく。ちょっとだけ)、サマーのようにいつからいるのかも分からないほどの魔女(本人は美魔女だなんて主張してくるけど、ボクから言わせれば完全に魔女だ。あの人よりも古いんじゃないの? なんて思ってしまう)でもないし、ウィンターのように後からあの人に連れられてポンとやって来たくせに(彼女は本当にポンッとやって来た。僕らはポカンとしてしまったものだ)握手一つでボクの心を凍らせたりもしないし。

ボクはオータム。

それ以上でも以下でもなくて、紅葉と寂寥と、それから巡る季節の途中を司るだけの四季のひとりだ。それでいい。
そんなボク達に共通していることといえば、あの人に連れてこられたっていうことと、あの人は絶対無二の存在だっていうことだけ。
あの人――人間の言葉で言うならば『神』、あるいは『悪魔』、あるいは『偉大なる者』。

「……でも本当にそうかなあ?」

この季節に降り立って、時たま読むことのある本で得た知識を頭の中で捲って、ボクはどうしたって首を傾げてしまいたくなる。あの人との守らなければいけない約束ごとはいくつかあるけど、それでもあの人は全知全能じゃないし(ボク達を任命して解任するだけだ)頭に角だって生えていない。いつ見てもボサボサの寝癖を自然派ウェーブだと豪語しているくたびれたおっさんにしか見えない。
天パのスプリングが寝癖との違いを湿度や天気で示して見せた時には、耳を塞いで「あーあーあー!」なんて大声で聞こえないふりをしてもいた。とうとう説明を諦めて肩を落としていたスプリングの姿を思い出して、ボクはくつくつと肩を揺らした。

「まあ、でも」

あの人はあの人に違いない。ボク達はあの人の指示でここにいる。

「ボクにはボクの仕事があるし」

まだ今の気温には少し大袈裟なキャメル色のダッフルコートの前を外して、ボクは公園の中に入った。
夕暮れを迫る太陽が最後の日向を届けようと辺りを照らし、伸びた影がまた別の影とぶつかって形をおぼろなものにしている。
ベビーカーを押した若い女の人が、ご機嫌な赤ちゃんに話しかけながら笑顔で公園を出ていく背中を見送って、ボクは誰かが置き忘れたんだろう砂場のスコップを引き抜いた。

「今年はここでいいかな」

辺りを見回し人気のないのを確認して、ボクは公園のちょうど真ん中に置かれた滑り台を見上げた。とん、と地面を軽く蹴って、その上にゆっくり着地する。

(そろそろ仕事を開始しないと、ね)

サマーの残した夏の気配を最後に大きく胸の中に吸い込んで、ボクは右手を空に掲げた。
指先から風のロンドが煌めいて、暖かさと冷たさを織り交ぜた空気の精霊達が嬉しそうにはしゃぎ始める。
みんなボクの合図を今か今かと待っていた。

「オータム、オータム。久し振り。久し振りね。もう秋なの? 踊っていいの?」

軽やかな声が襟元を擽るように駆けていく。

「そうだよ。みんなで秋を知らせる季節がきたんだ。たくさん踊って。今年もよろしくね」
「オータム、あっしは? あっしもよいですー!?」

と、その声達を押しのけて、一際明るい声が鼓膜を揺らした。

「おっと! ……相変わらず元気だね」
「ウィッス! 元気ッス!」

短くアシンメトリーに切り揃えられた前髪が眉毛よりずっと短い位置にある精霊の一人――初風が、そう言ってボクにウィンクをくれた。……つもりだろうけど両目をがっちり瞑っていることに、毎年彼女は気づいていない。

「初風、また君には誰よりも一番早く駆けてほしいな」
「りょーっかい! 合点承知のすけー!」

黄色地にピンクの水玉模様のショートパンツから、左右で色の違うニーハイソックスが目に眩しい。偏ったティーンズのファッション雑誌から飛び出したようなちょっとファンキーな格好をした初風は、そう言って前屈みで敬礼の真似事をして見せた。それから「ビシィッ!」と口で音を紡いだと思うと一目散に駆け抜けていってしまった。

