酒の失敗は蜜の味




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「珍しい。モブリットも酒の飲み方で失敗することあるんだね」

突然後ろから聞こえてきた声に、モブリットは振り返った。
つい先程まで、二つ並べた椅子にぐってりと横たわり、気持ち良さそうに寝入っていたはずのハンジが、とろりとした視線を向けている。

「……酒の、というかちょっと気管に」

まだ少し咽喉の奥がひきつったような感覚がして、モブリットは空咳をした。
リヴァイとミケと、それから班員の内で酒を楽しみそうな数人で開かれた突然の酒席だった。シーナにいる支援貴族からの貴重な差し入れだと提供したのはリヴァイで、モブリット達はこれ幸いと相伴に預かったのだ。それぞれに持ち寄ったアルコールと僅かな肴で適当に騒ぎ、潰れ、結局最後まで部屋に残ったのはモブリットだった。いつもなら二人で最後の酒まで残るリヴァイは、次の壁外で班員に選抜した金髪の少女に呼ばれて早い段階で席を空けていた。ミケが他の班員達を連れて出たのはかなり更けてからだったが、それでもモブリットを残したのは他でもない。上官でもあるハンジが、気づけばそこで寝ていたからだ。運ぶか、というミケの申し出を断ったのは単純な理由だった。
そのうち起きるだろうと思ったのがひとつ。
もうひとつは、残りの酒を飲みきってしまいたかったからという酷いものだ。

「咽喉にひっかかったの? 平気? 見ようか?」
「見てもわかりませんよ」
「わからないじゃないか! 酒が見えるかもしれないし!」
「……酔ってますね?」

むくりと起き上がったハンジが、そのまま覚束無い足取りでモブリットの隣の椅子に乱暴に座る。

「何でだよ。酔ってないよ――っとと」
「ほら、酔ってるじゃないですか。気をつけて」

勢いをつけすぎたのか、グラリと傾いた椅子の上でハンジがバランスを崩した。
それを胸で抱きとめて苦笑したモブリットに、ハンジがむっと唇を尖らせる。

「今のは椅子が悪いだろうが」
「理不尽な言い掛かり過ぎて、椅子が泣きますよ」
「ふふん。モブリットこそ酔ってるな? いいことを教えてあげよう。椅子は泣いたりしないんだ」
「……それは、べんきょうになりました」

酔っ払いに真面目に付き合っても無駄なだけだ。
支えたモブリットの首に腕を回してしたり顔のハンジに抵抗せず、モブリットは隙間から残りのグラスに口を付けた。

「酔ってるモブリットなんて初めて見たよ。それでもまだ飲むんだ?」

酔ってるのはハンジであって自分ではない。
心中だけで訂正して、モブリットはグラスを傾ける。

「これで最後ですし――……って、ちょっと、ハンジさん。飲みずらいですって」
「私も飲みたい」

と、ハンジが突然首を傾げてグラスを覗き込むような姿勢になった。慌ててグラスを渡そうとするが、ハンジは受け取る素振りを見せない。頑なに口をつけたグラスを噛むように傾けるその様子に根負けして、モブリットはハンジの腰を片手で支えた。

「こぼさないでくださいね」
「ん」

ゆっくりとグラスを傾けてやる。一口飲んだのを確認して、ついでに自分も一口飲んで、またハンジへと傾ける。それを何度か繰り返し、グラスの底が見えた辺りで、ハンジがふっと口元を緩めた。

「ねえ。これってさ、後ろから見たらキスしてるみたいに見えるかな」
「見えなくもないですよね」

言われてみればそうかもしれない。
しなだれかかるように首に腕を回した女の腰に手を回して、小さなグラスを持つための手は、後ろからみれば顎に添えているとも見えるだろう。
咽喉を鳴らす度に小さくえづくハンジの声音は、実はだいぶ耳に悪いなとモブリットは思い始めていた。
そんなモブリットの心中を知らずに、ハンジは無邪気に笑って言う。

