おてがみ、です! ミカサちゃんへ。 ボクの家では いちねんにいっかい、やさいだけのスープがでます。 やさいといっても、いつも食べてるみたいなシャキシャキじゃなくて、小さくて形のいびつな くずやさいだらけです。味もうすくて、塩と すこしあまいのはやさいのおかげだって おかあさんがおしえてくれました。 お肉はいっこもはいっていません。 しょうじきなところ、おいしくはないし、いつものごはんの方がずっとおいしいです。 だけどこれは おとうさんとの思い出のスープなんだそうです。 しごとでいそがしいおかあさんに、おとうさんがつくってくれた「やさしいスープ」なんだとおしえてくれました。 (おとうさんは料理がヘタクソだったのかもしれません。) おかあさんはボクに「やさしいスープ」を無理に食べろとはいわないけど、すごくうれしそうに食べるから、ボクもだんだんいっしょに食べるようになって、そうしたら気がついたことがあります。 おとうさんのスープをのむと、体がポカポカしてあったまるし、つぎの日、おなかがなんだかすっきりするんです。 おかあさんとよなかまでお話をしてるときに、たまにおかあさんが「とくべつだよ」って作ってくれるブタ肉のスープをのんだときよりすっきりです。 ほんとうに「やさしいスープ」なんだと思いました。 おとうさんはおかあさんにしか「やさしいスープ」をつくらなかったそうなので、「それは、あい、だね」と言ってしまったときは たいへんでした。 それから朝までおとうさんの好きなところをきかされたんです。 ボクはおとうさんに会ったことがないのに、おとうさんがどんな人だったのか、もうたくさん知っていると思います。 ボクの耳にできた「おとうさんダコ」がそのうち大きくなって、本当におとうさんになっちゃうかもしれないよと言ったら、おかあさんがきもちのわるいえがおになって、ボクはめちゃくちゃにだきしめられました。ちょっとくるしかったです。 ミカサちゃん。 ボクのおとうさんをしっていますか。会ったことはありますか。 ボクの家にはおとうさんの写真も、絵も、のこっていないから(おとうさんがかいた絵はちょっとあります。すごくじょうずです!) おとうさんのことがわかっても、どんな顔だったかとか、どんなふうにわらうのかとか、わかりません。ボクはおとうさんににていますか。 おかあさんはおとうさんのことが大すきだから、もしボクがおとうさんににてるなら、ボクをみるとうれしいと思いますか。 あのね、ここからがほんだいです。 ボクはおとうさんに会ったことがないけど、おかあさんがおしえてくれるおとうさんのことがすきです。 おとうさんのことを話しているときのおかあさんは、すごくかわいくて大すきです。 おとうさんも、きっとおかあさんを大すきだったんだと思います。 だから、おかあさんにはおとうさんのことを、ずっといちばん大すきでいてほしいです。 でもきのう、となりのおばさんが「おかあさんはサイコンしないの?」とボクにききました。「サイコン」とは、あたらしいおとうさんができることだそうです。 ボクのおとうさんはふるくないので、あたらしいおとうさんはいらないと思います。 ボクがおとうさんににてるなら、もうすこし大きくなったらもっとにると思いますか。 そうしたらボクが「やさしいスープ」を作ってあげられるようになって、そうしたらおかあさんは「サイコン」をしなくていいですか。 おばさんに「サイコン」のメリットをきいたら「まもってもらえるわよ」といってました。でも、おかあさんはつよいです。それに、おとうさんが今もいつもボクたちをまもってくれているんだっておかあさんがいっていました。いつもどこかでみているそうです。(このあいだ ごはんの前におかしを食べてしまったことも、おとうさんはみていたと思いますか……?) だから「サイコン」はいらないと思います。 それに ぶつりてきになら、ボクがまもればよくないですか。 そっちょくないけんがききたいです。 ついしん。 ボクは、おかあさんからもっとおとうさんのことを聞きたいです。 よるはねむくなるから、できればお昼ごはんを食べたあとがさいこうです。 ついしん。 ミカサちゃん、またいっしょにあそんでください。とまりにきてね。 【→】 |