「ははっ。変わらないなあ」

彼女の飛び出していく先々で、ぶわりと音を立てて空気が踊る。一列ごとに色の違うボーダーのニーハイソックスが初風の浮足立った気持ちのようだ。カラフルな熊のぬいぐるみが小さなリュックを所狭しと飾る後ろ姿が目に眩しい初風は、そうしてあっという間に見えなくなった。

「オータム、オータム。はっちーだけずっこいよぉ。あたちたちもいっていい?」

ふと裾を三方から引っ張られ視線を戻すと、頬っぺたをぷうっと膨らませた三つ子達がボクのことを見上げているところだった。滑り台の上にしゃがみ込んで、ボクは三人と目線を合わせる。

「金風、商風、西風、君達にもお願いするよ。みんなに秋をお知らせしてきてくれるかな?」
「きんぷう、いってくるね!」
「しょーちゃん、オータムのお願い聞いてあげる!」
「にちかぜ、がんばる」
「うん、みんなありがとう。気をつけてね」

順番に頭を撫でると、三者三様の笑顔を浮かべて、順番にボクの頬にキスをくれる。

「ばいばーい!」
「まっててね!」
「いってきまちゅ」

ぶんぶんと手を振った三つ子達は、初風が出来ないおませなウィンクを上手にして、ぺこりと頭を下げた。

「バイバイ。待ってるから、頑張っておいで」

彼女達を見送って、ボクは細い息を吐いてみる。
早速うっすらと白い息が出き上がって、みんなの働きに頷いた。
出だしは順調。精霊達はきちんと仕事を全うしてくれているらしい。
このまま季節を追うように、彼らと秋を知らせていく――それがオータムであるボクの使命。

「さて、と。じゃあボクは山の様子も見て来ないとね」

滑り台の上から遠くに覗く山々は、山頂に近い部分が少し色づき始めている。が、例年より少し遅めに任が下ったボクから見れば、これではまだ甘い紅葉だ。
ボクはとん、と滑り台を蹴って地面に降りた。
精霊達の働きは待つが、もしもの時はボクが直接対応する。それがいつかを知る為に、現地に入った方が手っ取り早い。

「うーん。どうやって入山しようかな。せっかくこっちに出てきたんだし、久し振りに電車とバスを使うっていう手もあるかー……」

飛んでいけばあっという間だ。
でも、それじゃあ何だか勿体ない。ボクらに課せられたいくつかの約束事の内、『人間に深く関与してはならない』という不文律を守りさえすれば、この季節に留まる間のボクは比較的自由の身だ。

「よしっ。今日はバス!」

やっぱりここは風情というものを楽しまなくちゃ。
――そう考えたのが発端だったと、この時のボクが気づいていれば良かったんだけど。

「じゃあさっそく時刻表を見てみないと」
 
背負っていたタータンチェックのナップザックから時刻表を取り出して、細かい数字と睨めっこする。
必要な物は必要なときに手を突っ込めば取り出せるようになっている、あの人からもらったボクの唯一の私物は便利だ。
数字を指で追いながら、やっぱりナップザックに手を突っ込んで取り出した腕時計で今の時刻を確かめようと顔を上げて、

「う――わ!」

ボクは急に袖を引かれて、驚いた声を上げてしまった。
何かに引っ掛かった? でも何に? 
ボクは――ボク達は、季節に干渉するだけで、他の何にも干渉されることはないはずなのに何がボクの袖に触れた――?
こんな例は今までなかった。
慌てて裾を見下ろして。

「……」
「え?……ええっ!?」

ボクはもう一度驚いた声を上げてしまった。
そこにはボクと同じようなタータンチェックのナップザックを背負った、小さな女の子の姿があった。

「え、いや、え……ええと」
 
ボクのダッフルコートの裾を掴んで、ジッと見上げてくる女の子は、年の頃なら三、四歳。アイスブルーの大きな瞳は秋から冬に向かう空のように澄んでいて、長い金髪を頭の高い位置でツインテールに結んでいる。
その姿が一瞬既知の姿と重なって、思わず口が勝手に動いた。