「はは。そっか。実際は唇こんなに遠いのにね」
「……そうですね」

言うほど遠くもないのだが。
グラスを挟んですぐそこにある唇は、それだけの距離で、どちらかが本気を出せばあっと言う間に隙間などなくなる。ハンジは気づいていないかもしれないが、実は鼻先が擦れ合うほどの距離だというのに。
まるで気にしないハンジのいつもより砕けた雰囲気に、モブリットが合わせているだけだ。そんなことは露ほども思っていないだろうハンジに言っても仕方がない。
ただでさえ、酔っ払いは本気で相手をしても無駄なのだと、モブリットは知っている。

「モブリットってキスするの好き?」
「……はあ?」

溜息を吐きそうになったモブリットに、ハンジは同じ姿勢のままでそう言った。
いきなり何を言い出すのか。
モブリットは最後の酒をハンジの唇に押し込んで、横の机にグラスを戻した。
ついでにハンジのことも引き剥がそうとするが、むしろ逆に詰め寄られて僅かに顎を引いた格好になる。

「あんまり好きそうなイメージないけど、嫌いでもなさそうっていうか、実は意外とすごかったりもしそうだよね」
「何ですかそれ……」

まるで一貫性がない。グラスから離れて手持ち無沙汰な片手を、なんとはなしに遊ばせていると、ハンジが更にモブリットに迫った。

「どういう時にする?」
「どういうって……」

キスにそれほど多くの意味を考えたことなど正直ない。
ハンジが何を期待しているのかわからずに、モブリットは当たり障りのない答えを口に乗せた。

「……挨拶とか」
「そこは恋人だろ」
「まあ、そうですよね」

家族や友人への親愛以外なら、普通はそれくらいしか考えられない。
頷いたモブリットに、ハンジはふうんと相槌のような声を出して、それからモブリットの顔をじっと見つめた。
色素の薄いアンバーの瞳の中に自分がしっかりと映っている。先に逸らした方が負けとでもいうかのように見つめるハンジが、同じ姿勢のまま僅かに小首を傾げた。

「いる?」
「は? ……いえ、今はいません、けど」

その仕草にうっかり魅入ってしまいそうになって、モブリットは一拍遅れて正直に答えた。いない。というか、もしも自分に今恋人がいたら、この体勢はありえないと思うのだが、ハンジはどういうつもりだろう。いや、酔っ払いに常識的な距離感を説くのも意味がない。意味がないとわかっているはずなのに、距離の近さが今更気になっている自分がいる。
モブリットは意を決して、自分の首に回されているハンジの腕にもう一方の手を掛けた。

「……ハンジさん、そろそろ部屋に」
「モブリットってキス上手い?」
「はぁ!?」

こんなに絡み酒の人だったのか。
今まで寝落ちてしまったハンジを室内に運んだことは数あれど、酔っ払った状態でここまで会話をしたことがなかったので知らなかった。性質が悪い。酒の匂いの充満した室内で。こんな距離で。そんな話題を笑いもせずにふっかけてくるなんて。

「どっち? ド下手?」

答えるまで離れてくれなさそうなハンジが、引き剥がそうとしたモブリットの手を拒むかのように身を寄せた。近い。シーナの上質な酒と、ミケが途中で差し入れたいつもの酒と、それからその呼気を纏ったハンジの香りが鼻腔に迫る。

「……何でその二択なんですか。知りませんよ。……特別下手と言われたこともありませんけど」
「私はたぶんあんまり上手くないと思うんだけど、はっきりいってよくわからない」
「そうですか」

