メッサー・イーレフェルト中尉の事情(01)




1.

彼に想い人がいるのだと知ったのは偶然だった。


二人きりでの食事には絶対首を縦に振らないくせに、パイロット仲間が相談があるのだといえば、案外気安く乗ってくれるという話は風の噂で聞いていた。ただ、カナメがその現場に遭遇したのは本当にただの偶然だ。

「――で、中尉はその人の為に飛んでいる、と」

おススメのクラゲ料理を出す店があるとレイナから誘われた店へ、マキナも交えた三人で食事をしていた時だった。今夜も例に漏れず彼への誘いは「申し訳ありませんが」という言葉と共に断られた後でのお誘いに、近々やってくる彼への誕生日プレゼントの相談もしようか、などと思いながらカナメは快諾していた。しかも何やらスポンサーからの厚意だそうで、今夜は好きなだけ飲み食いしてもいいという。
ワルキューレのメンバーだとわかった店主の厚意で奥まった席へと案内され、気の置けない仲間達と男性へ送るプレゼントとは等と盛り上がりながら、出された料理に舌鼓を打っていたまさにその時。

「っか〜、愛! 愛れすね、それは! もう完全に愛!」

ずいぶん威勢のいい酔っ払いがいるようだ。呂律の回らない口調で愛を連呼する男性の声が耳に届き、三人で顔を見合わせる。手前の席で恋愛相談でもしているのだろうか。

「愛を〜乗せて〜飛んでる中尉! っか〜! ラブラブじゃないでふか!」

それにしても「飛んでいる」とは、まるでパイロットの話のようで――

「俺の話はもういい。悩みは解決したのか」
「あいっ! それはもう、バッチリであります!」

次に聞こえてきた声に、カナメは思わず食べかけていたクラゲを口の前で落としてしまった。
ぼとり、とテーブルの上で形を変えるクラゲに構わず、衝立の向こうへ顔を覗かせる。

「それは良かった。飲み過ぎだ」
「いやあ、でも今夜お話聞いてもらえてよかったです! ありあとうごあいあいた!」
「飲み過ぎだ。もう止めておけ」
「いいなあ〜俺も愛し合いたいなあ〜」
「愛し合ってない。やめろ」
「またまたぁ。中尉にそんなにメロメロのお相手がい――ぶぐっ」
「飲み過ぎだっ」

へべれけに酔っ払っているのは見たことのあるケイオス職員。
その顔に言葉の途中で思い切りおしぼりを投げつけていたのは――

「わお」
「うっそ、メサメサ?」

カナメの横手からにゅっと顔だけ覗かせたレイナとマキナが口々に言う。
見覚えどころか、フルネームも身長も、それどころか入隊に際して提出された書類なら全部目を通して知っている職務上のパートナーで、いつしか芽生えてしまった恋心をひっそりと募らせ寄せているデルタ2のとさか頭、――メッサー・イーレフェルト中尉がそこにいた。 

「らって、だいすきじゃないれすか、あんた」
「わかった。その話は今度」
「ちがうんれすか!」
「違わない。大好きだ。メロメロだ。……これでいいか」
「いいなあ! 中尉、相思相愛! おれも、おれもねえ……らいすきらっらんれすよおぉ〜……」

やはり恋愛相談だったようだ。メッサーへ相談をしている彼は、どうやらフラれてしまったらしい。顔面で受けたおしぼりを恋人の代わりのように抱きしめて、やがて力なくテーブルに突っ伏す。そんな彼に困ったようなホッとしたような表情で、残りの料理に箸を伸ばすメッサーの姿はなかなかに珍しい。本当に仲間内からはあらゆる面で信頼されているようだ。
けれど今はそんなことよりカナメには重要なことがあった。
無意識の内に呆然と唇が動く。

「……え、メッサー君って」

好きな子、いたの……?
思わずそう呟いたカナメに、マキナとレイナの言葉はもう何も耳に入ってこなかった。






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12/14メッサー君、誕生日おめでとう!