「……ウ、ウィンター?」
「おにいちゃん、まいご?」

きょとん、と大きく目を瞬いた女の子に見つめられて、ボクは失言に口を覆った。
バカだ。そんなことあるわけないのに。
彼女は――ウィンターはボクの次の季節の担い手で、引き継ぐ時にしか触れ合うことがないことくらい、何度も巡る時の中でボクは十二分に理解しているはずなのに。
この子がウィンターのわけがない。
全然違う。彼女はこんなに小さくないし、髪の色だってもう少し淡くて、唇だってもっといつもツンと上向いている。それはボクに対してだけかもしれないけど、でも違う。この子とはまるで違う形の唇だ。
それに決定的な違いがもう一つ。

「ういんた……?」

あの子は、ボクの目をこんなに真っ直ぐ見たりしない。
パチパチと何度も大きなその目を瞬いてボクを見上げている女の子は、そう言ってちょこんと首を傾げた。

「君、もしかして、み、視えてる、よね……?」
「あのね、しーちゃんね、ターくんといっしょなの」
「んんん??」
 
駄目だ。話が通じない。でも確実にこの子はボクが視えているらしい。

(あ〜……いるんだなあ本当に。視えちゃう子って)

本来なら、人間にボクらの姿は見えないはずだ。だから『人間に深く関与してはならない』なんてあの人とのお約束を、ボクらが違えることは普通ない。
だけども話には聞いたことがあった。

(でも実際会っちゃったらどうするとか、あの人何も教えてくれてないしなあ)

もうずっとこの季節を担っているけど、こんなことは初めてだった。不測の事態にどうすればいいのかよくわからない。
 『人間と深く関与してはならない』
深く、関与、って一体どこまで。

「悪いけどお兄ちゃんはお仕事があるんだ。君と一緒にはいけないから、……ええと、ター君? のところに戻るといいよ」

とりあえず視えているんだし、話をするくらいはセーフだろうか。
小さな手で掴まれた裾を少しずつ引っ張ってそう言ってみる。笑顔もつけた。

「うぇ……」
「え!?」

だけど突然、女の子の顔がくしゃりと歪んだ。
サマーからは「まー、あざとい笑顔! そういうの好きよ」と言われて、ウィンターからは「うすっぺら」と吐き捨てられるボクの笑顔が悪かったのか。でも他に笑顔ってどうするの。

「ターくん、どこぉ……っ」
「知らないよ!?」

と思っていたら、女の子はそう言ってわんわんと大きな声で泣き始めてしまった。
まいった。つまり迷子か。
ボクのコートの裾から小さな手を離さない女の子が、もう片方の手で拭いきれない涙をボロボロと取り落としていく。
地面を蹴って、空に上がってしまえば、こんな小さな子を振り払うのは簡単だ。
でも。

「ターくぅん……ひっ、えぐっ。おにいちゃぁん。おうちかえるぅ」
「あ〜〜〜も〜〜〜」

くそっと心中で毒づいて、ボクはガッとその場にしゃがみ込んだ。
ボクの良く知るその瞳の色を、溢れる涙で曇らせないでくれないかな。何でそう思ったのかはわからない。でもとりあえずこういう時はどうすればいいんだっけ。そうだ。涙を拭うんだった。
本で得た知識を頭の中から引っ張り出して、ボクはナップザックに手を突っ込んでみた。だけどハンカチの一枚出てきやしなくて、それにも毒づきたくなりながら、仕方なしに両手で女の子の頬を包む。

「お、おにいちゃん?」
「そんなに泣かないの。目が腫れちゃうよ」

ハンカチの代わりに親指の腹で溢れる涙を拭いながら小さな顔を覗き込めば、女の子はきょとんとアイスブルーのきれいな目を瞬いた。
涙の乾かない濡れた瞳がキラキラ光って、その中にボクの顔がしっかり映り込んでいる。

(……くっそ。もう、かわいいなあ。……ウィンターと違って!)