モブリットはなるべく平坦に聞こえる声でそう言った。
あんまり上手くない、というのは主観か。それともいつか誰かに言われたものか。いや、そんなこと自分には何も関係ない。
なおも自分を真っ直ぐ見つめるハンジの目を見返しながら、ともすれば意識がその少し下、薄く開けられて吐息を溢す唇にいってしまいそうになるのはどうしようもないことだった。
モブリット自身が酒に酔っているせいではない。
ただ。雰囲気が。ハンジが、こんなに意味もなく近くにいるせいだ。
モブリットは気分を一新するように頭を振った。ハンジがその頭を何故だか宥めるように、いいこいいこと撫でさしてくる。
誰のせいで――と思う気持ちを押し留め、目だけで不満を表すモブリットに、ハンジがその手をするりと頬に下ろした。

「試してみるのはどうだろう。そうしたらお互いにどうかわかるし」
「………………は?」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。
試すとは何を。
呆けてしまったモブリットの頬を、ハンジの手が緩く包み込む。
吐息が唇にかかる距離で、ハンジはじっとアンバーの瞳の中にモブリットを映している。

「キス、上手いんだろう?」
「う、上手いかどうかなんて知りませんよ!?」

下手すぎて気持ち悪いと言われたことがないというだけで、そもそもそこまで言われることも稀だろう。――ではなく。そういうことではなくて、近い。立ち上がってでも離れた方がいい距離だ。ハンジは酔っている。だから悪ノリしているのだろう。わかっている。頬に触れる指先の拘束は簡単に振り払ってしまえる程度だ。けれど、モブリットは椅子に根が生えてしまったかのように動けなかった。

「だから一回してみようよ。どうだったか教えてあげるから、モブリットも教えてくれればいいだろう?」
「な、何を言っ」
「嫌だ?」

ハンジが窺うような表情になる。
近い。近い。
ハンジの指がモブリットの下唇に触れて、その輪郭を確かめるようにそっとなぞった。

「いっ、嫌とかそういう問題では、ちょ、ま――」

指の上から唇が途中で言葉を覆う。
合わせただけの唇の隙間から指が抜かれ、一度、二度。ハンジが軽く押しつけては離すを繰り返した。
それからゆっくりと離されて、唇を合わせる為に傾けられていたハンジが首を元に戻す。

「――次、どうすればいい?」
「つ、ぎって……」

甘さだけを感じる接触はほんの僅かだ。けれども近距離のままで囁かれた吐息が、するりとモブリットの唇の隙間に入り込んだ。その後を追うように、ハンジが薄く口を開けて、またモブリットの唇に指先だけを触れさせる。

駄目だ。
止めさせないと。
ハンジ・ゾエは酔っている。

これ以上をするつもりなら、副長として、毅然とした態度で拒まなければ――

「口。どのくらい開けるのが、モブリット、好き?」
「そ――ン」

教えてよ、と吐息で囁かれたのと、唇が再びモブリットに触れたのは同時だった。
ちゅ、ちゅ、と甘く上辺だけを食むようなキスに瞬くモブリットを、時折薄目で確認するハンジの瞳が潤んで見える。焦れるような、求めるような揺らめきが、モブリットの張りつめた理性の糸をジリ、と焼いた。

(駄目だ)

理性の警告を嗤うように、意志を無視してモブリットはハンジの腰に当てていた片手を背筋へと上げた。
と、ハンジの身体がぴくりと動く。

「――っ」

たったそれだけで、モブリットはつい、ハンジの身体を抱き寄せていた。
離さないように腰を抱く腕とは別の手で、背中を撫で上げ、後頭部を乱暴にかき回し、ハンジがしているように頬を包んで、親指で唇を下げさせる。

「あ、モブ――」
「このくらい」

開けて、という言葉を最後まで言わずに、モブリットはハンジの口腔にぬとりと舌肉を差し込んだ。モブリットの頬に添えていたハンジの手が震えてずるりと下に落ちる。どうにかシャツを掴んだハンジに構わず、モブリットは一度角度を変えて、更に奥へと遊ばせた。
理性の焼き落ちた音が、鼓膜の奥に響いていつしかまるで聞こえなくなる。