もうこれ本当にどうしたらいいんだ。

「あー……。ねえ、君のお母さんは? どこから来たの?」
「おかーしゃん?」
「あ、ええと、ママ? ママはどこかわかる?」
「まま……ま、ま、ママァァ……」
「ああああ、な、泣かないで!? ね!? ママー! どこー!?」

ボクが泣きたい。
ただでさえ秋の始まりが遅い年なのに、このままじゃもっと遅れてしまう。――いや、人間の子供なんて放っておけばいいだけなんだけど。
深く関与なんてしたらきっと、あの人からのペナルティがあるはずだし。

「……」

ちらりと女の子の様子を窺う。

「ママぁ、たーくぅん……ひっ、えぐっ、ぅあああん……」
(あああ、もおお……)
 
あの人との約束はわかっている。忘れているわけじゃない。この子を放ってボクが任務に戻ったとして、それでこの子がどうなるかなんて関係ない。この季節だ。ボクの精霊達が仕事に励めば励むほど、日増しに気温は低くなる。
人間は特別な存在じゃない。この地球上で彼らがたまたま文明社会を築いただけで、生死は野生動物と変わらないってことも理解している。
けど。
……だけど。

「ふえぇ……」
「大丈夫! きっとママと会えるから! ね!? それまでボクと遊んで待ってよう!? ね!!?」
「……おにぃちゃんと?」
「そう! お兄ちゃんと!」

出来ないよ! 出来ないだろう!? 
こんなちっちゃい子にコートの裾をぎゅっとされて、泣いてるし、振り払って飛んで行くなんて出来ないだろう!? みんな出来るの!? いやいやいや、無理だよね!?

「いいよ! しーちゃん、あそんであげるの!」
「え? あ、あれ? ……遊んでもらうのボクなの……?」

途端にパッと笑顔になった女の子――しーちゃんは、しゃがんでいたボクの裾から右手を両手できゅっと掴んだ。
その手がとても冷たいけれど、ナップザックはやっぱり手袋の一つもボクに出してはくれない。

「あー、ええと、寒くない?」

寒くしていく仕事のボクが聞くのも変な話だけれど。

「しーちゃんねー、いいよー!」

とはいえ、人間の子供とこんな風に話す機会なんて一度もなかったから、どう接すればいいのか、まるで勝手がわからない。いや、そもそも必要以上の接触は禁忌なんだから、せめてこの公園をうろつくくらいしか出来ないんだけど。
それにしても子供というのは現金なものだ、とボクは知ることになった。

「いいよって、え? 何が?」
「うさぎさん!」
「う、兎? いないよね? え?」

さっきまで泣き濡れた瞳でボクをじっと見つめていた女の子は、もう満面の笑顔でボクの手を引いてずっと話している。

「あのね、しーちゃんね、たーくんぎゅうううってね」
「ねえ。そのたー君っていうのは」
「ママのねー、でもしーちゃんがぎゅってしたから、あっ! とんぼさん!」 
「えっ、うわっ! 走らないでー!」

そして会話は支離滅裂だ。
ぐいぐいとボクを引っ張りながら、絶対に届かないとんぼに手を伸ばす女の子は、もう泣いていなかった。
ぴょんぴょんと飛び跳ねては楽しそうに笑顔を振りまく無邪気な様子に、うっかり毒気を抜かれてしまう。

「まいったなあ。警察に……は、過干渉過ぎるし、そもそも警察ってボクのこと視えないよね……」

さて、どうしたものか。
幸か不幸かボクの姿は他の人間の目には映らない。誰かがこの子に気づくまでただ傍に在るだけなら許される範囲だろうと、内心で誰にともなく言い分ける。
それならきっとボクのしていることは、そこを吹き抜ける秋の風と同じだから。

「しーちゃん、おなかすいた……」

突然ぽつりと呟かれて、ボクは女の子を見た。
繋いでいない右手でお腹を押さえ、急にしょぼんとしたように見える。
何となく慌ててナップザックに手を伸ばす。
ゴソゴソと探ってみたけれど、やっぱりその手に何かが当たることはなかった。

(だよなあ……)

これはあの人がくれた『必要な物が必要なときに出てくる』ナップザックだ。
探ってみても、その中から何も出ない。
つまりはそういうことなんだ。

「……ごめんね」
「おにいちゃん?」

ボクは女の子の前にしゃがみ込むと、はしゃいだせいか赤くなっている小さな頬にそっと触れた。さっき触った手とは違って、思った以上に温かい体温だった。移るはずのないボクの指先がじんと痺れたように温度が沁みる。

「おにいちゃんね、君に、なにも、あげられないんだ」
 
女の子がきょとんと大きなアイスブルーの瞳を瞬かせる。それから突然、ボクにぎゅっと抱きついてきた。

「わっ! え、え!?」
「だいじょぶだよ! しーちゃん、いたいのいたいのしてあげる! おにいちゃん、なかないで? ね? いたいのいたいのとんでけー!」

小さいのに意外な力でボクの身体を抱きしめて、女の子はそう言った。
痛いの? 
ボクはそんなに泣きそうな顔をしていたの?

「はは……」

必死でボクを慰めようとしてくれているらしい女の子に押されて、思わず地面に尻餅をつく。構わずぎゅうぎゅうと抱きついてくる彼女は、そのままボクの上に乗ってしまった。
軽い。こんなに軽い身体、ボクがちょっと強めに風を起こせばあっという間に巻き上げることが出来そうだ。

「ありがとう。……しーちゃんのおかげで、いたいの元気になったよ」
「ほんとう?」
「本当」

ぽんぽん、と乗り上げた小さな女の子の頭を撫でると、彼女はまた満面の笑顔をボクにくれた。
ボクは何もあげられないのに。
 
「よかったあ!」

お腹が空いて泣きそうな顔をしていたのは自分だろうに。
何も出来ないボクなんかのために、一生懸命になってくれた女の子に、ボクはやっぱり何も出来ない。パンのひとかけらさえ干渉することは出来ないけれど、それでも。

「おにいちゃん、じゃあね、しーちゃんとおはなしさせてあげるね?」
「あ、またさせてもらうのボクなんだ……?」

笑う彼女が嬉しそうだからもういいや。
目蓋の裏に、ボクに決して笑顔を見せないツインテールのツンとした少女が浮かんで、ボクはそっと目を閉じた。

「おにーちゃん」
「はいはい。ええと、じゃあとりあえずベンチにでも行こうか。地面は冷えるから」

呼ばれて目を開ければ、女の子の大きなアイスブルーの瞳の中にボクがいた。
ウィンター、この子やっぱり可愛いよ。大きくなれたら少し君と似るんじゃないかな。

「よいしょっと」
「きゃー!」

小さな身体を抱えて立ち上がれば、女の子は嬉しそうに歓声を上げた。
ボクにぎゅっとしがみついて、バッと手を離してみたりして。
そんな彼女をベンチまで運んであげながら、ボクは早く誰かが彼女に気づきますように、と小さな願いを思わずにはいられなかった。

(ねえ、誰か。誰でもいいから早く)

この意外な熱量がこの世界に在るうちに。
傍にいたって温めてあげることさえ出来ないボクの存在を不思議に思わないほど幼い少女には、まだ無限の可能性があるんだから。
秋の景色を、冬の雪を、春の花を、夏の匂いを。
感じてほしい。ボク達をもう少し感じて欲しい。
傍にいることしか出来ないボクは、そう願うことしか出来ないけれど――
 

<To Be Continued…>

【何となくのキャラ設定】

●スプリング :
柔らかい物腰の穏やかちょっと天然の入った青年。でも実は一番ドライ。
同じような状況になったら「仕方ないね」と笑顔で少女を置き去りにしちゃうタイプ。
その昔、先代のウィンターと恋仲だった。サマーとはその頃からの知り合い。

●サマー  :
スプリングの過去をしるイケイケ美女。過剰なスキンシップと豊満な胸を持つ姉御肌な女性。
サバサバしているが情に厚く、同じような状況なら「あたしに出来ることなんてなんにもなーいのよ」と放置するフリして、実は陰からこっそり見守っちゃうタイプ。
自分の季節の筆頭精霊『台風』とイイ感じ。

●オータム :
今回の主人公。
なんだかんだでウィンターのことが好きな自分に気づいてはいる。
だけど完全に嫌われているのをわかっているので、本気を伝えられない優等生タイプ。
ウィンターに好かれていて、でも何を考えてるのかわからない節のあるスプリングのことがちょっと苦手。

●ウィンター :
ツインテ&ツンデレ美少女。この面子の中で一番最後に役目を担った。
スプリングに憧れているので、彼と仲の良いサマーにちょっと嫉妬している。
オータムのことは軽い男の子に遊ばれていると思っているので、いつもツンツン応対している。
一番若手ということを、実はちょっとコンプレックスに思っていたりする。けど、絶対自分から言いたくない系。


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