「ん、ぅ――はっ」

重なる唇の隙間から、ハンジのあえかな吐息が漏れる。その度に音がするほど舌を絡めて、唇を吸い、歯列に舌先を宛がって、それからまた深く深く唇を合わせる。

「……はっ、ンジ、さん、舌、逃げすぎです」
「だ、だって……ぁ、んんっ」

頬を包んでいた右手の人差し指で耳朶を弄れば、ハンジが堪えきれずに声を上げた。少し大きく開いた口から、ちゅう、と舌先を吸うように刺激して、モブリットは鼻を優しく擦る。

「そう、です――……出して」
「ふっ……ぅンッ。ん、ん」

迫られていたはずの体勢から、いつしかモブリットの方がハンジに乗り上げるようにして椅子に片膝をついていた。
モブリットにすがるハンジの腰を支えて、けれども唇へ攻める手はまるで緩めない。
生温い吐息が混ざり合い、モブリットに言われるがまま必死に動かすハンジの舌先の乱暴さに、胸の奥から止まない情動が押し寄せる。
と、ハンジの身体がふいにガクリと後ろへ下がった。

「ん、ふ――……っう、わ!」
「あ、っぶない!」

モブリットは咄嗟にハンジを引き寄せた。

「ビックリした……」

抱き寄せた腕の中で、ぽそりと声を漏らしたハンジに、モブリットは我に返った。
しまった。夢中になりすぎて、椅子の限界を忘れていた。ただでさえ酔っている相手に乗り上げるだなんて何てことを。

「す、すみません……」

今更ながらの謝罪を口にして、モブリットはハンジの様子を覗き込んだ。
彼女の酔いは醒めただろうか。そうだとしたら今までのこれはどうしたら。

(あ。まだ赤い、な……?)

きゅっとしがみついた格好で、抱き寄せられたモブリットの膝に乗っているハンジの顔は常より赤い。まだ、酒は残っているのか。確かめるように頬に手を置けば、体温もずいぶん高かった。
室内の明かりにハンジの唇が妖しく光り、指先でその残滓を拭う。
ハンジは僅かに肩を上下にさせて息を整え、見つめるモブリットを睨み上げた。

「……うそつき。キス、上手いだろ……っ」
「あなたは……ええと……」

そういえば、互いに教え合うという約束だった。酔った上での一方的な話だったが、律儀な報告をしてくれたハンジに評価を返そうとして、モブリットは咄嗟に言葉を飲み込んだ。上手い下手でいうなら、それは。

「くっそ! 下手だって言うんだろ!」
「いや、そこまではまだ言ってませんって」
「まだって!」
「あ、いえ……」

ハンジがむうっと頬を膨らませてモブリットを睨む。
大手を振って技術面を教えられるほど上手いとは思っていないし、相手の好みもあると思う。ただ、酒の勢いで誘ってきたくせに及び腰な舌の動きを見せたハンジが、手慣れているとは思いにくい。
今更無駄な誤魔化しをするのは、いくら酔っているとはいえハンジが余計怒りそうだ。
そう思って言葉を選んだつもりだったが、どうやら余計怒らせてしまったようだった。

「あの、でも俺は、その、すごく良かっ――」
「余計感じ悪いなそれ」
「これは本当です!」

ふん、とそっぽを向いて膝から降りようとするハンジを、モブリットは思わず引き留めた。
入れた舌に戸惑うように逃げる姿勢は上手いキスではないと思う。けれど執拗に迫ってしまったモブリットに、必死に絡め返そうと蠢かせる様は、信じられないくらい煽られた。それに何より、モブリットにはどうしてもハンジの全てが甘く感じて、つい、もっと、と貪ってしまった自覚はある。
けれどモブリットの言葉をどう受け取ったのか、ハンジは腰を引きながら、モブリットの胸に手を当て突っぱねるようにして肘を伸ばした。

「ならもう一回出来るか? したくないんだろどうせ!」
「したいです!」
「はぁ!? 嘘い――んむっ!」

酔っ払いを相手に、本気の会話の応酬など意味がない。
わかっているはずなのに、モブリットはハンジの腕を無視して唇を奪った。驚くハンジの目を無視して、再び自分の膝の上に座らせる。
今度は後ろに倒れないよう、しっかりと腰を捕らえて抱き寄せて――
ぎゅっとシャツを握っていたハンジの手が、モブリットの頬に添えられた。
角度の変化に合わせて耳朶と首筋を何度も何度も往復する。

「んっ、きもちい……ね……」

呼吸の合間に出来た隙間でそんなことを呟くハンジは反則だ。
酔っ払い相手に自分は何をやっているんだ。誰かに見られたら。いや、それ以前にハンジはどういうつもりで自分をキスの相手に選んだのだろう。本当に上手い下手を判じたいだけでそれ以上の気持ちはなかったりするのだろうか。

(俺は――……)

抱きしめる体温が近くて、絡める舌先が甘く痺れて、震える睫毛の一本までこんなに愛しさが溢れてしまっているというのに。
酒の失敗など今までなかった。これからもたぶんないだろう。
だけどこれは失敗だろうか。
ハンジは随分酔っている。最初の会話の段階でアンバーの瞳は濡れていた。ハンジのいつもの香りに混じって、アルコールが強く香る。いつもの戯れが、つい悪ノリに興じてしまったということだろう。

「ん、ふ……っ」

ちゅ、ちゅ、と交わす舌の動きが淫らに慣れて、ハンジの方からモブリットの口腔へと侵入もされて。受け入れて、絡めて、まだ少したどたどしい動きで吸われた舌を動かせば、ハンジの身体がぴくりと跳ねる。
受け入れてはいけなかった。
飲み過ぎですよ、と注意して、いつものように部屋まで送るべきだった。
酔っ払いの戯れ言に、付き合いのキスで返せるほどの軽い気持ちではなかったというのに。

「――はっ……モ、リット、酒くさい。飲み過ぎ……」
「あなたも、っ、酒くさい、ですって」
「ンッ、ふぁ、ん……酔いそ……」

ぬるり、とモブリットの口腔からハンジの舌が引き抜かれた。
後を追うようにして出した舌先から、二人の間に糸が引かれる。
モブリットに乗り上げているハンジの指が唇を拭い、荒い吐息を肩で逃がしながら、そのままずるずるとモブリットの胸に凭れ掛かった。

「っ、も、酔ってるじゃないです、か」

胸の上でハンジの呼吸のリズムを感じる。
自分で乱してしまった髪を撫で、背中をさすり、顔のすぐ横にあるハンジの耳に荒い息で吹き込むと、ハンジは「うん」と小さな声で呟いた。

「うん……酔ってる……ごめん……」
「ハンジさん?」

顔を上げないハンジからは、強いアルコールの香りがする。
呼び掛けにも答えない様子にモブリットは拘束を緩め、そっとハンジの顔を覗き込んだ。

「…………………………寝た?」

目蓋を下ろしたハンジから反応はない。
先程よりもよほどピタリと体重を掛けてくるハンジに、モブリットは呆然と呟いてしまった。
起こすべきか。いや、だが、でも。

(起こしてどうするつもりだ。覚えてますかと聞く? 楽しかったねとか笑われたら全然笑えない……)

ありそうな返しを想像して、モブリットは深い息を吐いた。

(……覚えていなかったら? いや、あるよな。あるある。ここまで酔ってるハンジさん初めて見たし)

よしんばこの出来事をハンジが忘れているのなら、上手く説明出来る自信がモブリットにはまるでなかった。

(あなたが迫ってきたから、酔ってるのはわかっていたけど、我慢出来ずに二回しました……? いや、言えないだろ……)

驚かれる。だけならまだしも、引かれるか軽蔑されるか笑われるか。
いずれにしても想いの最後には刺激が強すぎて、しばらく立ち直れそうにない。

「どうすればいいんだ……」

急速に残酷な現実と向き合いながら、モブリットは酒のせいにして流された自分を今更ながらに呪ったのだった。


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